内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 譲渡・転貸 】

建物の無断転貸
2年前、東京支社長に栄転することになりました。その際、持ち家を貸すことにし、不動産会社に依頼しました。不動産会社から紹介された人は一流企業に勤める夫を持つ夫婦で人柄も良さそうだったため、その人に貸すことにしました。家賃も遅れることなく銀行口座に振り込まれていたので、安心しました。しかし最近近くを通る機会があり持ち家をのぞいたところ、表札が知らない名前になっていて、まったく知らない人が住んでいるのです。事情を聞いたところ、私が家を貸していた人の知り合いで、その人も転勤となったため、家を借りたというのです。私としても家賃がきちんと入ってくる分には不満はないのですが、素性も知らない人に貸すのは不安です。不動産会社に聞いたところそこまでは関知できないと言われました。
こういった又貸しは許せないと思うのですが、今住んでいる人に出ていってもらうこは可能なのでしょうか?また又貸しをした人や、不動産会社に対して損害賠償なり何かを請求することはできるのでしょうか?
相談者: 西宮市の48歳の男性
今回のケースのように、建物の借主が無断で建物を他人に又貸ししてしまったというような場合、無断転貸にあたり、民法の原則としては現在住んでいる人に出て行ってもらうことができます。多分、あなたのの賃貸借契約書にも、他人に又貸ししてはならないという条項があると思います。ただ、借りた人が亡くなって子供が住んでいるというように利用状況に変化がないとか、家賃が滞りなく支払われているなどの事情がある場合には、出て行ってもらうことができない場合も考えられます。
民法は無断での又貸しについて、612条で「賃貸人は契約の解除をなすことを得」としており、借主との間の賃貸借契約を解除したうえで、現在住んでいる人に出て行ってもらうことができます。また、その場合、貸主は賃賃借契約を解除しなくても、無断で建物の又貸しを受けた人に出て行ってくれということができるという裁判例があります。
ただ、この612条に基づく契約の解除や明け渡し請求は、裁判所において一定の制限がなされています。具体的には、貸主と借主の間の信頼関係が失われたというような事情がないと解除ができないとされているのです。そして、信頼関係が失われたかどうかは建物の利用状況の変化(例えば、居住用の建物を店舗として利用しているとか、建物内を改装しているとかなどです)、また、家賃の支払い状況などを総合的に判断することになります。
あなたの場合、家賃がきちんとはいってきているのですから、建物の利用状況がひどくなったなどの事情がないと、出て行ってくれということができない場合もないわけではありません。
次に、又貸しをした人に対する損害賠償なり何かの請求ですが、これも賃貸借契約の解除が認められるような状況でないと認められません。借主は賃賃借契約によって建物を利用する権限をもっています。そして、信頼関係が失われていないような場合には、又貸しもなお建物の利用権限の範囲内であると考えられるからです。
逆に、信頼関係が失われたと判断された場合には、借主は契約の内容とは異なった利用方法をしていることになるわけですから、契約違反を理由として損害賠償請求をすることができます。
また、不動産会社に対しては信頼関係が失われたかどうかにかかわらず、損害賠償の請求はできないと考えます。
不動産会社は、あなたと借主との間での賃貸借契約を結ぶための仲介をするのが仕事であり、賃貸借契約が成立した時点で義務を履行したことになります。
ですから、その後に無断で又貸しをされたからといって、不動産会社にそのことで損害賠償の請求をすることはできません。
ただ、不動産会社が建物の管理まで委託されていたような場合には、管理義務を履行しなかったということで、又貸しのために被った損害の賠償を請求することができると考えます。
あなたとしては、現状の利用状況に不満がないのでしたら、借主と連絡をとって事情を確認し、借主と現在居住している人との間で、あなたがこの家に住む必要がでてきた場合に、スムーズに明け渡してもらえるように書面で確認した方が良いのではと考えます。
出典: 土曜日の人生相談(1998年9月12日放送分)
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