内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 男女差別 】

女性部下の身を案じて残業させない。男女均等法違反なの?
私の悩みを聞いてください。
私は大阪市内の商事会社で課長を務めています。仕事は大変忙しく、私と部下は週の半分ほどは残業でかなり遅くなってしまうほどです。
ところで、私の部下の中に非常に優秀な女性がいるのですが、私は、女性が帰りが遅くなると危険だと考え、彼女には残業をさせないようにしていました。ところが、彼女は「私に仕事をさせないのは男女差別にあたる」と私を非難してきたのです。
「女性が遅くまで残るのは危険だから」と説明したのですが、彼女は「女性だから、ということで仕事をさせてもらえないと昇進や給料にも差しつかえる。男性と同じ扱いにして欲しい。このままでは男女均等法違反だと訴える」と強硬に主張します。
私としてはかえって心配の種が増えるので、できれば残業はさせたくないのですが、法律上のことを考えると、彼女の希望通り残業をさせた方が良いのでしょうか?
相談者: 兵庫県在住の男性(44才)
上司としての気苦労はよくわかりますが、彼女の希望通り残業させてあげることが法律上の要請なのです。ご存知の通り、男女雇用機会均等法第6条は、「配置、昇進、及び教育訓練について、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない。」と規定しています。
一般的に「配置」とは仕事の内容や勤務場所をいうので、彼女に残業をさせないことが配置について差別的取扱いをしていることになるとは直ちに言えませんし、また、あなたは、女性を差別するつもりではなく彼女のためにしていることであるので第6条には違反しないとの考えも成り立つでしょう。しかし、残業の有無や勤務時間が将来の配置や昇進に影響を及ぼすのが通常であり、会社の方で、それはないと言っても説得力がありません。また、このような考え方は、女性を男性と対等の1人の職業人として評価する事ができず、女性はか弱いものという固定的意識に根ざした一方的なものにすぎないとも言えます。
均等法の日的は、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図る」ことにあり、その基本的理念は、「女性労働者が性別により差別されることなく」「充実した職業生活を営むことができるようにすること」にありますから、やはり、彼女を残業から排除することは均等法違反となります。
最近、「ジェンダー」という言葉をよく耳にします。生物学的な性別ではなく、社会的、文化的に形成される性別であり、ジェンダーによる差別的取扱いをなくすことがこれからの社会に必要とされています。日本でも「男女共同参画社会基本法」が制定されており、その3条には「男女が性別による差別的取扱いを受けないこと」と規定されており、これは差別的な意図に基づく差別だけではなく、一般的にジェンダーによる差別を禁止しているといえます。雇用機会均等法というのは、男女共同参画社会を実現するための雇用分野における法律であり、これからは、単に法律を守るということだけではなく、社会のあり方についての考え方や意識そのものを変える必要があるのではないでしょうか。
では、あなたはどうすべきなのでしょうか。彼女を全く男性と同じように残業させ、特別の配慮をしないと割り切ってしまうこともひとつでしょう。
しかし、彼女の帰りが非常に遅くなったときは、タクシー帰宅で会社の補助がでるようにしてあげたり、また、チカン防止グッズ等を提供してあげるというように、女性をひとりの人格として尊重したうえで女性として配慮するというのも男女共同参画社会における男のやさしさといえるのかもしれません。
出典: 土曜日の人生相談(2002年2月23日放送分)
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