内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 売買手付 】

どうしても亡夫が契約した自動車を購入しなければならないの?
車の購入契約の解除についてお聞きします。
私の実家の父が先月亡くなりました。急に体調を悪くして、入院し、すぐ逝ってしまったので、それから遺産の整理など、大変だったのですが、ようやく落ち着きました。
ところが先週になって、父が生前にひいきにしていた自動車販売会社から連絡が入りました。父が注文していた外車が入荷したので納車したいというのです。びっくりして話を聞いてみると、車好きだった父は、半年前に、希少な外車を手付け金も払って注文しており、それがようやく入荷したそうなのです。
車は400万円で、手付けは既に100万円払っているとのこと。父がいなくなって運転しない母だけになってしまった今、車は必要ないので、購入をキャンセルして、手付けも返してもらいたいところなのですが、自動車販売会社は「注文を受けて輸入した以上、買い取ってもらわないと困る」といいます。
そこで伺いたいのですが、こういう場合、手付金を返してもらえないのでしょうか。それどころか、あと200万円払って車を購入しなければならないのでしょうか?
相談者: 大阪府在住の女性(48才)
1.結論として、外車の購入契約を解約して手付け金100万円を返還して貰うことはできず、残金300万円を支払って、その外車を購入せねばならないと思われます。その理由をご説明します。
2.お父さんが亡くなられたことにより、相続が発生しています。
相続が発生すると、相続人は被相続人の全ての遺産、つまり資産と負債の両方を承継し、被相続人が契約関係にある場合には、その契約上の地位、つまり契約から発生している債権と債務を全て承継することになります。
本件の場合、お父さんは買主として外車購入契約を締結し、その履行が完了する前に亡くなっておられますので、ご相談者やその他のご相続人が、買主の地位、つまり代金支払いの債務と外車の引渡し請求債権をお父さんから承継することになります。
3.そこで、相続人が被相続人の債務を承継したくない場合、相続放棄をするという方法があります。しかし、相続放棄をした場合には最初から相続人でなかったものとして扱われますので、債務を承継しないですむというだけではなく、資産も一切承継しないことになります。
本件の場合、相続放棄をされると、残購入代金を支払う必要はなくなりますが、同時に、お父さんの財産を承継することもできなくなりますので、相続放棄をするか否かは慎重にご検討下さい。
4.次に、ご相談者がお父さんの買主の地位を承継された場合に、外車購入契約を解約することができるか否かが問題となります。
購入契約の中で、「いついつまでは無条件で契約を白紙解約することができる」といった解約権留保の合意がされていれば、その期限までは契約を白紙解約をして手付金の返還を受けることができます。しかし、そのような合意がない場合や、あっても解約期限を経過している場合には、契約を解約して手付金の返還を求めることはできません。
5.では、手付金を放棄すれば契約を解除できるでしょうか。
民法557条は、解約金が授受されている売買契約について「当事者の一方が履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄して契約を解除することができる」旨を規定しています。
本件の場合、売主である自動車販売会社は注文を受けた外車の手配をすませ、外車が入荷したということで、買主側に当該外車の引渡の連絡をしてきています。したがって、売主が外車販売契約の履行に着手していることは明らかですので、手付放棄による契約の解除もできません。
6.以上のように、本件の場合、法律上の権利として、契約を白紙解約して手付金を返還して貰うことはもとより、手付金を放棄して契約を解除することもできません。法律的には、残代金300万円を支払って、当該会社を引き取らねばならないことになります。
本件については、話し合いによる解決、つまり自動車販売会社に事情を説明して、希少な外車ということで好みの問題もあり簡単には見つからないかもしれませんが、他の買主を探してくれるよう、その上で契約を合意解約してもらえるよう交渉をすることをお勧めします。
出典: 土曜日の人生相談(2001年12月8日放送分)
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