内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 プライバシー 】

社内にある私専用の机の中を勝手に見られた!
会社内でのプライバシー侵害についてお聞きします。
私は大阪市内の商事会社で経理の仕事をしています。先日、私が夏休みをとって会社を休んでいるときに、A部長が経理関係の記録書類を探して、私のデスクの鍵のかかっている引き出しを、合い鍵を使って勝手に開けてしまったのです。
実はその引き出しには、私がみんなに内緒で交際中の同じ会社のBさんと私のツーショット写真も入っていたのですが、A部長はその写真を見つけると、面白おかしく社内に言いふらしてしまいました。おかげで、休み明けで出社した私はみんなに冷やかされ、Bさんとも気まずくなってしまったのです。
私としては、A部長のやったことが許せないのですが、抗議したところ「社内の備品を管理職が自分の判断で開けたのだから、何ら問題はない。私物を入れている方が悪い」と、涼しい顔なのです。
そこで伺いたいのですが、会社の引き出しなどに私物を入れていて見られても、プライバシーの侵害とはならないのでしょうか?この場合、悪いのは私なのでしょうか?
相談者: 兵庫県在住の女性(25才)
今回の問題は次の2つの事項に分けて考える必要があります。
1)A部長が勝手に引き出しを開けたこと。
2)A部長があなたの引き出しからあなたとBさんのツーショット写真を見つけ、2人の交際の事実を面白おかしく言いふらしたこと。
1)まず、会社の引き出しをA部長が勝手に開けたことについては仕方無い行為といえるでしょう。
デスクは会社の備品であり、従業負に貸与されているものです。備品に名前を書いたり、従業員個人が専属的に使っていたとしても、それは会社の所有物なのです。
退社するときに、持って帰ることができないことからも分かりますよね。従業員は会社の備品については業務に必要な範囲で使用すること許されているにすぎません。
だから引き出しの中についても業務に必要な範囲で使用できるにすぎず、私物を保管することはできないのです。A部長は業務に必要な書類を探し、あなたの使用している机の引き出しを開けた行為を責めることはできません。
2)問題は、あなたとBさんとの写真を見つけたA部長が、面白おかしく交際の事実を社内に言いふらしたことです。つまり、あなたの個人情報を得たA部長がそれを公表したことがプライバシーの侵害にあたり、なんらかの法的措置をとることができるかどうかということです。
プライバシーとは「私生活をみだりに公開されない権利」のことです。
一般的に、プライバシーの侵害が認められるには、私生活上の事実の公開があること、それが一般には未だ知られていない事実であって、本人が公開を欲しない事実であること、そして公開されることによって本人が精神的苦痛を受けること、が必要とされています。
プライバシーの侵害として民法上の不法行為(709条)が成立した裁判例は少ないのですが、裁判例は保護すべきプライバシーか否かの判断基準は、「一般人の感受性を基準にして、私人の立場に立った場合、公表されることを欲しないであろうと認められる事柄であること」が必要であるとしています。
今回の事例では、あなたの私生活上の事実を公開されています。しかし、それが、不法行為を構成するプライバシーの侵害であったと裁判で認められるには一般人の感受性を基準にしなくてはなりません。
過去に、不倫関係を公表されたことを理由にプライバシー侵害を認めた裁判例もあります。あなたの場合は単に交際関係を公表されただけなので一般人が公開を欲しない場合にあたるかどうかは微妙です。一般的には交際を公表されたことがプライバシー侵害にあたるとは考えられませんが、社内に公開されることにより職場での人間関係にマイナス影響が大きいのであれば、公開を欲しない事実にあたり、プライバシー侵害になる可能性もあります。
余談ですが、芸能人やスポーツ選手といった公衆に自己を曝す職業を自らの意思で選択した人なら、一定範囲でプライバシーの権利の一部を放棄したものとみなされる「著名人の法理」というものがあり、プライバシー侵害が認められないケースもあります。
最後に、他人のプライバシーを公表することに合理的理由がなければ、民法709条の不法行為が成立し、あなたはA部長に対して、あなたが受けた精神的苦痛についての慰謝料請求ができることとなります(民法710条)。
出典: 土曜日の人生相談(2001年10月27日放送分)
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