内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 預貯金 】

窓口に来た人の身分確認もせずに預金を下ろした銀行の責任
銀行の預金者確認の責任についてお聞きします。
先日、実家に泥棒が入り、銀行の預金通帳と印鑑を盗まれてしまいました。泥棒はすぐ銀行に行きその通帳と印鑑を使って、預金を全額おろしてしまったのです。「父が病気で入院したのでお金が要る」と言っていたそうで、まんまと360万円を盗んでいってしまいました。
泥棒に入られたこと自体も腹立たしいのですが、私としては銀行が泥棒の言うことを信じて預金をおろしてしまったことが納得できません。男は名前を書くときに、名前の漢字の一部を間違っていたのに疑いもせず、通帳と印鑑を持っているというだけで、簡単に信用してしまい、当人や家族の身分確認もしなかったのです。
結局銀行からは謝罪もないのですが、こういう場合、銀行の対応ミスの責任を咎めることはできないのでしょうか?
相談者: 奈良県在住の女性(35才)
1.一般的に預金の払い戻しにつきましては、銀行が預金通帳を確認し、預金の払い戻し請求書に押捺されている印影と銀行に届けられている印影を照合して同一であることの確認がされている以上は、たとえ預金通帳と印鑑を盗んだ泥棒に預金が払い戻されても、原則として銀行にとっては有効な弁済であると認められ、銀行は責任を免れます。
但し、これは原則であって特別に銀行に過失(注意義務の違反)があるような場合には、例外的銀行は免責されない、したがって預金者が銀行から預金を支払ってもらえる場合もあります。
2.今回の相談の場合、次のような特別の事情があります。
第1に、女性名義の通帳であるのに男が払い戻しを受けています。
第2に、男は名前を書くときに預金者の名前の漢字を一部間違っています。
第3に、男は「父が病気で入院したのでお金が要る」と言って360万円もの大きな金額をおろしていますが、普通は病院に入院してすぐにこのような大金が必要であるとは考えられず男の応答に不審な点があります。しかも男は預金の全額をおろしていて通常の預金の払い戻しとは明らかに異なっています。
3.さて、このような特別の事情のある場合にも、銀行の預金の払い戻しは有効かどうかですが、まず、この預金が定期預金であってそれが満期前であった場合、このような満期前の定期預金の場合は銀行には調査義務が認められますから、これを怠った銀行の預金払い戻しは有効な弁済とは言えないでしょう。
この預金が普通預金の場合は微妙なところです。裁判例では女性名義の通帳を盗んだ男が預金の払い戻しを受けたという1番目の事情がある場合でも、銀行にとっては有効な弁済であると認めた例があります。また窃盗犯人が預金者の名前の漢字を一部間違って預金の払い戻しを受けたという2番目の事情のある場合でも銀行は責任を負わないとした裁判例もあります。したがって1番目と2番目と3番目の事情がひとつづつあるだけの場合は銀行に責任がないとされる可能性は高いと言えます。
しかし今回の相談のように特別の事情が3つ全部重なっているのに、銀行が何の調査もしないで預金を払い戻してしまった場合は、銀行に注意義務を怠った過失がある言われても仕方がないとも言えます。したがって銀行の預金払い戻しは有効とは認められず、通帳を盗まれた預金者は銀行から再度預金の払い戻しを受ける事が出来る可能性があると思われますので、銀行と交渉してください。
4.なお預金通帳と銀行印は別々の場所に保管しておくべきです。また預金通帳や印鑑などが盗まれたらすぐに銀行に連絡して泥棒が払い戻しを受けられないようにしてください。銀行に連絡したのに銀行のミスで預金の払い戻しがされてしまっても、預金者は再度銀行から預金の払い戻し受けることが出来るのは当然です。
出典: 土曜日の人生相談(2001年9月15日放送分)
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