内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 夫婦の財産関係 】

離婚寸前の妻の浪費、夫に支払い義務は?
力ード利用代金の支払い義務についてお聞きします。
私と妻は結婚して3年になりますが、どうも気が合わなくてケンカすることも多く、2ヵ月ほど前から別居しています。離婚の相談を始めていますが、お互いの言い分が食い違うばかりで、なかなか話は進みません。(なお、子供はいません)
ところが、力ード会社から請求があったためにわかったのですが、先月、妻が私の口座から利用代金の引き落としがされる「家族向け」のクレジットカードを使って、勝手に買い物やキャッシングをしていたのです。
私が怒って電話をすると「なかなかあなたが離婚の条件に応じてくれないので、当面の生活のために家具を買ったり、生活費として力ードローンを利用した」などと言います。
私としては、彼女が勝手に使ったお金など払いたくはないのですが、友人は「離婚成立前は家族だし、生活のために家族が使ったお金は夫に支払義務があるのではないか」というのです。
私はこの力ード利用のお金を払わなくてはならないのでしょうか?
相談者: 兵庫県在住の男性(33才)
1.クレジットカード契約について
(1)クレジットカード契約については、加入時において、クレジットカード会社と利用者との間で、クレジットカード会社の約款にしたがって、カードを利用することで合意しています。
家族カードは、カードに記載されている名義は、利用者(契約者)の家族名義かもしれません。しかし、クレジットカード会社は利用者(契約者)本人の信用を元に(利用者本人の財産状態を主として審査して)、家族について、クレジットカード契約を締結していることが通常です。
したがって、あくまでもカードの支払義務は、クレジットカード会社の約款上、利用者(契約者)本人にあるとされるのが通常です(詳しくは、カード加入時にもらっている約款内容を確認するか、クレジットカード会社に直接契約内容を確認してください。)。
(2)例えば、Aさんというカード利用者が、妻であるBさんに家族カードを渡していても、Aさんとクレジットカード会社C社との契約では、AさんはA及びBの両方のカード使用代金をC社に支払うことを約束しています(約款によっては、BさんもC社に支払義務があることを定めているものがありますが、Aさんの支払義務を免除している約款はありません。)。
したがって、AさんはC社からの代金請求を拒むことはできません。
(3)Aさんが、Bさんのカード使用代金を支払いたくないのであれば、Bさんにカードの返却を依頼し、Bさん自身であらためてクレジットカード会社と契約してもらえば、Aさんがカード代金の支払義務を負うことは原則としてありません。
万一、Bさんがカードを返却することを拒んだ場合には、Aさんにおいて、C社に紛失届等を出して、Bさんのカードが使用されても支払わない措置を講じる必要があります。もちろん、かかる手段をとる場合には、Bさんにもその旨通告しておかないと、Bさんがクレジットカード詐欺の疑いを受ける可能性もありますので、ご注意ください。
2.日常家事債務について
(1)ところで、例えば、上記の例の妻BさんがC社と新たにクレジットカード契約を締結し、自己のクレジットカードを取得して、使用した場合、夫であるAさんは一切Bさんのクレジット代金を支払う義務を負わないといえるのでしょうか。
この点、民法761条は、夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方もその債務について連帯責任を負う旨定めています。
したがって、妻が、クレジットカードを使って、お米を買ったというような場合には、夫にも米の代金の支払義務が生じる余地があります。
(2)もっとも、本件では、夫と妻が2か月ほど前から別居しています。このように、夫婦関係が破綻状態に陥っている場合にも、かかる規定が適用になるのでしょうか。
この点については、長期間別居し、生計を異にし、夫婦の共同生活が破綻していた場合には、「日常家事」はありえないとして、夫婦の一方の債務を他方に負担させることを否定した裁判例があります。上記規定が、夫婦の家事の処理の便宜を図り、かつ、取引をした第三者を保護するために規定されていることから、破綻している夫婦にまで、このような規定を形式的に適用する必要がないからです。
(3)本件では、別居後、2か月くらいとのことですから、仮に、別居中の妻が、お米をクレジットカードで買った場合、夫がその債務を支払う義務を負うかどうかは上記の裁判例からみて微妙なところです。2か月程度の別居で長期間別居しているといえるかどうか難しいところですが、妻が夫婦名の表札の上がっている自宅に依然住んでいて、夫が自宅を出て別居している場合などでは、第三者の保護の必要性もあり、日常家事債務として扱われる可能性もあると思われます。
3.本問の回答
本問では、夫は、家族カードを使用した妻のカード利用代金を支払う義務はあります。ただし、その理由は、別居中の妻が生活のために使ったから、夫が支払わなければならないのではなく、あくまで、クレジットカード会社に対し家族カードを申し込むに当たって、妻のカード利用分を約束したため、支払う必要があるのです。
出典: 土曜日の人生相談(2001年7月21日放送分)
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