内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 セクシャルハラスメント 】

どこまでなら「セクハラ」じゃないの?
セクシャル・ハラスメントのことで相談があります。
先日、取引先の社長が私の会社まで来られたので、応接コーナーで話をしていました。ちょうど近くに、先月中途入社してきた女性社員がおり、手が空いていそうだったので、「お茶を入れてくれる?」と頼むと、彼女は突然、「女性社員だからといってお茶くみさせるのはセクハラです」と言ったのです。私は女性だからといって頼んだつもりはなく、社長との話が途切れるのを避けたかったためにお願いしたつもりだったのですが、この発言をきっかけに、その後社長との会話も気まずいままに終わってしまいました。
つい最近も、彼女がうつ向きがちに頭を抱えてデスクに座っていましたので、「どうしたの?」と聞くと、「プライベートなことを聞くのはセクハラじゃないんですか?」と強い語気で言われてしまいました。これは果たしてプライベートと言えるのでしょうか?これに近いことが私だけでなく、他の多くの男性社員にもあるようなんです。もちろん仕事で彼女と毎日関わりますし、やりにくくて仕方ありません。
「セクハラ」とは組織での立場の強さを利用して性的関係を求めるものと解釈していますので、彼女はどうも「セクハラ」という言葉を勘違いしているようにしか思えないのです。このまま彼女とうまくやっていくには彼女の言い分を鵜呑みにするしかないのでしょうか?こんな出来事が続く場合、どのような方法がとれるか教えてください。
相談者: 匿名希望の男性(47歳)
1.セクシャル・ハラスメントとは
セクシャル・ハラスメント(セクハラ)とは、主として雇用の場において性的な言動によって、労働者の就業環境を害し、解雇されたり退職に追い込まれるなど雇用に重大な影響を及ぼす行為のことです。
もともと、「セクハラ」と言う概念は、米国において発展してきた概念であり、日本においても、約10年前くらいから徐々に認知され、平成12年の「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(雇用機会均等法)の改正において、新しくセクハラについての条文が新設されています。
同法21条によりますと、「セクハラ」という語は用いられていませんが、事実上、セクハラを2つに分類しています。
すなわち、1つは、職場において行われる性的な言動に対する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(対価型セクシャルハラスメント)、もう1つは、当該性的な言動により女性労働者の就業環境が害されるもの(環境型セクシャルハラスメント)とされています。
2.対価型セクハラの典型例
まず、対価型の典型例は、権限を持つ上司から性的な要求を受け、これを拒否したところ、解雇されたとか、職場を異動させられたような場合です。
このように、労働者の意思に反する性的言動に対する反応により、女性労働者が労働条件上の不利益を受ける場合には、明らかに、対価型セクハラにあたることになります。
3.環境型セクハラの典型例
次に、環境型の典型例は、職場にヌードポスターを貼ったり、性的な噂を流す等により、当該女性労働者が苦痛不快を感じ、職業能力を十分に発揮できないような場合です。
性的な言動には、性的な冗談やからかいや、わいせつな本を目に触れやすいところに放置する場合も含まれます。
4.セクハラの判断基準
「セクハラ」に当たるか否かは、「職業生活に関連して、本人の意思に反し、看過できない不利益や被害が生じるか、生じようとしている」ということが一応の判断基準となります。もっとも、セクハラを受けている女性本人がセクハラと感じなくても、平均的な女性(第三者)から見て、不快と思われる場合にもセクハラに当たることはありえます。
5.本問の検討
(1)お茶汲みについて
本件では、相談者は、当該女性を「女性だから」という理由で、お茶汲みを依頼したわけではなく、たまたま近くに手が空いてそうな社員がいたのでお茶を依頼したにすぎないとのことです。したがって、セクハラには該当しないと思われます。
もっとも、「お茶汲みは女性の仕事」と決め付けて、いつも、女性社員の意に反して、女性社員にのみお茶汲みを依頼しているというような場合であれば、「環境型セクハラ」に当たる可能性はないわけではありません。
したがって、お茶汲みについては、セクハラに密接した問題「グレーゾーン」になる可能性があることを十分認識しておくべきです。
(2)「どうしたの」と体調を聞いた点について
本件では、当該女性社員がうつむきがちに頭を抱えて座っていたために、体調をたずねたところセクハラだと主張されたとのことです。ただ、男性社員から、体調を尋ねられると、「生理」等に関連づけて、性的な質問であると受け止めて苦痛不快に感じる女性社員は多々いると思われます。
したがって、相談者がいつも女性の顔色をうかがって、体調の質問ばかりしているというような場合には、相談者自身が気づかなかったとしても、「環境型セクハラ」に当たる恐れも出てきますので注意が必要です。
(3)以上からしますと、相談者の行為は、いずれも直接はセクハラに当たらないと考えます。ただ、相談者がセクハラに当たらないと考えて行っている行為(お茶汲みや体調の質問)が当該女性社員にとってはセクハラと感じてしまう可能性のある行為であることも十分認識する必要はあると思われます。
いずれにしても、当該女性社員が頻繁にセクハラを主張し、かえって、職場環境が悪化しているのであれば、セクハラを防止するために配慮すべき義務を負っている事業主としては、このような事態を放置するのではなく、女性社員から相談苦情を聞く担当者(女性担当者をふくむ)を決めることはもとより、いかなる行為がセクハラに当たるか否かを相談者を含む男性社員の側からも聴取する苦情処理制度を設けて、双方の言い分を聴取する必要があると思われます。
そして、どのような行為が女性社員にとってセクハラと感じるのか、相互に協議しあう環境を作るように努力する必要があります。
出典: 土曜日の人生相談(2002年5月25日放送分)
戻る