内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 返還 】

知り合いに無償で貸していた家。いつでも返還求められるか?
住宅の賃借のことで相談があります。
私には妹が1人います。私も妹も結婚して家庭を持っており、それぞれ別に住居を構えています。
2年前に父が亡くなり、父が1人で住んでいた実家は住む人間が誰もいなくなってしまいました。その時、妹の夫の兄夫婦がその実家に住みたいと言ってきたのです。妹の夫の兄夫婦とは私と年齢も近く、趣味も合い、仲良くしていましたので、住居の管理と、土地家屋にかかる税金等は彼らが負担するということで住んでもらうことにしました。
しかし先日妹が離婚してしまい、現在も私の家に身をおいています。妹は「父の住んでいた家に住みたい、今住んでいる兄夫婦はもはや他人になってしまったから立ち退いてもらいたい」と言っています。私も自分名義の家に賃料なく、他人を住まわしていることになるので、妹の要求を聞いて兄夫婦に立ち退くように話をしましたが、彼らは住居を移そうとしません。今までの関係もあるので、その後どうしていいかよく分かりません。
この場合、兄夫婦に立ち退いてもらい、実家に妹を住まわせることができるでしょうか?
相談者: 神戸市在住・匿名希望の男性(37歳)
1.まず、ご相談の内容をまとめます。あなた方の実家にお父さんが独りで住んでおられたが、2年前にお父さんが亡くなられ、妹さんの夫の兄夫婦がその家に住んでおられると。妹さんと夫が離婚したので、今回、その兄夫婦に立ち退いてもらって、妹さんを住ませたいが、法的に立ち退いてもらえるのかということですよね。
2.回答にあたっては、その家をあなたと妹さんが相続されたという前提でお話しさせていただきます。
現在、あなたと妹さんがこの家の所有者で、あなた方から兄夫婦にその家を貸していることになります。そして、兄夫婦は、住居の管理費と土地家屋にかかる税金等負担しているのみで、特に賃料をもらっていないということですから、この貸し借りの関係を、法律上は使用貸借と言います。家の貸し借りの関係でよく耳にするのは、賃貸借という言葉だと思います。使用貸借と賃貸借は、物を貸すという点は同じなのですが、賃貸借は有償(使用の対価を支払う)であるのに対し、使用貸借は無償(使用の対価を支払わない)である点が異なるのです。今回の家の貸し借りは、管理費と税金等しか負担してもらわず、使用の対価を特にもらっていないということですから、無償の貸し借り、すなわち使用貸借になります。
民法も595条1項で、使用貸借においては、「通常の必要費」は借り主が負担すると規定しています。必要費とは、目的物を維持・保存するために必要な費用のことです。
3.使用貸借は、無償で他人の物を貸してもらうのですから、賃貸借に比べて借り手の地位が弱いのです。お金を払って借りているわけではないのですから、常識的な結論ですよね。民法もこの常識に従った規定を置いています。今回問題となっている貸していた物の返還時期については、民法597条で規定されています。
まず、貸し借りの当事者で、返還の時期を定めている場合には、その時期が来れば返還してもらえます(民法597条1項)。
貸し借りの当事者で返還の時期を定めていなくとも、使用の目的を定めていた場合には、その目的に従った使用が終わった段階で返還してもらえますし、その目的に従った使用が終わっていなくても、使用をなすに足るべき期間を経過したときは返還するよう請求できます(同条2項)。
そして、当事者が返還時期も使用の目的も定めていなかったときは、貸し主はいつでも返還を請求できます(同条3項)。
4.今回ご相談の事例では、あなた方と兄夫婦との間で使用期間や使用目的を定めておられないようですから、あなた方はいつでも返還を請求できることになります。ただ気を付けていただきたいのは、使用貸借の場合には、通常全くの他人に貸すということは少なく、貸し主と借り主との間に親族関係など何らかの関係がある場合が多いので、事例によっては、即時立ち退きの請求は権利の濫用として認められないこともあることです。
今回ご相談の事例では、妹さんが離婚され親族関係もなくなったのですから、即時立ち退きを制限されることもないでしょう。
5.以上ご説明させて頂いたとおり、質問に対するご回答としては、兄夫婦に立ち退いてもらい、実家に妹さんを住ませることができるということになります。
出典: 土曜日の人生相談(2002年6月8日放送分)
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