内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 解雇・リストラ 】

退職届。事情変更で撤回できる?
退職についての問題で相談があります。
私はある会社のA支社に勤めていました。A支社は実家から遠く、堂々B支社への転勤を希望していましたが、かないませんでした。
私的な都合でどうしても実家にいなければならず、これ以上A支店で勤務するのは辛いと判断し、仕方なく転職を選んで辞表を提出したのです。辞表は3ヶ月前に提出しなければならないので、その期間は勤務しながら、次の職場を探そうと思っていたのですが、なんとその1ヵ月後にA支社が閉鎖されることになったのです。そしてA支社にいた全ての社員はB支社に移ることになりました。
私はA支社の閉鎖されるタイミングで辞めさせられることになり、転職先を探す時間がなくなってしまいました。現在無職になって困っています。さらに現在まで退職金も支払われていません。私は勤務地がB社になればその会社で働いてもよかったのに、この待遇はあまりにもひどいと思います。
私は、再び元の会社に勤めることができるでしょうか?また私に対して、会社の責任はないのでしょうか?
相談者: 兵庫県在住・匿名希望の男性(29歳)
1.ご相談に対する回答ですが、結論から申しますと、残念ながら再び元の会社に勤めることは難しいといわざるを得ません。
なぜなら、既に辞表を提出されているからです。
2.それでは、具体的に検討していきます。辞表の提出とは、「退職願」若しくは「退職届」を提出されたとの趣旨であると思いますが、厳密に言いますと、「退職願」と「退職届」は異なります。「退職願」は、従業員側から企業に対してなされる労働契約の合意解約の申し入れであり、「退職届」は、従業員側からなされる労働契約解約の一方的な意思表示です。簡単に言うと、「退職願」は辞めさせてくれとの申し入れで、「退職届」は辞めるという意思表示です。会社側の承諾を要するか否かで違いが生じます。
ただ、いずれにしても、相談者の方から会社に対し、「労働契約を終了させたい。」との意思を表示したということになります。
3.それでは、このような意思を表示された会社側としては、意思表示に対しどのような対応をするのでしょうか。
雇用の解約については、民法627条で「雇用は解約の申し入れの後2週間を経過したるによりて終了す」と定めています。この規定からすると、相談者が辞表を提出してから2週間で雇用契約は終了することになります。ただ、会社によっては、就業規則において、雇用契約の解約の申し入れ期間(予告期間)を延長している会社もあります。相談内容のなかに、「辞表は3か月前に提出しなければならないので、」との文言がありますから、相談者の会社では、3か月の予告期間をおいて辞表を出すことが就業規則で定められているのでしょう。
このような就業規則がある場合、予告期間が3か月に満たない形式で提出した辞表の効力如何という問題はありますが、その問題に深入りすると長くなりますので、相談者が3か月以上の期間をおいて退職する旨の辞表を提出したことを前提にお話しします。
この場合、相談者がその期間就業したあとに退職することが前提となっておりますから、その期間満了までは雇用を継続すべき、すなわち解雇できないようにも思えます。しかしこの3ヶ月という期間は会社の便宜のために、設けられたものであるので、残期間の給与を支払うのであればその期間を短縮して退職させることができます。そこで、相談者は、未だ残期間の賃金を支払ってもらっていないのでありますから、その賃金を支払ってもらうことはできますが、退職させたこと自体は有効です。
4.相談者は「勤務地がB社になればその会社で働いても良かったのに」と思いがあり、会社を辞めなくて済むなら辞めずに済ませたいとのことですが、これは、「退職願」「退職届」の撤回の問題です。
これについては、「退職願」が出された場合に「退職願」の撤回が許されるかについて判例があります(最判S62.9.18)。この判例は、会社が退職承認の手続きルールに則して判断し、必要な手続きがとられ承認がなされた時点以降は、会社の同意がなければ「退職願」の撤回はできないと判断しています。
相談者が提出したのが、「退職届」であった場合には、会社の承諾を必要としないのですから、会社に「退職届」を提出した以後は、撤回は許されないということになります。
本件で相談者が提出したのが「退職願」であった場合でも、会社は既に「退職願」の承認をしているようですから、「退職願」の撤回は難しいでしょう。
5.退職金については、就業規則に退職金規定がある場合、退職金規定がなくとも退職金支払いの労働慣行がある場合、退職金について当事者(会社・労働者間)の合意がある場合には、退職金請求権があります。したがって、以上の各場合には、相談者が請求すれば退職金は支払われることになります。
出典: 土曜日の人生相談(2002年7月6日放送分)
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