内容の根拠になる法律は放送された時点のものであり、その後法律が改正されている場合があります。掲載内容はあくまでも、参考にとどめていただき、実際の対応については弁護士に相談されることをお勧めします。

 【 更新拒絶・正当事由 】

家主からの無理難題
私は7年前に店舗付き住宅を借りており、あるチェーン店の店主をしています。
先日大家さんに家賃を持っていくと、「半年後にこの家を売りに出すので出て行ってほしい」と言われました。ようやく顧客も増えてきたところなので、出て行きたくありませんし、正当な理由も聞かされなかったので、断りの旨を書面で渡しました。
すると大家さんは「家賃を1割上げる」と言ってきたうえに、「看板が景観に合わないのではずしてほしい」と、チェーン店の本部に何度も電話を入れてきたそうです。本部からの指示もあり、はずすこととなりました。そのせいで顧客も減ってきています。
そこで相談です。
(1)「建物賃貸借契約書」には、契約の際に「物価、その他の自由によって家賃を上げる」と特約もあるのに、家賃をアップして払わなければならないのでしょうか?
(2)執拗な電話により、看板を下ろさなくてはならないというのは営業妨害にならないのでしょうか?
(3)大家さんの言うとおり、半年後までに我々はこの家を出て行かなくてはならないのでしょうか?
相談者: 大阪市在住・匿名希望の男性(?歳)
1.(1)の家賃について。
7年前に店舗付住宅を借りたということですので、借地借家法(平成4年8月1日以降に適用)が適用されます。家賃の増額請求については、「建物の借費が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借地に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向って建物の借費の額の増減を請求することができる」と定められています(借地借家法32条1項)。従って、このような家賃増額を根拠づける事情が認められないにもかかわらず、大家さんの一方的な意思表示だけで家賃が増額することはありません。当事者間で値上げについて話し合いがつかなければ、大家さんは、調停や訴訟を起こし、賃料額の鑑定をしてもらうことが必要となります。従前の賃料を提供して、大家さんが受け取らなければ、あなたは、増額を正当とする裁判が確定するまで、自分が「相当と認める」家賃(但し従前の家賃より低額であってはならない)を供託しておけばよいでしょう。
2.(2)について。
あなたは、「店舗」付住宅を借りておられるのですから、店の営業に必要だと一般的に予想される範囲の着板を設置することは可能です。本件では、看板が設置されていた時期が明らかでありませんが、もし7年前に借りたときから同じ看板が設置されており、今まで大家さんから一度もクレームがつかなかったとしたら、今回急に「看板が景観に合わない」と大家さんがいうのは合理的な理由がないと思われます。従って営業妨害による損害賠償も一応考えられますが、その場合には、看板をはずしたことと顧客が減ったこととの間に因果関係があったか否か、また、何故チェーン店の本部が看板をはずすようにあなたに指示したのかが問題となるでしょう。
3.(3)について。
家を売りたいという大家さんの一方的な事情だけで、家を出ていく必要はありません。大家さんのした解約の申入れには正当事由が必要です。正当事由とは建物の賃貸人、賃借人が建物の使用を必要とする事情、従前の賃貸借の経過、建物の利用状況や現況、賃貸人が建物の明渡しの条件として立退料の申出をしたか否か、その額はいくらであったか等を総合的に考慮して判断されます(借地借家法第28条)。
最終的には、訴訟でこの正当事由の有無が判断されることになります。
出典: 土曜日の人生相談(2002年12月21日放送分)
戻る