夫が死亡、子どもはいない 生活保護の受給は-<法律のツボ>
役所に申請すれば可能に
Q.私は関西に住む50代の主婦ですが、夫が亡くなり、子どももおらず、生活保護を受給するつもりでした。ところが、役所から「お兄さんに面倒を見てもらいなさい」と言われ、申請を受け付けてもらえませんでした。
兄は関東に住んでいますし、生活に余裕があるわけではないので迷惑をかけたくありません。どうしたら生活保護を受給できますか。
A.生活に困って役所に行ったのに、「まずは仕事を探しなさい」とか「親族に援助してもらいなさい」などと言われ、生活保護の申請をさせてもらえないことがあります。
このような役所の対応を俗に「水際作戦」と言います。今回のケースは水際作戦の典型的な事案です。
役所は生活保護の申請を受けた場合、原則として14日以内に必要な調査を行い、保護の要否を決定しなければなりません(生活保護法24条)。これを「審査応答義務」と言います。
一旦保護の申請を受け付けると審査応答義務が生じるため、役所はいろいろと理由を付けて申請自体をさせないようにすることがあります。人手不足の役所にとっては調査の負担が大きいこと、生活保護費を抑制したいことなどが動機です。
しかし、このような水際作戦は、生活保護申請権を侵害する違法な行為です。厚生労働省も「相談者の申請権を侵害しないことはもとより、申請権を侵害していると疑われるような行為も厳に慎むこと」と役所に通知し、水際作戦を行わないよう強く戒めています。
また、生活保護法上、親族の扶養は保護の要件とはなっておらず、お兄さんに面倒を見てもらわなくても生活保護を受けることは可能です。
このため、扶養義務者がいる場合には生活保護制度が利用できないかのような役所の説明は明らかに誤っています。
厚労省もこのような対応は申請権の侵害に当たる恐れがあるとの通知を出しています。
従って今回のケースでは、申請さえすれば生活保護を受給できるものと思われます。
現行法では、申請は所定の書面を提出しなければ無効となる要式行為とはされていませんので、役所が申請用紙を渡してくれない場合には、適当な紙に「生活保護を申請します」と書いて提出すればよく、口頭で申請することもできます。
ただし、後日の争いを避けるため、弁護士や支援団体に依頼して申請に同行してもらうとよいでしょう。
〈回答・鈴木節男弁護士(大阪弁護士会所属)〉
2013年7月27日 毎日新聞大阪版朝刊掲載