倒木被害と工作物責任について
先日の台風21号、24号により被害を受けられた皆様に謹んでお見舞い申し上げます。
■ 大阪では、特に21号の際に各地で倒木被害が発生し、高槻市北部の樫田地区(山間部)では100ヘクタール以上、1万数千本以上の被害が発生しているとの報道にも接しました。その他、未だに被害の全容が明らかではない地域があるようです。
今回の倒木被害は、もちろん、台風の勢力それ自体が大きかったということが一因かと思われますが、今後、樹木自体の状態が影響して、台風時、大雨時などに、大規模な倒木被害が発生する可能性があります。
というのも、、、
■ ご存知の方も多いかと思いますが、第二次世界大戦中の必要物資や戦後の復興資材を確保するために大量の木材が必要とされたことから、かつて我が国では大規模な森林伐採が行われ、これにより国土の多くの部分がはげ山になっていました。
戦後は、その緑化のために、伐採跡地への植林が進められ、昭和20年代半ば(1950年代)から昭和40年代半ば(1970年代)にかけては、毎年30万ha以上の植林が行われ、ピーク時には、年間40万haを超える植林が実施されました。
特に、昭和30年代(1950年代半ば)以降には、石油、ガスへの燃料転換により薪炭需要が低下するとともに、高度経済成長の下で建築用材の需要が増大する中、薪炭林等の天然林を人工林に転換する「拡大造林」が進められました。
問題となるのは、この「拡大造林」のときに大量に植樹された、スギ、ヒノキといった針葉樹です。
もともと、これらの針葉樹は、建築用途に適し経済的価値が見込めるだろうということで、植樹されたようです。
しかしながら、ご存知のとおり、国産のスギなどは、殆ど建築用途に使われていません。国内の建築用途の木材の殆どは、外国からの輸入材になっています。
その結果、伐採適齢期をゆうに超えているにもかかわらず、放置された人工林が日本中に発生してしまいました(以上、拡大造林の歴史については、林野庁、平成22年度「森林・林業白書」等を参照。)。
昨今の災害時の大規模な倒木被害は、この、拡大造林政策時に植樹された人工林で発生しているケースがあるようです。
スギやヒノキは、根を深く張らない針葉樹であるうえ、人工林は挿し木から育てるため、根が浅く、密度も低いのです。さらに拡大造林時には相当に密集させて植樹をしたことで、より一層根が広がりにくくなっています。
その結果、大規模な水害を受けると、一斉に倒木してしまうという機序があるようです。
■ これを法律問題として見ると、将来的に、間伐などをせずに人工林を放置していた場合、工作物責任の問題が生じる恐れがあります。
実際、樹木の管理を怠ったことを理由として、樹木の所有者に工作物責任に基づく損害賠償義務を認めた裁判例は過去に多数存在します(直近で報道などされて有名になったものとして、2013年10月、台風26号の際の日光杉並木の倒木に関する民事裁判があります。)。
拡大造林は、もともと国策で行われたものであり、その後始末を、誰の費用負担で、どのように行うかは、難しい問題ではありますが、この問題をこのまま放置すると、いざ損害が発生した場合に、先鋭な紛争が発生してしまうかもしれません。
(本記事の内容は、執筆者の個人的な見解に基づくものです)