2018年10月30日 (火)

人間性というのは

 先日、アンドロイドで有名な石黒先生の講演を聞いた。
 今や自由に動かせる義足や義手が開発されているが、これはそのうち、臓器や体中のどんなパーツでもあり得ることになるだろう。しまいに、脳まで機械で置き換えられたら、その人は、果たして人間なのだろうか。機械と人間との境目というのはあるのか。そう考えてくると、機械というのは、人間のこれまでの遺伝子的な進化というものの延長なのじゃないか。人間性というのはなんなのか。
 まあ、僕の理解できたところでは、そんな問題提起がなされていた。
 
 さて、そこで思い浮かんだのが、(ターミネーターではなく)マトリックスだ。人間のすべての行動は、プログラムできるものなのか。あの映画では、「すべての行動は、何かの条件を与えられた結果生じる反応である。」と言っていたし、確かにそう言われるとそのようにも思える。僕は今、気温が27度くらいの電車の中にいて、さっき水を飲んでから1時間経つ。つまり、のどが渇いている。そして鞄にはお茶が入っている。座席に座っていて、すぐに取り出すことができる。そうすると、僕はお茶を飲むことになるだろう。
 となると、結局は脳だって、機械に置き換えるどころか、ゼロから機械でプログラミングして製造できてしまうのではないのか。プログラムは究極的には、条件に対する答えを記述したものだ。つまり、脳が判断するすべての条件を書き上げられるなら、プログラミングは可能ということになる。

 ところが、カントはそうは考えなかった。石黒先生は、ドイツはカントなどの哲学が染み着いていて、なかなかアンドロイドに対する革新的な考えを受け入れない、と冗談を言っておられたが、それは正しいのかもしれない。カントは、仮言命法、つまり、何か条件を満たすための行動(お金をもらえるから働く、など)は、本当の自由な意志による行動ではない、と考えた。単に、「お金を与える」という条件に対する反応だ、というのだ。「お腹が空いたから食べる」「ほめられるから勉強する」「楽しいから本を読む」だけでなく、ボランティアをしたり席を譲るのですら、それによって「充実感」が得られるのであればそれは「自己満足」のためであって、条件に対する反応だというのである。
 そして、コンピュータ・プログラムは、いわば仮言命法の塊ということになろう。
 一方で、このような条件のない、いわば、「単に(すべきことだから)する」という行動は、定言命法という。カントは、人間が本当に自由な意志で行動するというのは、この定言命法に従うときである、と考えた。そして、これこそが道徳律である、というのだ。つまりは、カントはこれこそが、人間が人間たるゆえんだと考えていたといえよう。

 カントは、「様々な現象には、その原因があり、またその原因にも、そのまた原因がある、という原因の無限の連鎖の先に何があるのか」について、人間には結局、「究極の原因=因果の始まり」があるのかないのか、「分からない」、という結論を、延々と複雑に説明している。そして、分からないのだから、それを追究するというのに終始するのではなく、自らが因果の始まりとなりうるような自発的な行動、つまりは定言命法を「実践」すべきだ、というのだ。
 人間は因果の始まりになることができる、ということを「実践する」ことで証明しようとしていたのかもしれない。

 アンドロイドに、これができるのか。

 人間性というのは、このことなのではないか。
 条件を与えられたからする、のではなく、すべきことだからする。
 このような道徳律の実践ができること、それこそが人間性なのではないか。
 天上に輝く星は命を与え、心の内なる道徳律は「人間性」を与える。これこそが感嘆すべきことなのだ。
 

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