交通事故の被害者は損をしている
私は,被害者の側での交通事故の事件を一定限度取り扱っています。
特に脳脊髄液減少症の患者の方の損害賠償請求事件をかなり取り扱っていました。
今日は,交通事故(人身事故)の被害者は損をしている,という話を2つしたいと思います。
1つ目は,少し宣伝じみますが,「交通事故で人身損害(怪我,死亡)を被った場合は,絶対に弁護士に頼んだほうがよい」ということです。
保険会社が被害者本人に提示する賠償額は,裁判などで認められる額の基準(これにも問題があることは後述しますが)に比べて不当に低いのです。
例えば事故で怪我をして入院すると,パジャマを買ったとかテレビのカードを買ったとか,そういう雑費は,個別に計算せず,1日あたり△△円で概算します。この△△円は,裁判所の基準では現在は約1500円ですが,保険会社の最初の提示額はたいてい数百円です。慰謝料,休業損害なども,裁判所の基準の5割から7割くらいです。
それが,弁護士に代理人になって交渉し,裁判所の基準で提示をしますと,すぐに了解が得られます。弁護士への着手金や成功報酬を払っても,ほぼ全ての場合で被害者にメリットがあります。金額の面だけを考えれば,訴訟のほうがより良いと思います。
アメリカで家賃を1ヶ月払わないだけですぐに訴訟を起こされたといった話を聞きますと,日本はそうならないほうが良いと思いますが,こと交通事故に限って言えば,「すぐ裁判」でも良いかもしれません。
もちろん,裁判については,準備の面や精神面での負担もありますから,常にお勧めするというわけではありませんが。
なお,弁護士費用については,被害者自身で加入している損害保険の中に,自身が交通事故の被害にあった場合の弁護士費用が支払われるものがあります。これがある場合,なおさら弁護士に依頼しなければ損です。ぜひ確認をしてみてください。
もう1つは,「中間利息の控除」の話です。
交通事故で後遺障害が残って今後の収入減が考えられる場合,
その減ると見込まれる分を計算して賠償するという方法がとられます。亡くなられた場合も基本的に同じです。通常は,67才までは働いて収入を得ることができると考えて,それまでの収入の喪失を計算します。
例えば毎年1000万円の収入が見込まれる40才の人が事故で全く働けなくなったとすると,この損害(逸失利益)は1000万円×27年=2億7000万円となる・・・のではないのです。お金には利息がつくのが一般ですから,1年後に得られるはずだった1000万円を今受け取る場合,1000万円を受け取ると利息の分がもらいすぎです。その分を差し引くことを「中間利息の控除」と言います。
裁判所は,これを年5%という民法所定の法定利率で計算します。
そうすると,今受け取る金額が952万円ほどであれば1年後に1000万円となる,という計算になります。
複利で計算しますから,2年後に受け取るはずだった1000万円は今受け取るなら907万円となります。このように計算して行きますと,27年間1000万円を得るというケースでは,約1億4600万円と計算されることになります。
でも,ちょっと待て,と思いませんか。高度成長やバブルの昔ならばともかく,今どきどうやれば年5%の利息を付けてもらって,952万円を1年間で1000万円にできるのでしょう。
リスクがある金融商品などなら別ですが,これからの生活費のかわりとして受け取ったお金をそういうものにかける人はあまりいません。
今の我が国で5%という利率を使うことは必然ではなく,間違っています。しかし,最高裁判所は,10年ほど前に,「5%で良いのだ」と判断しており(最判平成17年6月14日民集59巻5号983頁),今でもその運用は変わっていません。
5月25日の日経新聞の朝刊には,法務省がこの利率を3%に改めるという記事が出ていました。
私の理解力がないためもありますが,「なぜ法務省が?」など,どうもこの記事は内容がよくわかりません。
どうやら現在進行中の民法(債権法)の改正の議論の中で法務省がそのような提案をするということのようです。
3%でもまだ高すぎると思いますし,保険会社の猛烈な反対が予想されるところではありますが,なんとか「一歩前進」となってほしいものだと思っています。
新しいコメントの投稿