「証人尋問で『異議あり!』って言いますか」という質問を,特にお子さんから受けることがあります。アニメ「逆転裁判」の影響でしょう。「『異議あり!』という言い方はあまりしない」「『異議』という言い方は実は正確ではない」という話を,民事事件の場合について,なるべく易しくしてみます。

 

尋問の最中の「異議」には,2種類あります。

 

1つは,「質問できる範囲を超えている」という「異議」です。証人尋問は,原告・被告のどちらかが,「この人からこのポイントについて話を聞いてほしい」と申請して行われ,その申請をした側の弁護士がまずは「主尋問」を行います。ところが,「ポイント」からひどく外れる質問がされることがあります。また,主尋問の後に行われる相手方弁護士の「反対尋問」でも,主尋問での話と全く関係ないことが質問されることがあります。こういう場合に,「異議」を言うことができます。

 

もう1つは,不適切な質問に対する「異議」です。①証人を侮辱したり困らせたりする質問,②誘導尋問(「はい」だけで答えられる質問),③同じ質問の繰り返し,④ポイントと関係ない質問,⑤証人の意見を求める質問,⑥証人が経験しなかったことを尋ねる質問などは,原則として不適切な質問です。そのほか,誤った前提の下に尋ねる「誤導尋問」などもあります。弁護士は,異議を出したうえで,どういう理由で不適当かを簡潔に述べる必要があります。

 

多くの弁護士は,「異議があります」とか,短く「異議」と言うと思います。「異議あり!」と言うと,ちょっとだけ笑われるかもしれません。指を指して異議を述べることもないと思います。

 

また,法律のうえでの用語では,裁判官の判断に対して「おかしい」と言うことが「異議」です。相手方弁護士の質問に対して「おかしい」と言うのは,正確には「異議」ではなく,裁判官に「質問をやめさせて下さい」と求めるものです。ただ,あまりよい言葉もないため,「異議」という語が使われています(「抗議」と呼ぶべきと書いた本もありますが,定着していません)。

 

若い頃,相手方の弁護士に,「異議!」と言われますと,とても動揺しました。それが狙いだったのでしょう。そういう狙いの異議には負けず,反論して,あるいは少しだけ聞き方を変えて,尋問を続けるのが良い弁護士です。

 

一方,相手方の弁護士の尋問がおかしければ,良いタイミングで異議を言う必要があります。ただ,連発も考え物です。例えば自分の側の証人や本人が反対尋問で追及されているときに,異議ばかり言いますと,裁判官は,「質問されたくない点なのかなあ」と思うかもしれません。

 

ドラマやアニメの裁判も面白いでしょうが,実際の法廷も,少し予習をしたうえで見ると興味深いものです。皆さんも傍聴にお越しになりませんか。

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