寡婦(寡夫)控除
‐あらすじ‐
所得税の所得控除の一つである寡婦控除は,いわゆる「非婚の母」に適用されないため不合理な差別ではないかという問題があり,日本弁護士連合会も,この問題に関する要望や意見書を提出しています。
しかしながら,寡婦控除には「非婚の母」に関する問題の他にも問題点があり,それらの問題の解決方法としては,基礎控除と扶養控除などの基礎的な人的控除の額を引き上げることも考えられるのではないでしょうか。
‐目次‐
1 寡婦控除とは
2 いわゆる「非婚の母」の不利益
3 寡婦控除に関する他の問題点
4 問題の解決方法
1 寡婦控除とは
「寡婦控除」とは,所得税の所得控除の一つで,「居住者が寡婦である場合には,その者のその年分の総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額から27万円を控除する」ことをいいます(所得税法81条1項,2項)。
「寡婦」とは,「イ 夫と死別し,若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,扶養親族その他その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するもの」及び「ロ イに掲げる者のほか,夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち,第七十条(純損失の繰越控除)及び第七十一条(雑損失の繰越控除)の規定を適用しないで計算した場合における第二十二条(課税標準)に規定する総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額の合計額(以下この条において「合計所得金額」という。)が五百万円以下であるもの」をいいます(同法2条1項30号イ,ロ)。
2 いわゆる「非婚の母」の不利益
この「寡婦控除」について,近年問題となっているのが,「『非婚の母』,すなわち,法律婚を経験したことのない女性として子どもを扶養している者」(日本弁護士連合会HP「寡婦控除における非婚母子に対する人権救済申立事件」)に寡婦控除が適用されないという問題です。
寡婦控除が適用されなければ,所得税の納付税額はもちろん,住民税の所得割も高くなることがあります。また,寡婦控除などの所得控除は,所得税の課税所得を計算するためだけではなく,国民健康保険料,保育園の保育料,公営住宅の家賃など行政サービスの対価を計算するためにも用いられているので,寡婦控除が適用されなければ,国民健康保険料,保育料,公営住宅の家賃などが高くなる(あるいは,そもそも公営住宅に入ることができない)といった不利益も受けることになります。
他方,法律婚を経験した女性には寡婦控除が適用され,これらの不利益を受けることはありません。
そうだとすると,法律婚の経験があるかないかという違いだけで,片や上に書いた不利益を受け,片や受けないということになります。しかし,これは差別ではないかということで非婚の母数名が日本弁護士連合会に対して人権救済申立てをし,申立てに基づいて,日本弁護士連合会は「寡婦控除における非婚母子に対する人権救済申立事件(要望)」を行ったり,「『寡婦控除』規定の改正を求める意見書」を財務大臣に提出したりしているそうです。
3 寡婦控除に関する他の問題点
ところで,寡婦控除には,上に書いた非婚の母と法律上の婚姻を経験した母との区別以外にも,不合理だと思われる区別があります。
まず,寡婦控除は,扶養親族がいる寡婦だけでなく所得が500万円以下の寡婦に対して適用されますが,所得が500万円以下の夫婦には適用されません。しかし,扶養親族がいなければ,育児費などの特別な費用がかかるわけでもないので,所得が同じであるのに配偶者がいるかいないかによって課税所得が変わるのは不合理だと思われます。
また,女性が対象である「特定寡婦控除」と男性が対象である「寡夫控除」とは,性別を除いて要件はまったく同じ(①配偶者と死別し又は離婚した後婚姻をしていない人や配偶者の生死が明らかでない一定の者であること,②扶養親族である子がいること,③合計所得金額が500万円以下であること)ですが,控除額が特定寡婦控除は35万円,寡夫控除は27万円で,8万円も違います。これは,明らかな男女差別でしょう。
4 問題の解決方法
不合理だと思われる区別がいくつかあるということは,寡婦(寡夫)控除は,所得控除としての機能,すなわち,課税標準から憲法25条1項にいう「健康で文化的な最低限度の生活」に要する費用を除くという機能を十分に果たせていないということです。その機能を果たせていないために,健康で文化的な最低限度の生活に要する費用までが課税所得とされてしまい,上に書いた人権救済申立事件の申立人のような「非婚の母子世帯の経済的苦境」(日弁連・要望)を招いていると思われます。
この問題を解決する方法の一つは,寡婦(寡夫)控除の対象を,すべてのひとり親に変更することです。しかし,すべてのひとり親を寡婦控除の対象としたとしても,「非婚の母子世帯の経済的苦境」が救済されるとは思われません。寡婦控除の対象である法律上の婚姻を経た母も含めて,ひとり親世帯は多かれ少なかれ経済的な苦境にあるからです。
この問題の解決方法としては,基礎控除と扶養控除などの基礎的な人的控除の額を引き上げることも考えられるのではないでしょうか。単純に比較することは出来ませんが,同じく「健康で文化的な最低限度の生活」に要する費用を賄う生活保護費と比べても,所得税法の基礎的な人的控除は低すぎると思われます。
長い文章を最後までお読みいただき,ありがとうございます。
先日,富士山に登ってまいりました。台風の翌日で風と雨が強く,頂上まで登ることはできませんでした。来年こそは頂上からの景色を見たいと思っています。
7/25のシンポジウム
7月25日に大阪弁護士会館で開催される平成27年度近弁連人権擁護委員会夏期研修会 「非婚・未婚・事実婚と子どもたち~今、多様な「家族」の在り方を考える~」でも,記事に共通するテーマが取り上げられていますね。
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