大阪 兵隊 弱い
毎回毎回,弁護士と無関係の話で恐縮ですが,ネット広告のお話から。ウェブサイトを見ているとネット広告が表示されることがあると思います。ネット広告は,どうやら私たちが見たサイトの閲覧履歴や検索履歴のほかにも位置情報(PCや携帯電話のGPSを切っていても,大まかな位置は特定されるようです。)も参考にしているようで,私の場合,事務所がある大阪市中央区内の商業施設の広告が表示されることがあります。そのような広告の中に,「MIRAIZA OSAKA-JO(ミライザ大阪城)」という商業施設の広告が出てきました。このミライザ大阪城は,大阪市が実施した「大阪城公園パークマネジメント事業」に基づき旧第4師団司令部庁舎を改修したものだそうです。
http://www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/0000393918.html
旧第4師団というのは旧陸軍の師団の1つですが,これまたネットの検索サービスで「第4師団」と検索するとサジェストで「第4師団 弱い」,「大阪 兵隊 弱い」という語句が出てきます。大阪の兵隊だけが他所の兵隊よりも弱いという話は,少なくとも資料(たとえば,大阪・信太山の陸上自衛隊・信太山駐屯地内の資料館内の資料等)を見る限り根拠がないように思われますが,世間では「またも負けたか8連隊」(「8連隊」は第4師団隷下の歩兵第8連隊。司馬遼太郎『手掘り日本史』(文春文庫)31頁)という類の「大阪 兵隊 弱い」噂が広まってしまっているようです。
ところで,私は1人だけ大阪の兵隊(高射第3師団,第4師団の管轄を一部引き継いだ部隊,に所属)だった方の話を聞いたことがあります。その方はいわゆる学徒出陣(在学徴集延期臨時特例(昭和18年勅令755号),国立公文書館のサイト)で徴兵された方で,徴兵された後は,米軍の爆撃から大阪を守るため生駒山で高射砲を撃つ部隊に配属されたそうです。もっとも,高射砲を撃つといっても,当人曰く「撃っても,砲弾が米軍機の高度まで届かないから,当たらない。砲の数も少なすぎる。下手に撃てば位置を特定されて,米軍の護衛戦闘機に撃たれる」そうで,米軍機が爆撃を行っている間は息を潜め,米軍機が去ってから高射砲を撃ち始めるという具合だったそうです。もちろん,そんなことが許されるはずもなく,抗命罪しかも敵前での抗命罪(陸軍刑法57条1号)に該当する行為ですが,「撃っても…当たらない。下手に撃てば…護衛戦闘機に撃たれる」にもかかわらず命令に従わなければならないか,については議論のあるところです(たとえば,ドイツの法律には,軍隊において,抗命権の行使に対する不利益処分を禁止する規定があるそうです。)。
それはともかく,上の話は伝聞で内容が真実かどうかわかりませんが,大阪の兵隊には上のような方が他にもいたので,「大阪 兵隊 弱い」という噂が広まったのかもしれません。
しかし,「弱い」ことが常に悪いことかどうかは考えてみる必要があると思います。とくに,軍隊や自衛隊はともかく,民間の会社では,弱いこと・抗命が常に悪いこととは限りません。
昨年は,過労死のニュースが世間を騒がせました。過労死するかもしれない程の量の労働を労働者が命じられた場合において,少なくとも民間の会社でそれに抗うことは,弱いことでもありませんし,悪いことでもありません。
たしかに,民間の会社でも,労働者は使用者に対して労働力を提供する義務を負いますが(民法623条,労働契約法6条),過労死するかもしれない程の量の労働をすることが労働契約の内容になっているとは考えられませんし,そのような労働を命じることは明らかに権利濫用です(労働契約法3条5項)。それに,仮に命令が適法であっても,その命令に抗っただけで直ちにクビになることは,ほぼありません(「客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない」解雇は無効です(労働契約法16条)。)。
「大阪 兵隊 弱い」と言われながら,大阪の第4師団は終戦まで生き残りました。また,実際には,上でも書いたとおり,「大阪 兵隊 弱い」という話には根拠がありません。大阪の兵隊は弱いのではなく,強(したた)かだったのだと思います。
弱いという噂など大概根拠のないものだと思いますし,だいたい,弱いと言われないことよりも,生き残ることの方がはるかに重要です。
会社で労働の量が多すぎて,それでも「仕事だから仕方ない。」と思っている方,会社で「この程度の仕事もできないのか,弱い奴だ。」と言われている方など,時には強かな大阪の兵隊を思い出して頂ければと思います。
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