2018年6月30日 (土)

不動産の買い方

ここ数ヶ月,「かぼちゃの馬車」に関する事件が耳目を集めています。

ご承知のとおり,「かぼちゃの馬車」はシェアハウスのブランド名で,その建築・サブリース・管理を営む会社が「高利回り,賃料保証」を謳ってオーナーを集め,オーナーは銀行から融資を受けて「かぼちゃの馬車」を購入,ところが,実際にはその会社は賃料を支払うことが全くできず倒産してしまった,というのが事件の概要です。

この事件は,その会社の破産開始決定が出たばかり(5月15日付)で情報が少なく,疑問点がたくさんありますが,なかでも,どうして無謀な融資が銀行の審査を通ってしまったのか,という点は大きな疑問点です。その会社については,オーナーを募集している時点で既に賃料を支払う目途が立っておらず,「かぼちゃの馬車」事業の見通しが立っていないのに,なぜ融資の審査が通ってしまったのでしょうか。この点については,オーナーの所得証明書などの融資審査の基礎となった資料が偽造されたのではないか,という意見が出ています。

偽造された資料に基づいて無謀な融資を通してしまった銀行(そして,その融資担当者)も大きな損失を免れませんが,一番の被害者がオーナーであることは疑いないでしょう。

 

 「かぼちゃの馬車」ほど大規模な事件は珍しいですし,そもそも「かぼちゃの馬車」のような収益物件を購入する人もそれほど多くはないので,「かぼちゃの馬車」オーナーのような被害は他人事のようにも思えますが,あながちそうとも言い切れません。たとえば,「大阪 ローン詐欺屋」という言葉でインターネット検索をして,検索で見つかった記事をいくつか見てみると,被害が他人事ではないことがわかります。自宅を建てるときにも,このような被害に遭うかもしれません。たとえば,自宅を建てる前に署名捺印した土地の売買契約書・建物建築請負契約書の代金額を業者に偽造され,業者がローン事務を代行するといって偽造した契約書を銀行に提出し,偽造した契約書に基づいて銀行の融資審査が通ってしまうと,自分が署名捺印した契約書の代金額以上の負債を負うことになってしまいます。このような被害は珍しくはありません。

 そんなに簡単に契約書の偽造ができるのかという疑問が浮かびますが,契約書の写しならば簡単に偽造できます。まず,複数頁の契約書を作成し,最終頁は署名捺印欄だけにし,それ以外の頁に契約内容を記載します。そして,署名捺印後,最終頁以外の頁をすり替え,最終頁の割り印だけ画像編集ソフトなどで消してしまえば,写しですが,簡単に契約書を偽造することができます。当然,偽造後は各頁の割印や収入印紙の消印がなくなりますが,割印は「押印忘れ」とでも銀行員に説明し,消印は三文判を押せば,銀行の融資審査を通ってしまうことがままあり得ます。もちろん,割印がないことや,署名横の押印の印影と収入印紙の消印の印影が違うことなどの不審事由があり,融資担当の銀行員としては契約書の原本を確認すべきですが,多忙な中で融資担当者が不審事由を見落とすことも少なくないと思います。

 そして,審査が通り融資が実行されると,業者は,融資額と偽造前の契約書の代金額との差額の一部を,名目を付けて(ひどい場合には名目すらつけず)被害者から持っていきます。

融資が実行されてしまうと,その後に契約書の偽造に気が付いても時すでに遅しです。契約書の偽造をするような業者が法人に資力を残していることは少なく,業者からの回収は困難を極めます。他方,銀行との関係では,いくら自分が被害者だといっても,融資金はいったん自分の預金口座に入ってしまっています。ですから,「自分は被害者だ。」,「不審事由を看過した銀行も悪い。」,「錯誤だ,(第三者)詐欺だ。」と言ったところで,自分で融資後のお金の流れを解明しない限り,融資金は不当利得として返還義務を免れません。

 

 被害に遭わないためには色々な方法が考えられますが,少なくとも次の2つを指摘することが出来ると思います。

 1つ目は,融資金の流れ,いわゆる「金種」を融資実行の前日までに確認することです。融資実行の当日,いわゆる決済日は,目の前の書類に押印するばかりですので確認する暇がありません。確認をするならば前日までです。業者には金種表を出してもらい,手元の見積書・請求書・契約書と照らし合わせれば,偽造などがあれば一目瞭然でわかります。

 2つ目は,いわゆる「ワン・ストップ・サービス」は用心してかかることかと思います。冒頭述べた「かぼちゃの馬車」の事件でも業者は,建築・サブリース・管理に加えてローン事務の代行も行っていたようですし,上のような被害においても,契約書の偽造を行う業者は土地売買の仲介・自宅の建築・建築確認申請・ローン事務代行などを一括で行っていることが少なくありません。たしかに,色々な事務を一括で行ってくれる「ワン・ストップ・サービス」は便利ですが,一括で行ってくれるということは情報も一括でその業者に集まるということです。情報が1人のところに集まると監視の目が働かず不正の誘因になりかねません。

 

 不動産の購入は極めて大きな買い物です。気を付けたいものです。

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