この夏から秋にかけて、結構神経を使わされた案件のひとつに「不動産の任意売却」というものがあります。

 

 この「任意売却」という言葉は、一般の人にはあまり聞き慣れない用語だと思います。売買は当事者間の契約ですから、それが任意に行われるのは明らかで、わざわざ任意とつけ加える必要はないようにも思えます。

 

 しかし、この「任意売却」は、詳しく言えば、住宅ローンが払えなくなったなどの理由で不動産が競売申立をされた場合に、競売手続を最後まで(競落まで)進めずに、抵当権者など競売になれば配当を受けられる可能性のある関係者に売買代金のうちの一部を分配することを予め決めて、関係者の同意を得た上で売買をすることを言います。

 

 つまり「任意売却」とは、一種の強制的な手続である「競売」に対するもので、当事者の同意に基づき行われる点で「任意」と呼んでいるのです。

 

 刑事の分野でも同じような「任意」がつくものがあります。「任意同行」という言葉を聞かれたことがあると思います。

これも逮捕という強制的な連行ではなく、警察への同行を求められるもので、事実上強制的なのになぜ「任意」とつくかといえば、法律上の強制的な手続である逮捕に対応して「任意」と言っているわけです。

 

 ここで、「任意捜査と強制捜査の区別」などという話題にすれば司法試験の問題になりますが、ここではそのような区別を論じることはしません。それより、長年あまり意識せずに「任意」という用語を使っていたのですが、「任意」という名前がついているにもかかわらず、全く自由に何をしてもいいわけではなく、一種の制度として確立され、その範囲で行われるものが案外多いということが気になってきました。一度このような日本における明文化されていない制度について考えてみたいと思っている昨今です。

任意について

法で定められている制度では使い勝手が悪い、あるいは不都合がある場合に、実務の知恵で同じような効果を発揮するものが編み出され、それが任意の手続きと呼ばれているのだと思います。その法律関係に関係するみなさんの利益を公平に調整する必要があるので相応の制度のようなものに収斂されていくのだと思います。

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