メンタルヘルスと「忠臣蔵」
今年,某広告代理店で起きた出来事を上げるまでもなく,職場でのメンタルヘルスに対する関心が高まっている。一人の女性の悲痛な死が,会社を,社会の意識を少なからず変えたことは否定できまい。
ストレスのせいで個人がその能力を発揮できないことは,本人にとって不幸なだけでなく,組織としての戦力喪失・機能低下につながるという意味でも深刻だ。従業員一人ひとりが過大なストレスを感じる就労環境が続けば,安定的な事業の継続はおぼつかない。下手をすれば組織の存続も危うい。
それにしても,何で我が国はこんなにストレスを抱える社会になってしまったのだろう。
心理の専門家によれば,人間関係によるストレスをいやすのは,受容と共感を基礎とした人間関係でしかないとのことだ。しかし私たちは,ともすれば,そうした人間関係が希薄な社会に生きている。
高度情報化社会になって,思考や感情を表現したり伝えたりするツールがどんどん発展し,便利になっていった。就寝前につぶやいた,たった一言が瞬く間に全国全世界に知れ渡る時代だ。その一方で,プライバシーや情報機密の必要性が強調され,「伝えることと伝えないこと」に,より一層深い注意を向けざるを得なくなった。
クールビズ
裁判官が法廷で着ている真っ黒な「法服」。絹でできているが,通気性がよくないので夏は暑い。書記官のそれはポリエステルでできていて,余計に重く,暑い。私が司法修習生だった13年前に書記官の方から聞いた話だ。
そのころは夏に軽装で仕事をするという概念があまりなく,みんな暑いのを我慢してネクタイを締め,上着を着ていたのだが,ただでさえ風通しの悪い裁判所,ある日法廷に行ったら,あまりの暑さに書記官が,「こち亀」の両津勘吉よろしく法服ごと腕まくりして席に座っていた。法廷の権威も日本の猛暑の前には形無しである。
みんなが限界を感じていたのだろう。当時環境大臣だった小池百合子氏が「クールビズ」を打ち出したのは2005年。昭和の「省エネルック」とは打って変わってすっかり定着し,もう10年以上が経つ。
ひょっとすると小池さんは,夏がお得意なのかもしれない。10年たって真夏の首都で戦う小池さんは,夏の日差しを追い風にしたようになんだか元気だった。私もそうだが,暑さが苦手な人間にとっては,夏を味方にする人がうらやましく感じられる。