私は,弁護士になる前は「弁理士」という仕事をしていました。以前は便利屋さんと間違われることもあった(らしい)職業ですが,知的財産に対する関心の高まりを受け,最近では知っている人も多くなりました。多くの弁理士は,特許や商標等の権利を取得するための特許庁に対する手続きを代行することを主な業務としています。

 

 ということで,今日は特許に関する話題を1つ。5月14日の日本経済新聞の朝刊に,「廃業のニチエー吉田、コンクリ外壁仕上げの特許を無償公開」という見出しの記事が掲載されました。

 

 記事によれば,技術力に定評があり,皇居新宮殿や表参道ヒルズの外壁仕上げを手掛けたこともあるニチエー吉田という工務店が,後継者問題から3月末に廃業したのですが,創業者の吉田晃氏は「業界の技術向上に寄与したい」と,「建築物外壁の打ち放しコンクリートの表面仕上げに関する特許をすべて無償公開した」そうです。

 

 さて,特許を「無償公開する」とはどういうことでしょうか?…答えは,私にも分かりません。

 

 特許出願をすると,1年6か月後に出願書類が公開され,誰でも見ることができるようになります(これを「出願公開」といいます)。これは,新たな技術を隠すのではなく公開することで,他の人がその技術をさらに改良することができるようになり,技術の進歩に役立つと考えられているからです。特許制度とは,一言でいえば,「技術を公開してくれたご褒美に,一定期間その技術を独占させてあげますよ」という制度なのです。

 

 先ほど紹介した記事が特許を「無償公開する」といっているのは,この「出願公開」のように技術の内容を公開するという意味ではないことは明らかです。なぜなら,特許が存在するということは,その技術内容は「出願公開」により既に公開されているからです。

 

 では,特許技術を使いたい人に,無償でライセンスしてあげるという意味でしょうか。そうかも知れませんが,単に誰でも使えるようにしたいのであれば,もっと手っ取り早い方法があります。特許権を放棄するか,「特許料」という維持手数料を特許庁に収めるのをやめて失効させればよいのです。記事のいう「無償公開」とはこのように権利自体を消滅させるという意味かも知れませんが,定かではありません。

 

 記事を書いた人は,おそらく特許に関しては詳しくないため「無償公開」という不明確な言葉を使ったのだと思いますが,伝えようとする事実関係が伝わらないのは困ったことですね。最近では,司法試験の選択科目で,特許法を含む「知的財産法」を選択した弁護士も増えている一方で,弁護士の就職難が問題になっていたりします。新聞社でも,そういう人材をうまく活用して,記事の質を高める努力をされるといいのになあ…と思う今日この頃です。

日経新聞

新聞を読んで、廃業してもニュースとして取り上げてもらえるのがすごいな、とそっちに興味がありました(広報室なので…)。
大江先生の知財ネタ、楽しみにしています!

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