「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(案)に関する御意見募集に対する意見書

「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(案)に関する御意見募集に対する意見書

2016年(平成28年)8月3日

内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)
 松 本  純 殿


大阪弁護士会      
会長 山 口 健 一


「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(案)に関する御意見募集(パブリックコメント)に対する意見書

 消費者庁より意見募集(パブリックコメント)に付された「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(案)(以下「改正ガイドライン案」という。)に対する当会の意見は以下のとおりである。

第1 意見の趣旨
 改正ガイドライン案は,公益通報の主体を拡げ,通報者の秘密保持を強化し,不利益取扱を抑止し,社内リニエンシー制度を導入する等,公益通報の活性化に資する点で一定の前進と評価できる一方,依然として不十分な点があるので,更に以下のような対処が必要である。



1 ガイドラインを実効あらしめるため,事業者に対する指導の徹底などの具体的方策を検討すべきである。
2 通報を受けた事業者が是正措置を取らない場合,通報者に対し通知を行うことを定めるべきである。
3 改正ガイドライン案8頁「通報者等への謝意の表明」との項の表題は,「通報者等に対する正当な評価及び報奨」とすべきである。
4 消費者庁ホームページに掲載されている通報処理に係る内部規程例・様式例等も改正ガイドライン案に整合するよう早急に整備すべきである。
5 「国の行政機関の通報処理ガイドライン」も同様に改正すべきである。
6 公益通報の活性化のため,公益通報者保護法自体を早急に改正すべきである。

第2 意見の理由
 1 改正ガイドライン案の経緯
  改正ガイドライン案は,2005年(平成17年)に内閣府が制定していた現行の「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」について,消費者庁が同庁に設けられた「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」の第1次報告書(本年3月22日)等を踏まえて改正する案である。
 2 改正ガイドライン案に関して評価し得る点
  意見募集(パブリックコメント)に付されている改正ガイドライン案を見ると,同法の施行から10年の事例蓄積を踏まえてアップデートされ,また当会が同法に関して提言してきた法改正へ向けての意見(2011年(平成23年)2月16日付「公益通報者保護法の見直しについての意見書」,本意見書に添付)も取り入れつつ,現行ガイドラインでは触れられていなかった内容も盛り込まれるなど,事業者の違法行為等を通報した通報者の保護の見地からは一定の前進であるといえる。
 意見募集(パブリックコメント)に付されている改正ガイドライン案及び「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン(案)と現行ガイドラインの対照表」(以下「新旧対照表」という。)に即して具体的に述べれば,以下のとおりである。
(1)公益通報の主体の拡充
 公益通報者保護法は,公益通報の主体を「労働者」に限定し「通報対象事実」を一定範囲の法律の刑罰法規違反等に限定しているが,改正ガイドライン案はこれらを限定せず可能な限り広げることが適当としており(改正ガイドライン案5頁以下「通報窓口の利用者等の範囲の拡充」・新旧対照表4頁「Ⅱ-1(1)⑤」),同法を補完するものとなり得る。
(2)通報者の秘密保持の強化
 通報の秘密保持に関する記載を充実させ(改正ガイドライン案9頁「秘密保持の重要性」・新旧対照表9頁以下「Ⅲ-1(1)①②」,改正ガイドライン案9頁以下「外部窓口担当者の秘密保持」・新旧対照表10頁「Ⅲ-1(2)②」,改正ガイドライン案10頁「個人情報の保護」・新旧対照表11頁「Ⅲ-1(3)①」及び改正ガイドライン案11頁「調査と個人情報の保護」等)・新旧対照表12頁「Ⅲ-1(4)①」,匿名の通報も受け付けることを求める(改正ガイドライン案10頁「匿名通報の受付と実効性の確保」・新旧対照表12頁「Ⅲ-1(3)③」)などしており,これらは通報者の秘密保持を強化し,通報者が不利益を受ける可能性を低減させるものとなり得る。
(3)不利益取扱の抑止
 通報等をしたことを理由として,不利益取扱いを行った者や通報等に関する秘密を漏洩した者に対する懲戒処分その他適切な措置を講じること(改正ガイドライン案11頁「違反者に対する措置」・新旧対照表13頁「Ⅲ-2②」)は,そのような行為を抑止し,通報者が不利益を受ける可能性を低減させるものとなり得る。また,通報者等を正当に評価すること(改正ガイドライン案8頁「通報者等への謝意の表明」・新旧対照表9頁「Ⅱ-3(2)③」)は,通報を活性化させ,法令遵守,ひいては消費者の利益につながるものとなり得る。
(4)社内リニエンシーの導入
 いわゆる社内リニエンシー制度の導入(改正ガイドライン案11頁以下「自主的に通報を行った者に対する処分等の減免」・新旧対照表13頁「Ⅲ-3」)も,通報者に対して違法行為等に関与したことを理由に不利益処分がなされる事例が過去に見られたことから,通報者の保護に資するものとなり得る。
3 改善を要する点
 しかし,以下のとおり,なお改善を要する不十分な箇所や,単なるガイドライン改正ではなく公益通報者保護法自体の改正により対処すべき点もある。
(1)指導の徹底
 ガイドラインは事業者に対する法的強制力を有しないので,現状では事業者がこれに違反しても何ら法的制裁を受けるわけではない。
 したがって,ガイドラインを事業者に遵守させるためには行政による指導の徹底などの具体的な方策が必要である。
(2)是正措置を取らない場合の通知
 改正ガイドライン案に則って内部通報制度を整備すれば,事業者は違法行為等に関する情報を把握しやすくなるが,その情報を把握した事業者がどのように対処すべきかについては改正ガイドライン案に何らの規定も設けられていないため,これらの情報が握りつぶされてしまい,是正につながらない事態も十分考えられる。特に,事業者が通報に対する是正措置をとらない場合において通報者に対する通知を行うべき旨が定められていないので,通報者の側では事業者に是正を委ねておくことが適切なのか否かの判断を行うことができない。
 したがって,事業者が是正措置をとらない場合も通報者に対してその旨の通知を行うことを定めるべきである。
(3)改正ガイドライン案8頁の記載
 改正ガイドライン案には「通報者等への謝意の表明」との表題の項がある(改正ガイドライン案8頁・新旧対照表9頁)。
 しかし,その内容は謝意の表明にとどまるものではなく,当該通報が単に組織への貢献ということだけではなく,国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資するものであるという通報者に対する正当な評価及び報奨とすべきであり,この点こそが重要なのであるから,表題は「通報者等に対する正当な評価及び報奨」とすべきである。また,これに応じて,「組織への貢献を正当に評価すること」という本文中の表現は,「組織への貢献並びに国民生活の安定及び社会経済の健全な発展への貢献」とすることが望ましい。
(4)消費者庁ホームページの整備
 改正ガイドライン案の内容を事業者が内部規程に反映させることは必ずしも容易でない。現在,消費者庁ホームページには,通報処理に係る内部規程例・様式例等が掲載されているが,これらも改正ガイドライン案に整合するよう早急に整備すべきである。
(5)「国の行政機関の通報処理ガイドライン」の改訂
 改正ガイドライン案は民間事業者を対象とするものであるが,行政機関についても同様の趣旨は妥当するので,「国の行政機関の通報処理ガイドライン(内部の職員等からの通報)」についても同様の改正を行うべきである。
(6)公益通報者保護法自体の改正
 改正ガイドライン案は,通報者が不利益を被る可能性を一定程度低減させる効果を有するが,この改正ガイドライン案に基づいて通報者が法的に保護されるわけではないので,通報者が実際に何らかの不利益を被ってしまった場合の救済とはならない。
 したがって,公益通報の活性化による法令遵守を図るためには,改正ガイドライン案ではなお不十分であり,同法自体の改正を早急に行うことが必要不可欠である。この点については、添付の意見書のとおりである。
4 まとめ
 以上述べたとおり,当会は,改正ガイドライン案は通報者の保護を一定程度前進させるものとして評価するが,他方で依然として不十分な箇所も散見され,その点については改善が必要である。
 また,公益のために通報したにもかかわらず不利益を被った通報者を救済するためには公益通報者保護法自体の改正が必要不可欠である。同法は,制定時の附則第2条において「政府は,この法律の施行後五年を目途として,この法律の施行の状況について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と規定しているが,それにもかかわらず抜本的な改正のないまま既に施行後10年以上が経過している。当会は前記「公益通報者保護法の見直しについての意見書」において,同法を通報者保護の見地から早急に改正すべき旨を提言してきたが,今回あらためて同法に関し実効性のある改正を速やかに行うべきことを強く求めるものである。
以 上

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