大分監視カメラ設置事件に対する会長声明

大分監視カメラ設置事件に対する会長声明

 大分県警察別府署の署員が、2016年(平成28年)7月の参議院議員選挙の公示前後、同県別府市にある野党支援団体の選挙対策事務所の敷地内に無断で立ち入り、同敷地内に監視ビデオカメラを設置していたことが発覚した。同県警は、他人の管理する敷地内に無断で侵入したことについては謝罪する一方で、カメラの設置自体については「個別の容疑事案で特定の対象者の動向を把握するため」と説明するだけで、県議会でも同県警本部長は「撮影行為は犯罪行為ではない」と答弁し、現在も謝罪していない。
 しかし、本件の問題の本質は、他人の管理する敷地内に無断で侵入したことではなく、無断でビデオカメラを設置し撮影したことにこそある。
いうまでもなく、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有し、警察官であっても、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、現に犯罪が行なわれているような特段の事情の無い限り、憲法13条の趣旨に反し許されない(最大判昭和44年12月24日)。特に、隠しカメラによる隠し撮りは、常時監視する点でプライバシーに対する強度の制約であり、さらには、捜査対象とは関係のない情報をも同様に網羅的に収集するという特性もある。大阪地裁平成6年4月27日判決(後に最高裁で確定)も、こうした理解を前提に、大阪府警察本部が特定の建物出入口に向けて設置した監視カメラを違法と断じ、その撤去を命じている。同判示は、現在においても当然妥当するところであり、むしろ、その後の撮影技術・顔認証技術の発達をも考慮すれば、より厳格に、その限界を画するべきである。この点、警察庁が本件事件を受けて本年8月26日に発出した警察庁刑事局刑事企画課長通達(警察庁丁刑企発第97号)は、設置する土地又は建物管理者の承諾を求めるだけのものであり、隠し監視カメラの上記権利侵害の危険性への配慮に欠け、任意捜査として許容される基準も曖昧なものであり、不十分と言わざるをえない。
 また、市民の政治活動の自由、表現の自由等が、民主主義社会において最も尊重されるべき権利であることは疑いないところ、警察が選挙対策事務所の出入口を撮影して監視するという事実自体、これらの権利行使に対する多大な萎縮的効果をもたらすものであり、政治活動の自由及び表現の自由、ひいては思想・良心の自由に対する重大な侵害である。
 よって、本件監視カメラの設置及び撮影行為は、プライバシー権のみならず、市民の政治活動の自由、表現の自由、思想・良心の自由等を不当に制約するものであって、明らかに違法なものと断ぜざるを得ない。
 当会は、今回の大分県警察本部による違法な監視カメラ設置行為および撮影行為につき厳重に抗議するとともに、今後、全国の各警察署において、こうした違法な監視カメラの設置・撮影が行われないよう法的規制等抜本的な防止策を講じるよう国に求めるものである。

2016年(平成28年)10月4日
  大阪弁護士会      
  会長 山 口 健 一

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