「谷間世代」の貸与金返還猶予を求める会長声明

「谷間世代」の貸与金返還猶予を求める会長声明

1 司法修習生に対する給費制が廃止された2011年11月から給付金制度が創設された2017年4月までの司法修習生(新第65期から第70期までの約1万1千人、いわゆる「谷間世代」。)は、その約8割が司法修習期間中に貸与金制度を利用し、約300万円の貸与金返還債務を負って法曹となった。
  当会は、2018年2月14日付け会長声明で、「法曹三者は、国民の権利・利益を擁護する司法権の担い手であり、これを充分に育成することは国家の責務である」とし、法務省、最高裁判所、国会等関係機関に対し、谷間世代の不平等・不公平の是正措置として、相当額の一律給付等の具体策の検討を求め、是正措置が講じられるまでの間は貸与金の返還期限を猶予することを求めた。
しかし、その後、何の対応もなされないまま、本年も貸与金の分割返還期限である7月25日を迎える。新第65期は3回目、第66期は2回目、第67期は初回の返還であり、返還額は約30万円である。
2 ところで、新型コロナウイルスの全国的かつ急速なまん延を受け、本年4月7日、緊急事態宣言が出され、不要不急の外出の自粛、学校や事業者に対する施設の使用制限・停止等が要請され、多くの企業、事業者はその活動を休止ないし大幅な縮小を余儀なくされた。破産、廃業、労働、賃貸借、離婚、貧困等の様々な問題に悩む市民が急増する中で、法曹には市民の権利・利益を擁護する社会的使命を果たすことがより強く求められている。これに対し、当会では、いち早く無料電話相談を開始し、その対象を拡大し、行政の救済制度の情報提供を行うなどして、市民の権利救済の活動に積極的に取り組んでいる。当会の活動以外でも、在阪の弁護士はホットラインを設けて市民の電話相談に応じたり、弁護士に対する専門研修を実施して相談体制を築くなどして、意欲的に社会の要請に応じている。谷間世代の弁護士も例外でなく、これらの公益的・社会的活動に積極的に取り組んでいる。
  その一方で、緊急事態宣言に伴い、裁判所が緊急案件以外は期日を延期等し、又、外出の自粛要請に協力するなどしてきたため、事件処理が進まず、必然的に弁護士の業務も困難に見舞われている。この先も、どの程度の減収となるか、いつ回復するかの見通しが立たない状況である。谷間世代以外の弁護士も同様であるが、特に谷間世代の弁護士には、貸与金返還という経済的負担が加わり、かつ返還期限が7月25日に迫っている状況にある。
3 貸与金返還について、最高裁判所は、「災害,傷病その他やむを得ない理由により返還することが困難となった場合」に、「1年以内で当該猶予に係る事由が継続すると見込まれる期間」返還期限を猶予することができる(最高裁判所HP)。
 この度の新型コロナウイルス感染症は感染経路が不明でいつ感染するかもわからない反面、感染すれば短期間のうちに重症化するケースも報告されている。また、外出の自粛要請等による事業活動の休止等が日本社会全般に及んだ。このように新型コロナウイルス感染症の拡大は人と社会に対する脅威といえ、「災害」に該当、または災害に準ずる事情として「その他やむを得ない理由」に該当する。
 そして、同宣言が一旦解除されたとはいえ、新型コロナウイルスに対するワクチンや感染症に対する特効薬の開発がいつになるか判然とせず、感染まん延の第二波、第三波が到来する懸念も含め、予断を許さない事態が継続しており、「当該猶予に係る事由が継続すると見込まれる期間」がいつまでとなるかを具体的に見込むことは困難であるが、1年間はこうした事態が継続すると見込むことも不合理とは言えない。
 貸与金の返還期限の猶予を求めるためには5月31日までに申請書の提出が必要とされているが、緊急事態宣言の発令は4月7日であり、それを受けて申請書の提出を検討し始めたとしても、提出期限までの期間は極めて短かったと言わざるを得ない。申請書提出期限経過後の申請は可能であるものの、返還期限経過後に猶予が承認された場合であっても、年率14.5%の遅延損害金の負担が生じてしまう。本年は、期限までに個別に申請書の提出を要求し、遅れた場合の負担を返還義務者に負わすことは酷である。
4 よって、法曹三者は、国民の権利・利益を擁護する司法権の担い手であり、これを充分に育成することは国家の責務であることに鑑み、当会は、国に対し、改めて、谷間世代の不平等・不公平の是正等の措置を講ずることを求めるとともに、谷間世代が、経済的にも心理的にも、コロナ禍に伴う公益的・社会的活動に積極的に取り組むことに制約が生じることがないよう、本年7月25日に迫った今年度の貸与金返還期限を、個別の返還期限猶予申請書を要求することなく、全返還義務者に対し、1年間猶予する措置を早急に講じるよう求める。

2020年 (令和2年) 6月19日
       大阪弁護士会      
        会長 川下  清

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