接見室内での地図アプリ利用を理由とした接見制限に対する国家賠償請求訴訟控訴審判決を受けての会長声明

接見室内での地図アプリ利用を理由とした接見制限に対する国家賠償請求訴訟控訴審判決を受けての会長声明

 2021年(令和3年)3月2日、東京高等裁判所は、千葉県弁護士会所属の遠藤直也弁護士が提起した国家賠償請求訴訟に対し、一審の千葉地方裁判所判決(原告の請求棄却)を支持し、同弁護士の控訴を棄却する判決を下した。
 この事件は、遠藤弁護士が、被告人との接見において、外国の地図を示して打ち合わせる必要があったことから、スマートフォンのアプリケーションで地図を表示していたところ、千葉刑務所職員が違法にも設置されている視察窓から接見室内をのぞき見した上で、同弁護士に対しスマートフォンの使用を制止し、さらには接見を中断させたという事案である。遠藤弁護士によって国賠訴訟が提起されたが、一審の千葉地方裁判所、控訴審の東京高等裁判所は、いずれも、このような形態でのスマートフォンの利用を一律に制限するのはやむなしとして、同弁護士の請求を退けた。
被疑者、被告人の防御権及び実質的で充実した弁護を受ける権利の保障は憲法の要請するところであり、秘密交通権、すなわち、本人と弁護人とが秘密の確保された状態で十分な打ち合わせなどを行う権利はその基盤をなしている。その意味において、そもそも本件においては、刑事施設職員が、接見室内で大きな物音がしたとか、大声を出しているなどといった特段の事情もないのに、接見状況を覗き見たこと自体に、秘密交通権の侵害が問われるべきであった。
 そのことをひとまず置くとしても、秘密交通権の保障が及ぶ接見は、単に弁護人と被疑者・被告人が直接的・即時的に意思の疎通を行うことに限られず、その防御権を実効化するために弁護人が行う必要がある様々な方法や手段が含まれる。このことは、接見室におけるビデオテープを再生しての被告人との打ち合わせが、接見の一内実として秘密交通権の保障が及ぶとした、いわゆる後藤国賠訴訟判決(大阪地方裁判所2004年(平成16年)3月9日判決。2005年(平成17年)1月25日、大阪高等裁判所が国の控訴棄却、2007年(平成19年)4月13日、最高裁判所が国の上告不受理決定により確定)からも明らかである。これらの点から、弁護人が接見において電子機器を利用することも、当然に秘密交通権の保障が及ぶものである。その必要性及び適切性は、弁護士法及び弁護士職務基本規程に基づき高度の職業倫理を課せられている弁護人自身が判断すべきであり、捜査権の行使や未決拘禁の目的との調整は必要ない。
 ここで注意すべきは、IT技術などの進歩に伴い、弁護を受ける権利や秘密交通権の内容も、それに合わせて刻々と変化して行かなければならないということである。たとえば、接見室における証拠動画の再生は、前述の後藤国賠を経て、現在では当然の弁護活動として定着するに至っている。また今後、刑事裁判のIT化の一環として、IT技術をはじめとする各種の科学技術を積極的に活用した弁護活動も視野におかれねばならない。弁護活動だけが社会の進歩から取り残されるようなことがあっては、現代における被疑者、被告人の人権保障が図れないことはいうまでもない。この点本事件判決は、 携帯電話等が通話機能やメール送受信機能などを有していることをことさらに指摘し、その利用を許せば逃亡及び罪証隠滅等が発生する危険性が高いとするが、外部通信機能を有することはパーソナルコンピュータ等も同様であり、当該判決の理由付けからすれば、これらの利用も一切認められないこととなる。しかし、このような結論が現代の社会の実情にそぐわず、刑事裁判のIT化への流れにも逆行する、時代遅れの判断であることは明らかである。
 これらの観点からすれば、今回の千葉地裁、東京高裁判決は、スマートフォン等の電子機器使用が有するとされる抽象的な弊害にのみ気をとられ、現代的な秘密交通権の保障、ひいては弁護を受ける権利の充実という重大な利益を軽視したものであって、時代の要請に逆行するとの批判を免れない。この点については、2013年(平成25年)に開催された近畿弁護士会連合会大会において、接見室における弁護人の自由な電子機器の利用を妨害しないことを求める決議がなされているところであるが、当会としては、防御権、弁護を受ける権利のさらなる充実を目指し、今回の判決に抗議し、最高裁判所による適正な判断を求めるとともに、改めて法務大臣、検事総長、国家公安委員会及び警察庁長官に対し、弁護人による自由な電子機器の接見室への持ち込み及び利用を阻害しない運用を求める。

2021年 (令和3年)3月22日 
        大阪弁護士会      
         会長 川下  清

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