被収容者等による刑事施設内診療施設の診療記録等の保有個人情報開示請求について原則として開示に応じるよう求める会長声明

被収容者等による刑事施設内診療施設の診療記録等の保有個人情報開示請求について原則として開示に応じるよう求める会長声明

 2021年(令和3年)4月8日、大阪高等裁判所第6民事部(大島眞一裁判長)は、大阪刑務所収容中の控訴人が、行政機関の保有する個人情報保護に関する法律(以下「法」という。)13条に基づき保有個人情報である診療録等(以下「本件情報」という。)の開示を請求したところ、処分行政庁から、本件情報は法45条1項により開示請求の規定の適用が除外されている情報に該当するとして、その全部を開示しない旨の決定(以下「本件決定」という。)を受けたことから、本件決定の取消しをもとめた事件について、同項を無制限に適用することは、医療情報の取扱いに関して、規制目的との関係で合理的な均衡を欠く事態を招来し、個人情報保護法制の基本理念と整合しない等とし、同項は診療情報には適用されないと解釈すべきとして、本件決定を取り消す判決を下した(以下「本件判決」という。)。
 この点、法12条1項は、「何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる。」と規定するが、他方、法45条1項は、「刑事事件若しくは少年の保護事件に係る裁判、検察官…が行う処分、刑若しくは保護処分の執行…」等に係る保有個人情報(以下、同条項所定の保有個人情報を「刑事関連情報」という。)については開示請求の対象としないとの適用除外を定めている。そして、従来、被収容者が刑務所内診療施設の診療記録等の保有個人情報開示請求を行ったとしても、法45条1項の刑事関連情報にあたるとして不開示とされてきた。また、不開示決定の取消しを求めた過去の裁判例においても、法45条1項の趣旨を、刑事関連情報は、個人の前科、収容歴等の高度のプライバシー情報を含んでおり、これらの情報を開示請求等の対象とすると、例えば、雇用主が、採用予定者の前科の有無、収容歴等を確認する目的で、採用予定者本人に開示請求をさせるなどすることで前科や収容歴等が明らかになり、本人の社会復帰の妨げとなるなどの弊害が生じることから、そのような弊害を防止することにあるとしたうえで、この趣旨は受刑者に対して講じられた医療上の措置に係る個人情報にも妥当する、として不開示決定の取消しを認めてこなかった。
 これに対し、本件判決は、情報通信が高度に発達した現代社会においては、受刑歴といった個人情報が大量に伝播流通しており、しかも、それらは公共の利害に関する情報でもあることから、それらの情報がインターネット上で伝播流通することは一定の限度でやむを得ないこととして法的に容認されているなか、刑事関連情報の開示請求を否定したとしても、社会復帰や更生の妨げとなりかねない個人情報の伝播流通がなくなるわけではなく、規制目的と規制手段との合理的な均衡を欠いていると言わざるを得ないと判断した。そのうえで、「診療情報は…生命と健康に直結する個人情報である。生命と健康の維持は最も重要な人格的利益であるから、「個人の人格尊重」という個人情報保護法制の基本理念(個人情報保護法3条)に照らせば、診療情報を得る利益は合理的な理由なしに制限を受けるべきではない。また、法45条1項を刑事関連情報中の診療情報にも無制限に適用すると、…刑事施設の被収容者(あるいは被収容者であった者)と一般国民の間において、合理的に説明しにくい不平等が生じることになる。したがって、法45条1項を無制限に適用することは、医療情報の取扱いに関して、規制目的との関係で合理的な均衡を欠く事態を招来し、個人情報保護法制の基本理念と整合しないということができるから、法45条1項は診療情報には適用されないと解すべきである。」と判断した。当会は、本件判決のこの点の判断を高く評価するものである。
 現代の高度情報社会、デジタル社会においては、自己の情報が社会のあらゆる場面で伝播流通し、大量の個人情報が行政機関に保有されることは避けられない。このような状況のもと、行政機関の保有する自己の情報を知ることはプライバシー権(憲法13条)又は国民の知る権利(憲法21条)の一環として法的に保護される利益であり、法12条1項の保有個人情報開示請求権もこのような利益を保護するものである。特に、本件判決も指摘するように診療情報は生命と健康の維持という最も重要な人格的利益に直結する個人情報であり、合理的な理由無く開示請求が制限されるべきではない。
 この点、日本も1979年(昭和54年)に批准をした「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(国際人権A規約)12条1項は、「この規約の締約国は、すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有することを認める。」と定めている。また、2015年(平成27年)に国連総会で改正が採択された「被拘禁者処遇最低基準規則」(マンデラ・ルールズ)26.1も、「ヘルスケア・サービスは、すべての被拘禁者に関して正確で最新かつ秘密の個人医療ファイルを準備し、かつ保持しなければならない。すべての被拘禁者は、請求により自己のファイルへのアクセスを認められなければならない。被拘禁者は、自己のファイルにアクセスするため第三者を指名することもできる。」と定めている。これらからすると、被収容者に自己の医療情報を知る権利を認めることが国際基準であると言える。
 しかも、我が国における刑事施設内の医療に関しては、常駐する医師の不足が問題とされ、かつ、すべての専門領域の医師に容易にアクセスすることができないこと、被収容者の高齢化が進み、慢性疾患を有する者が多いこと等の実態がある。この点に鑑みれば、ますます医療情報の開示を認める重要性が高まっていると言える。
 当会も、刑事施設の多くの被収容者から、施設内の医療が十分ではない旨の人権侵害救済の申し立てを受け付けているが、施設が被収容者に医療情報の開示(カルテ開示)を認めない為に十分な調査が出来ず、刑事施設内診療施設において、刑事収容施設及び被収容者の処遇等に関する法律56条の、「被収容者の心身の状況を把握することに努め、被収容者の健康及び刑事施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする。」という点が、適切に実施されているかの調査が容易ではない、という問題に直面している。
 よって、当会は、矯正局等に対し、本件判決を契機にこれまでの方針を転換し、今後、刑事施設の被収容者(あるいは被収容者であった者)から、刑事施設内診療施設の診療記録等の保有個人情報開示請求があった場合には、法45条1項を適用することなく、原則として開示に応じるよう求める。

2021年 (令和3年)4月30日
        大阪弁護士会      
         会長 田中  宏

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