大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画(案)の撤回を求める会長声明

大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画(案)の撤回を求める会長声明

 当会は、カジノ解禁には、暴力団対策上の問題、マネー・ローンダリング対策上の問題、ギャンブル依存症患者の増加、多重債務問題再燃の危険性、青少年の健全育成への悪影響等様々な問題があることに加え、我が国では近代法制定以前から厳禁され、刑罰の対象とされてきた賭博行為を、特定の場所、特定の者に限定して非犯罪化するものであり、また、史上初めて民間賭博場を公認するという、我が国の刑事司法政策に極めて重大な変更をもたらすことを理由に2014年(平成26年)6月に「「特定複合観光施設区域の整備に関する法律案」(いわゆる『カジノ解禁推進法案』)に反対する会長声明」を、2016年(平成28年)12月に「「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる『カジノ解禁推進法案』)の廃案を求める会長声明」を、2018年(平成30年)5月に「「特定複合観光施設区域整備法」案(いわゆるカジノ解禁実施法案)に反対する会長声明」を、2019年(令和元年)10月に「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)に反対し、撤回を求める会長声明」を公表し、一貫して、カジノ解禁に反対意見を表明してきた。
 ところで、大阪府及び大阪市(以下「大阪府・市」という。)は、大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画(案)(以下「区域整備計画案」という。)を公表し、この区域整備計画案の認定申請について、令和4年2月、3月の府議会及び市会においてそれぞれ審議する予定である。
 しかし、カジノ解禁に関しては上記のような問題があることに加え、今回の区域整備計画案には以下のような手続上の問題がある。
 大阪府・市は、令和4年1月、議会での審議に先立って、区域整備計画案に関する説明会及び公聴会を実施した。しかし、議会の議決を経て認定申請する直前に説明会を実施しても住民の合意形成を得る手続としては不十分である。しかも、大阪府・市は新型コロナウイルス感染症の拡大状況を踏まえ、令和4年1月7日から都合11回の開催を予定していた説明会の第8回以降を中止した。説明会を中止せずとも、双方向でのやりとりが可能なオンラインによる開催や、新型コロナウイルス感染症対策を徹底した上で、会場参加者数の制限を設けてオンラインによる説明会を併用するなどの工夫も考えられたはずである。新型コロナウイルス感染症の拡大状況があるとしても、説明会を十分に開催しないまま、区域整備計画案の提出作業を進めることを正当化することはできない。また、公聴会は4回しか開催されず、かつ、公述人の発言時間は一人5分に限られており、十分な意見を述べる機会は確保されなかった。このように、住民の意見を聞く機会は極端に制限されている。
 以上に加え、区域整備計画案発表の段階になって、夢洲の土壌汚染・液状化対策に関し、大阪市において790億円を負担するとの表明がなされた。これまで大阪府・市は、カジノを中心とするIR施設を設置するのに公費は投入しないかのような説明をしていたが、その説明が急遽覆される形となった。こうした新たな問題が発生し、本区域整備計画案について住民の合意形成を図る手段として、住民が判断するために必要な情報を開示した上で、住民投票の実施を求める声も高まっている中、説明会の多くをいきなり中止し、公聴会も不十分なまま議会の承認を得る手続が進められている。
 特定複合観光施設区域整備法第9条7項において、都道府県等は、特定複合観光施設区域の整備に関する計画を作成しようとするときは、公聴会の開催その他の住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならないとされ、同法についての参議院附帯決議においても、同計画の作成等において、公聴会等の開催や情報開示を通じ、住民の合意形成に努めることとされているが、大阪府・市の区域整備計画案作成に向けた対応は上記法律等の要請を満たすものとは到底いえない。
 そこで、当会は、上記のような様々な問題のあるカジノ解禁そのものに改めて強く反対する。さらに、住民投票を求める声もある中、手続上の観点からしても、適切な情報開示を通じた住民の合意形成を軽視した現状のまま区域整備計画案について府議会・市会の議決を経ることは許されないことから、同区域整備計画案の撤回を求めるものである。

2022年(令和4年)2月25日
          大阪弁護士会      
           会長 田中  宏

ページトップへ
ページトップへ