「外国籍会員の調停委員への任命上申の拒絶、司法委員の選任拒否に強く抗議し、調停委員・司法委員の任命にあたり国籍を問わないことを求める会長声明」を発表しました
・外国籍会員の調停委員への任命上申の拒絶、司法委員の選任拒否に強く抗議し、調停委員・司法委員の任命にあたり国籍を問わないことを求める会長声明
大阪家庭裁判所から依頼を受け、当会が2022年(令和4年)9月20日付けで行った韓国籍の当会会員1名の推薦に対し、同家庭裁判所は、書類審査の結果、当会の推薦には応じられないとして最高裁判所に当該会員の任命上申を行わなかった。
また、大阪地方裁判所からの司法委員となるべき者の推薦依頼に応じて、当会が同年9月29日付けで行った韓国籍の当会会員1名の推薦に対し、大阪地方裁判所は、候補者選考の結果として当該会員を選任しないことを決定した。
いずれも、拒絶の理由は、家事調停や簡易裁判所での和解の補助、審理の立会といえども公権力の行使であり、国家意思の形成に関与すること等の理由から、調停委員や司法委員は、日本国籍を有する者である必要があると解することが相当であるというものである。
当会は、これまでも外国籍の会員を家事調停委員に推薦したが、いずれも同様の理由により任命上申を拒絶されており、極めて遺憾であり、強く抗議するものである。
最高裁判所は、地方公務員に関して、住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とするもの(以下「公権力行使等地方公務員」という。)については、国民主権の原理に基づき、原則として日本国籍を有する者が就任することが想定されていると見るべきであり、外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは、本来我が国の法体系の想定するところではないとしている(2005年(平成17年)1月26日大法廷判決)。
しかし、法令上、外国籍の者が調停委員や司法委員になることができない旨の規定はない。また、外国籍の者が一定の公職に就くことが制限されることがあるとしても、すべての公務員について、その具体的な職務内容を問題とすることなく、日本国籍を有するか否かにより差別的取扱いを行うべきではない。現に過去には日本国籍ではない当会会員を調停委員として任命した実例もある。
家事調停制度は、市民間の家事の紛争を当事者の話合いに基づき解決する制度であり、調停委員の役割は、当事者双方の話合いの中で法律的な観点から助言や斡旋、解決案の提示を行い、合意を促して紛争の解決にあたるというものであって、単独で公権的判断を行う裁判官のそれとは同一でなく、かつ外国籍の者が家事調停委員に就任することが国民主権原理に反するとは考えられない。また、調停委員は、調停委員会の一員として決議に参加するが、これは調停制度による紛争解決の実行性を確保するための付随的なものにすぎず、その職務の性質上、当事者の権利を制約することは想定されていない。このような職務の性質及び内容に鑑みても、調停委員の職務が「公権力の行使等」に当たると解することはできない。
司法委員制度は、簡易裁判所の訴訟事件について、和解について裁判官を補助したり、事件について審理に立ち合い、裁判官に意見を述べたりする仕事である(民事訴訟法第279条1項、なお民事訴訟規則第172条)。裁判所のホームページでは、司法委員について、「簡易裁判所の民事訴訟では、一般市民の中から選ばれた司法委員に加わってもらい、その豊富な経験や専門知識、健全な良識を争いの解決に生かしています。」「司法委員は、裁判官が和解を試みるときにその補助をしたり、審理に立ち会って、裁判官に、参考となる意見を述べたりします(民事訴訟法第279条第1項)。和解を補助する場合には、その社会経験を生かして、どのような内容の和解をすれば争いが抜本的に解決するかなどについて裁判官に助言したり、裁判官と共に当事者への説明や当事者の説明に当たったりします。また、審理に立ち会う場合には、一般市民の良識や知識、経験に基づき、証人の証言が信用できるかどうか、事件の見方などについて、裁判官に意見を述べることになります。この意見は、あくまで参考意見なので、最終的には裁判官が判断することになります。」「選任されるために特別な資格などは必要なく、社会人としての健全な良識のある人の中から選任されます。」と解説している。家事調停委員と同じく、その職務の性質上、当事者の権利を制約することは想定されていない。このように、司法委員に求められている資質や職務の性質及び内容に鑑みても、司法委員の職務が「公権力の行使等」に当たると解することはできない。
また、大阪においては、相当数の在留外国人が暮らしている。これら在留外国人が関係する紛争事案も少なくなく、外国籍を有する家事調停委員や司法委員がその解決を効果的に支援することは、事案の早期解決のためにも極めて有意義である。
さらに、多民族・多文化共生社会の形成の視点からすれば、国籍の有無にかかわらず、家事調停委員や司法委員への就任を認めることは当然の要請と考えられ、調停委員や司法委員の任命においても多様性の尊重が求められる。
以上のとおり、調停委員や司法委員について、日本国籍を有しないことのみを理由として、任命上申を拒絶したり選任を拒絶したりすることは、憲法第14条、自由権規約第26条及び人種差別撤廃条約第5条の平等原則に違反するものといわざるを得ない。
2018年(平成30年)8月30日、国連の人種差別撤廃委員会は、人種差別撤廃条約の実施状況に関する第10回・第11回日本政府報告に対する総括所見を発表した。45項目に及ぶ懸念及び勧告事項の中で、第22項は、在日コリアンが、公権力の行使または公の意思形成の参画にたずさわる国家公務員に就任できるよう確保すること、第34項(e)は、長期間滞在する外国籍の者等が公務員の地位にアクセスできるようにすることを勧告している。
この勧告は、公権力の行使等に携わる国家公務員についてさえ外国籍を有する在日コリアンが就任することや長期間滞在する外国籍の者が公務員の地位にアクセスできることを求めているのであるから、公権力の行使等にあたらない調停委員や司法委員に外国籍を有する者を採用することは、勧告の趣旨に合致するものである。
調停制度が100周年を迎え、日本に長期滞在している外国籍保有者は270万人に上る。社会の変化に対応して人々のニーズに応えるためにも、調停制度や司法委員制度に国際化が求められる。その意味からも、外国籍の調停委員や司法委員の採用を認めるべきである。
よって、当会は、大阪家庭裁判所及び大阪地方裁判所に対して、このような事態を繰り返さないことを強く求めるものである。
大阪弁護士会
会長 福 田 健 次