OSAKA BAR ASSOCIATION

民事法律扶助事業に対する
予算措置を求める決議

民事法律扶助法は、国の責務として民事法律扶助事業の適正な運営と健全な発展のために必要な措置を講ずるべきことを規定しており、また、司法制度改革審議会意見書においても民事法律扶助の拡充と一層の充実を図ることが明記されている。

しかるに、財団法人法律扶助協会に対する補助金予算の額は拡大されていない。大阪支部における民事法律扶助事業も、経済環境の低迷の中援助すべき事件数が飛躍的に増大しているため、平成13年度の補助金も、年度途中に事実上枯渇し、次年度予算を先取りして援助を行う事態となっているにも拘らず、平成14年度の補助金予算は、大巾に増額されることがなかった。民事法律扶助事業は、まさに破綻の危機に瀕しており、このままでは、市民に対して司法サービスを提供することが著しく遅れ、または不可能となって国民生活の再構築が進まず、国の経済の疲弊に拍車をかけることとなる。

この事態に対して、大阪弁護士会は、従来にも増して民事法律扶助事業に対する協力・支援を強化しているが、国こそが、民事法律扶助法及び司法制度改革推進法によって、民事法律扶助の拡充に一層の責任を負わなければならないものである。

よって、大阪弁護士会は、国に対し、民事法律扶助事業に対する補助金予算の大規模な増額措置を速やかに講ずることを強く求める。

以上、決議する。

2002年(平成14年)5月29日
大阪弁護士会
 会長 佐伯照道



提案理由

1 民事法律扶助法の制定と国の責務

民事法律扶助法は、平成12年4月21日に成立し、同年10月1日より施行された。同法第3条は、国の責務として、「国は、民事法律扶助事業の適正な運営を確保し、その健全な発展を図るため、民事法律扶助事業の統一的な運営体制の整備及び全国的に均質な遂行のために必要な措置を講ずるよう努めるとともに、その周知のために必要な措置を講ずるものとする」と定めている。

また、同法第6条は、指定法人の義務として、「指定法人は、民事法律扶助事業の統一的な運営体制の整備及び全国的に均質な遂行の実現に努めるとともに、第二条に規定する国民等が法律相談を簡易に受けられるようにする等民事法律扶助事業が国民等に利用しやすいものとなるよう配慮しなければならない」としている。

2 民事法律扶助法施行後の状況と国の予算措置

平成12年10月1日から民事法律扶助法が施行され、新しい法律扶助事業がスタートしたが、この数年度における事業及び国庫補助金の推移は、次のとおりとなっている(財団法人法律扶助協会調べ)。

(1)民事法律扶助事業の推移
「大阪支部/全国」(単位:件)
  平成11年度 平成12年度 平成13年度 平成14年度
(予定枠)
代理援助 1,185/12,744 1,939/20,098 2,152/29,898 2,185/30,600
書類作成援助 6/ 163 38/ 979 40/ 1,600
法律相談援助 1,601/22,362 1,712/35,505 2,765/52,000 3,790/61,650

(2)国の補助金の推移
「大阪支部/全国」(単位:千円)
  平成11年度 平成12年度 平成13年度 平成14年度
事業費 214,943
 /928,183
344,194
/1,842,648
363,303
/2,432,251
404,078
/2,632,614
事務費 14,820
/299,439
22,740
/389,455
26,690
/350,272
合 計 214,943
/928,183
359,014
/2、142,087
386,043
/2,821,706
430,768
/2,982,886

これによると、国庫補助金の伸びは、法施行時に代理援助件数の伸びを超えたものの、平成13年度は代理援助件数の伸びが48.8%であるのに対し、年度当初の補助金の伸びは20.2%増にとどまった。そのため、財団法人法律扶助協会では、平成13年秋の段階で資金難から扶助事件決定を中止せざるを得ない状況に立ち至った。

そこで、14年1月24日の本部理事会で、13年度の代理援助については最終的に支部別の決定件数に限度を設けざるを得ないと判断し、翌25日付けでこれを各支部に通知した。従来、決定件数に制限枠を設けていたのはもっぱら自己破産事件に限られていたものが、今回の措置により、扶助協会発足以来初めて、全事件を対象に限度が設けられたことになる。

扶助協会大阪支部では、代理援助については2,152件を超えて援助決定することができないという異常事態となった。上限件数に達したあとの処置については、(1)自主事業として取り扱う、(2)受任弁護士に扶助と同条件で受任してもらう、(3)年度内は審査を行わない、といった取り扱いが考えられるが、大阪支部をはじめ多くの支部では、「年度内に申し込みも受けつけ、審査も行うが4月以降の実績とする」という方法を選ぶこととなった。

通常の審査状況で推計すると2月中にも件数オーバーとなることが容易に予想されたため、一時的に随時審査を中止し、また一部を4月分実績に前倒し計上するなど、上限件数を元に微調整しながら審査体制を工夫して対応することを余儀なくされたが、結果として、13年度実績2,152件のほか、14年度実績にまわった仮決定分が164件にのぼった。

しかし、これは14年度の実績を年度開始前に一部消化してしまうことを意味し、要するに問題解決の先送りに他ならず、14年度予算の根本的な対策が取られない限り、14年度においては要援助件数の増加を見込めば、9月、10月時点で13年度と同様の危機的事態は必至である。

3 司法制度改革と民事法律扶助制度

平成11年7月、内閣のもとに設置された司法制度改革審議会は、2年にわたる審議を経て、平成13年6月、意見書をとりまとめたが、そこではわが国の法律扶助制度が「欧米諸国と比べれば、民事法律扶助事業の対象事件の範囲、対象者の範囲等は限定的であり、予算規模も小さく、憲法第32条の『裁判を受ける権利』の実質的保障という観点からは、なお不十分と考えられる」と指摘し、「民事法律扶助制度については、対象事件・対象者の範囲、利用者負担の在り方、運営主体の在り方等については、更に総合的・体系的な検討を加えた上で、一層充実すべきである」と提言した。

その上で、同意見書は、「今般の司法制度改革を実現するためには、財政面での十分な手当が不可欠であるため、政府に対して、司法制度改革に関する施策を実施するために必要な財政上の措置について、特段の配慮をなされるよう求める」とまとめている。

このことをふまえ、平成14年3月に閣議決定された「司法制度改革推進計画」においては、民事法律扶助制度について一層充実するべきことが明記された。

4 民事法律扶助事業に対する抜本的財政措置を講じる必要性

国は、今次の司法制度改革を「明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後チェック・救済型社会への転換に不可欠な、国家戦略の中に位置づけるべき重要かつ緊急の課題であり、利用者である国民の視点から、司法の基本的制度を抜本的に見直す大改革」としている。

民事法律扶助法に基づきスタートした法律扶助制度は、今次の司法制度改革の議論の過程において先行実施されたいわばモデルケースであり、その成否は司法制度改革全体の性格を決定づける極めて重要な意義をもつ。

その意味で、国は、民事法律扶助事業が財政難を理由にとん挫するような事態を断じて招いてはならない。

しかしながら、内閣のもとに設置された司法制度改革審議会及び司法制度改革推進本部の上記のような意見にもかかわらず、民事法律扶助事業に対する国庫補助金の決定のプロセスと結果を見る限り、国は国民の「裁判を受ける権利」を保障することを放擲しようとしているといわざるを得ない。特に、内閣府及び財務省は司法制度改革と法律扶助制度改革の意義を改めて確認し、必要な予算の確保に努めるべきである。

また、前記2のとおり、現に法的援助を求める多数の国民が存在するのであり、それを財源不足を理由に放置することは、民事法律扶助法に定める国の責務を放棄するに等しい。

現下の厳しい経済環境のもとで国民の経済活力の回復、延いては一刻も早い我が国の景気の復興に資する為にも、民事法律扶助の充実は是非共必要な施策である。

憲法が保障する国民の「裁判を受ける権利」を実効あるものとし、利用しやすい司法を実現するために、国に対し、民事法律扶助事業に対する抜本的な財政措置が速やかに講じられることを強く求め、本決議を提案する。

以上
 
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