お知らせ

弁護士報酬の敗訴者負担法案(合意制)に関する決議

2004年(平成16年)9月7日

大阪弁護士会
会長  宮崎 誠

 当会は弁護士報酬の敗訴者負担法案(民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案)について、次のとおり決議する。

〔決議の趣旨〕

  1. 弁護士報酬の敗訴者負担法案(民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案)については廃案を求める。

  2. 廃案が不可能であるならば、同法案に「すべての私的契約における敗訴者負担の定めは無効」、少なくとも「消費者契約、労働契約(労働協約・就業規則を含む)、又は借地・借家契約、下請契約、フランチャイズ契約、もしくは金銭消費貸借契約など一方が優越的地位にある事業者間の契約における敗訴者負担の定めは無効」とする条項を盛り込むこと。

〔決議の理由〕

  1. 合意による弁護士報酬敗訴者負担の導入を目的として、本年3月2日に「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」が国会に上程され、現在継続審査となっている。
     大阪弁護士会は日本弁護士連合会とともに、弁護士報酬敗訴者負担制度については、「市民に利用しやすい司法の実現」という司法改革の理念と弁護士報酬の両面的敗訴者負担制度の一般的導入は相反するものとして、強く反対してきた。
     司法制度改革推進本部は、司法アクセス検討会の最終段階である2003年12月において、原則各自負担という従来の制度を維持しながらも、訴訟提起後に双方の当事者に訴訟代理人がついて共同の申立がなされた場合に限って弁護士費用の一部を訴訟費用とするという、合意による敗訴者負担制度導入の意見をとりまとめ、法案化した。
     法案では、この合意については「訴訟の係属後において訴訟代理人を選任している当事者の間でされたものを除き、無効とする」となっているが、司法アクセス検討会では、私的契約に両面的敗訴者負担条項が入っている場合には、その条項に基づいて、今回の法案の内容とは別途に、勝訴者は敗訴者に弁護士報酬を請求できると解釈している。
     合意による敗訴者負担制度が導入されれば、裁判外での私的契約や約款などに「敗訴者負担条項」を記載することが広がっていくと懸念される。消費者、労働者、借地人・借家人、中小零細業者など弱い立場にある人は、私的契約や約款などに敗訴者負担条項が存在すれば、敗訴した時の費用負担を恐れて訴訟を提起することも受けて立つことも躊躇することになり、結果として市民の司法へのアクセスに重大な萎縮効果を及ぼすことになる。
     そもそも、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入の理由は、「敗訴した者が勝訴した側の弁護士報酬を負担することが公平にかなう、司法アクセスにつながる、濫訴の防止になる」ということから検討されてきたものであり、合意した場合のみ、敗訴者負担にするという制度では、敗訴が予想されると考えられる当事者側は合意しないので、敗訴者負担制度の導入目的に照らしても全く機能しないことになる。訴訟開始後に合意する場合というのは、いずれも勝訴の見込みが十分あると考える当事者のみであるから、ほとんど利用されないことも十分考えられる。又、訴訟提起後に裁判所から敗訴者負担に合意するかどうか尋ねられたときに、合意しない旨回答すると訴訟に自信がないものとも受け取られかねない状況が生まれ、踏み絵のような役割も果たしかねない。さらに、合意するかどうかに関わらず、訴訟結果によっては訴訟代理人と依頼者との間に紛争を招く可能性もある。それにもかかわらず、この合意制が導入された場合は、前記したように、契約上の弱者である消費者や労働者、借地人・借家人、下請業者、フランチャイズ加盟事業者、商工ローン等による借り入れ事業者などが約款、契約などで、「敗訴者負担条項」を盛り込まれることによって、これらの立場の人達が最も影響を受けるということになるものであり、百害であって一利なしともいうべき法案であり、廃案が最も望ましいものである。

  2. 廃案が困難で、合意による敗訴者負担制度を導入する場合は、市民の裁判を受ける権利を守るための措置が不可欠である。当会は、次の立法上の措置がなされるよう求める。
     法案に「全ての私的契約における敗訴者負担の定めは無効とすること」、少なくとも「消費者契約、労働契約(労働協約、就業規則を含む)、又は借地・借家契約、下請契約、フランチャイズ契約、もしくは金銭消費貸借契約など一方が優越的地位にある事業者間の契約における敗訴者負担の定めは無効とすること」が盛り込まれること。

以上

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