お知らせ

合意制による訴訟代理人報酬の敗訴者負担制度に関する決議

  1.  当連合会は、2001年(平成13年)1月17日、当時司法制度改革審議会が中間報告で提案していた敗訴者負担制度に対して、市民の司法の利用を萎縮させ、国民の裁判を受ける権利を侵害するものであるとして、反対の意見を表明した。その後、全国各地の弁護士会や日本弁護士連合会が敗訴者負担制度に反対する決議や声明を出した。
     そのような状況を受けて、司法制度改革推進本部の司法アクセス検討会では、合意に基づく敗訴者負担制度を提案せざるを得なくなり、本年3月2日政府が提出した「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」(以下、本法案という)も、これに沿ったものとなっている。この法案の内容は、(1)裁判になった後に、(2)原告被告双方に弁護士等の代理人がついている場合、(3)原告被告の間で敗訴者負担の合意の上、(4)裁判所に共同の申立を行ったときに、訴訟代理人費用の一部を訴訟費用として敗訴者に負担させようというものである。

  2.  本法案は、そもそも立法の目的が不明である。もともと敗訴者負担制度は、司法制度改革審議会意見書において、訴訟を利用しやすくし国民の司法アクセスを促進するための制度として検討されてきたものである。しかし、本法案では、勝訴確実な側が敗訴者負担を求めても敗訴確実な相手方がこの求めに応じることは考えられないから、敗訴者負担制度により司法アクセスを促進するすることにはつながらない。かえって勝訴の見通しのつきにくいほとんどの訴訟では、あらたに合意による敗訴者負担を選択するかどうかという困難な選択を当事者に迫るものであって、訴訟当事者にあらたな課題を負わせるものであり、司法アクセスの促進に逆行することになる。

  3.  さらに本法案の重大な問題点は、この制度が導入されることにより、裁判外での私的な契約に「敗訴した者は勝訴した者の訴訟代理人費用を負担する」との条項が記載されることを促進することが懸念されるにもかかわらず、これに対する措置が全く講じられていないことである。普通の市民が契約をするときには裁判になったときのことを考えないのが通例であり、いざ、裁判しようとしたときに敗訴者負担条項により敗訴した場合の経済的負担をおそれて裁判の利用を躊躇うということになりかねない。その結果、訴訟上の合意に限るとした本法案の趣旨が尻抜けになってしまう。

  4. 結語
     上述のように重大な弊害が予想され、かつ立法目的が曖昧で司法アクセスにおける効果が期待できない以上、本法案は廃案されるよう求める。
     仮に廃案にできない場合には、上述の弊害を未然に防止するために、「すべての私的契約における敗訴者負担の定めは無効とする」か、少なくとも「消費者契約、労働契約(労働協約、就業規則を含む)または借地・借家契約、金銭消費貸借契約、フランチャイズ契約もしくは下請契約など一方が優越的地位にある事業者間の契約における敗訴者負担の定めは無効」とする条項を盛り込んだ修正がなされるよう求める。


2004年(平成16年)9月8日
近畿弁護士会連合会

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