意見書・声明
意見書 会長声明等

 マンションの復興 ―第二

第二、区分所有法、被災マンション法の問題点と提言

1.マンションの復旧について

 1、現行法の概要及びその問題点
  1. 現行区分所有法における復旧手続の概要
     現行区分所有法は、建物の一部が滅失したマンションの復旧について、小規模滅失(建物の価格の2分の1以下に相当する部分が滅失したとき)と大規模滅失(建物の価格の2分の1を超える部分が滅失したとき)とに区分し、後者の場合には、集会において、区分所有者の頭数及び議決権の各々4分の3以上の多数により、復旧の決議を行うことができることになっている。
     そして、右決議がなされたときには、決議に賛成しなかった区分所有者が賛成した区分所有者に対して、その建物及び敷地に関する権利を時価で買い取ることを請求すること(以下「買取請求権」という。)ができる(区分所有法62条7項)。
     ところが、この買取請求権をめぐっては争いが生じているだけでなく、買取請求権の行使が決議に賛成しなかった者の自由に委ねられて行われるため、復旧手続が遅滞し、あるいは決議に賛成した特定の区分所有者に対して、集中的に買取請求権を行使するなどの恣意的な権利行使が可能になるなどの弊害も指摘されている。
  2. 買取請求権の立法趣旨
     区分所有法において、このような買取請求権を定めた立法趣旨として、以下のような見解がある。
     (1)復旧事業に賛成しない区分所有者に復旧事業に要する費用負担を免れることを可能ならしめるところにある(山野目章夫「区分所有権と買取請求権」時報68巻7号16頁)。
     (2)大規模修繕決議に賛成し得ない者に復旧を強いるのは酷であるから、投下資本を回収する方途を講ずるのが適当である(青山正明編「注解不動産法5」333頁)。
     なお、買取請求権は、区分所有法だけではなく商法、借地借家法においても定められていて、いずれも当事者間の法律関係及び経済関係の解消という点で共通している。そして、本買取請求権は商法において定められる買取請求権(営業譲渡の際の反対株主の株式買取請求権が類似している)と同様に基本的には多数決原理における少数者の権利保護であると解することができる。しかし、区分所有法における買取請求の当事者は同一マンションの区分所有者であり、商法の反対株主による買取請求権などと異なりマンション管理組合の構成員であるということ以外に何ら利害関係がないのである。このような区分所有者間において、相互に買取請求権の自由な行使を許せば、以下に述べるような深刻な問題が生じうる。
  3. 買取請求権の行使上の問題
     買取請求権の行使に関する問題として特定の賛成区分所有者にその行使が集中することがある。このような行使の仕方自体、買取請求権を定めた法の趣旨に合致するか否か大いに疑問があるといわねばならない。けだし、買取請求権の被行使者は当該専有部分及び敷地利用権を買い受けることになるが、すでに同一マンション内に専有部分を有し住居として利用している区分所有者は、買取請求の対象となる専有部分を重ねて自らの住居として使用する場合は稀であろう。そうすると、買取請求権の被行使者は、多くの場合、当該専有部分及び敷地利用権を転売して買取価格と工事費用を回収することになる。この時に被行使者において損失・転売差損がでた時は、被行使者は大規模修繕決議に賛成したことによって損失を被る結果になるが、なにゆえ、当該被行使者が修繕に賛成したがゆえにかような損失を負担しなければならないか合理的説明が困難である。そのうえ、買取請求権の負担に耐えられる者として、賛成区分所有者中の資力のある者に請求が集中するおそれがある。そうなれば、買取請求権が存在することによって、区分所有者の中の資力のある者が、大規模修繕決議に賛成すれば買取請求権を行使されることを恐れ決議の際に賛否を留保する事態も発生している。
     また、反対区分所有者は、修繕で資産価値が戻るか否かを危惧し、さらには、多額の修繕費負担に耐えられない等の理由から、復旧決議に反対をする者も多い。
     しかし、それでは、反対区分所有者が決議後遅滞なく買取請求権を行使するかといえば、必ずしもそうとはいえない。後述するように、買取請求権を行使した場合の建物及びその敷地に関する権利の時価評価は極めて困難であり、その評価をめぐって争いが生じることも多い。そのため、復旧決議に反対をした区分所有者でありながら、買取請求権を行使もしないし復旧決議に従って復旧費用を負担しあるいは協力することもしない者が生じてくる。
     もちろん、復旧決議がされれば、反対区分所有者を含めて全ての区分所有者が右決議による拘束を受けるのであるから、買取請求権を行使しない反対区分所有者に対しては、復旧費用の負担を求め、あるいは復旧工事のため、その専有部分に立ち入ること等の受認義務を負わせることは不可能ではない。
     しかし、事実上、このような反対区分所有者が多数存在すると、復旧工事の着手は極めて困難になる。
     そこで、復旧を迅速に進めるためには、反対区分所有者に対して、買取請求権を行使して、区分所有関係から離脱するのか、あるいは当該区分所有建物にとどまって復旧に協力するのかのいずれかの選択を促す必要がある。
     そこで、現行区分所有法61条について以下のごとき改正を行う必要がある。

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 2、対策及び改正意見
  1. 買取請求権の行使方法と行使期間の制限
     (1)買受指定人の制度について
     前述したように、賛成区分所有者のうち、特定の者に対し、買取請求権の行使が集中する結果、被行使者が予期せざる買取の負担や転売損失を被ることを防止し、賛成区分所有者間の負担の公平をはかるために、以下のような手続きを設けるべきであろう。
     すなわち、大規模滅失に関して修繕決議を行った後、一定期間(1〜2ヵ月程度)は、反対区分所有者からの買取請求権の行使を禁止し、この期間内に賛成区分所有者は、協議により、そのうちの一名ないし数名の者を反対区分所有者の区分所有権の買受指定人として指定を行うことができることとする。そして、賛成区分所有者が買受指定人を指定した場合には、反対区分所有者は買受指定人に対してのみ買取請求権を行使することができ、賛成区分所有者が買受指定人の指定を行わなかった場合には、原則どおり、任意の賛成区分所有者を選択して買取請求を行うことができることとする。
     なお、震災等の大規模災害の場合には、復旧決議に賛成した区分所有者全員が、買取請求権に応じて、反対者の建物及び敷地に関する権利の買取を行う資力を有しない場合も考えられるので、上記買受指定人に区分所有者以外の第三者を指定する途を開くべきである。
     特に、被災マンションの復旧が、広い意味で公共の利益にも合致することを考慮すれば、住宅都市整備公団や住宅供給公社等の公的な団体がその復旧を促進するために買受指定人として復旧手続に参加できる方途を設けるべきであろう。
     (2)行使期間の制限
     同時に、反対区分所有権者が、買取請求権を行使するか否かが明らかでないため、その復旧工事の開始が遅滞する弊を避けるため、その買取請求権の行使期間を制限し、反対区分所有権者が右期間内に買取請求権を行使しなかった場合には、事後、買取請求権を失うとともに、早期に復旧工事等の費用負担を行う者を確定する必要がある。
     具体的には、反対区分所有権者が、買取請求権を行使できる期間を前記行使禁止期間終了後、3ヵ月乃至6ヵ月程度とし、その間に買取請求権を行使しなかった区分所有権者は買取請求権を喪失することとする。あわせて、買取請求権を行使しなかった反対区分所有権者に対しては、他の賛成区分所有権者は、復旧決議に従って、復旧費用の支払を求め、復旧工事に協力すべきことを明文をもって定めるべきである。
     以上の手続を図式化すると、以下のようになる。


     
  2. 復旧費用の不払に対する措置
     上述のように、反対区分所有者も後には決議に拘束される以上、自ら買取請求権を行使して区分所有関係から離脱しないかぎり、共用部分に対する持分割合に従って、復旧費用を負担しなければならない(区分所有法第19条)。特に前記1.の改正によると、反対区分所有権者であっても一定期間内に買取請求を行わなかった者は、買取請求権を失い、賛成区分所有権者と同じく復旧費用の負担義務が生ずる。
     これらの者が、任意に費用を負担しない場合には、他の区分所有権者は、その履行を請求することができるほか、管理費の不払に準じ、区分所有者の共同利益に違反するものとして、最終的には区分所有法57条乃至60条の措置をとることができるとする考え方もある。
     しかし、復旧費用の不払が、ただちに共同利益に違反すると解することは困難であり、反対区分所有者の費用の支払義務不履行に対しては、何らかの立法的対処が必要である。具体的な方法としては、買取請求権を行使しない反対区分所有権者に対しては、復旧費用の事前支払あるいは担保の提供を命じ、これに従わない場合には、その区分所有権及び敷地利用権に対して売渡請求を行うことができる等の立法的解決がはかられるべきであろう。
  3. 復旧・立入可能時期の明文化
     買取請求権は形成権であり、その行使により、請求者と被請求者の間で売買契約が成立する。
     しかし、対象専有部分等の所有権の移転時期に関しては、法文上、明らかになっていない。
     通常、売買においては、当事者間の公平を図る趣旨から、代金の支払と同時に目的物の所有権が移転するという解釈が行われている(但し、区分所有法61条7項の買取請求の場合には、区分所有法61条9項に基づき、裁判所は買取請求を受けた相手方の請求により、その代金の支払いに関して相当の期限を猶予することができるのであり、この場合には、所有権の移転は、引き渡しと同時に相手方に移転する。また、買取請求者が請求権行使後の管理費の負担等を免れるため、代金支払前に任意に専有部分等を相手方に引き渡した時は、請求者の利益のために、引渡と同時に所有権が移転すると解することも可能である)。
     他方、復旧工事を行うに際しては、買取請求権を行使した者の専有部分に立ち入ることも必要であるが、上述のように、原則として代金支払時まで、その所有権が請求者側に留保されると解すると、論理的には、請求者は自己の所有権に基づく妨害排除請求権を行使し、その専有部分に対する立入りを妨害するおそれがある。
     もちろん、仮に当該専有部分の所有権が、買取請求権者に留保されているとしても、復旧決議の効力は、買取請求権者を含めて全ての区分所有者に対して及んでいるのであるから、右決議の効力によって、買取請求者は、復旧工事のため、自己の専有部分への立入を拒絶することはできないという解釈も可能であろう。
     しかし、いずれにせよ、このような法律解釈上の紛争によって、復旧工事が遅延することを防止するため、立法論としては買取請求権行使による所有権移転前においても、復旧工事実施のため、反対区分所有者の専有部分に対する立入が可能であることを明文をもって定めるべきである。

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2.マンション建替・再建の事業方式について

 1、建替・再建に関する現行法の概要と問題点

  1. 現行法における建替・再建手続の概要
     区分所有法62条は、その1項において「老朽、損傷、一部の滅失その他の事由により、建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至ったときは、集会において、区分所有者及び議決権の5分の4以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、建物の敷地に新たに主たる使用目的を同一とする建物を建築する旨の決議をすることができる。」と定め、区分所有建物の建替に関する手続を定めている。区分所有法の想定している建替の手続は、おおよそ(1)集会の招集・開催、(2)集会における建替決議(この決議により、新たに建築する建物の設計の概要等の4つの事項を定める、区分所有法62条2項1号〜4号)、(3)議事録作成(区分所有法62条4項)、(4)集会招集者から建替決議不賛成の区分所有者に対する書面での催告、(5)催告後2か月経過後、賛成区分所有者(又は買受指定者)から建替決議不賛成者に対する売渡請求(区分所有法63条4項)、(6)建替合意の擬制(64条)ということであるが、現実の建替に向けては、(1)の手続に先立って、区分所有建物の損壊状況の調査、各区分所有者の意向調整、建替準備委員会の設立、各区分所有者の資金問題の検討、新たに建築する建物の内容の決定、事業方式の決定、ゼネコン、コンサルタント等の選定、優良建築物等整備事業等の補助金を受けるか否かの検討等が行われ、一方(6)の後に、従前管理組合の清算、ゼネコンとの契約、既存抵当権の処理、融資契約の締結、工事着工・完成、建替参加者による区分所有権の取得、新管理組合の発足等と続くことになる。
     また、区分所有建物が全壊した場合についても、被災マンション法が制定されたことにより建替の場合とほぼ同様な手続でマンション再建を行えることになった。
  2. 問題点
     このように、区分所有法、被災マンション法はマンション建替、再建にむけての合意形成に関する手続規定は定めているものの、建替決議、再建決議が成立した後に、具体的にどのようにマンション建替、再建という大事業を進めていくのかについては、全く触れられておらず、この点において不十分なものと評価せざるを得ない。
     具体的には、マンション建替・再建に関する合意が擬制され、建替・再建者団体が成立した場合でも、これらの団体に法人格を付与する道が区分所有法・被災マンション法上確保されておらず、法律の解釈上は民法の組合類似の任意団体と考えざるを得ないこともあって、実際にマンション建替、再建事業を遂行していくにあたって、ゼネコンとの間の請負契約締結ひとつとっても困難な問題に突き当たり、マンション建替・再建の妨げとなったことは周知の事実である。
     このような状況の下、被災地においては、マンション建替・再建の事業手法として様々な工夫がなされ、その中でも、(1)区分所有者一人一人、あるいは建替・再建者団体が契約当事者となって請負契約を締結する自主再建方式と、(2)ディベロッパーに対して、一旦、区分所有者が土地共有持分を全部譲渡し(この際既存抵当権の抹消・一時解除)、ディベロッパーがゼネコンとの間で請負契約を締結し建物を完成させた後、再度、元の区分所有者に対して新しく完成した区分所有建物を分譲する全部譲渡方式の二つの流れができたと評価できよう。
     ここでは、それぞれの事業方式の得失・問題点等を考察することにより、今後あるべきマンション建替、再建の事業方式及び、それに必要な法改正等を提言する。

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 2、自主再建方式について
  1. はじめに
     自主再建方式は、従前の区分所有者一人一人若しくは建替・再建者団体がゼネコン等建設会社との間で請負契約を締結しマンションの建替・再建を行う方法であるが、多くの場合、建替・再建に必要な業務をディベロッパー、建設業者、コンサルタント等に委託して行われ、どの範囲の業務を委託するかはそれぞれの契約内容によることになる。そして、この自主再建方式は区分所有法、被災マンション法が本来的に想定していた建替、再建方式と言える。当部会が、平成9年5月28日、神戸市住宅局において聞き取り調査を行った際の住宅局資料によると、平成9年2月6日時点で神戸市内において早期完成予定のマンション12棟のうち自主再建方式によるものが8棟とのことである。これら8棟の内訳は30戸未満のマンションが5棟、30戸以上50戸未満が1棟、50戸以上が2棟(いずれも55戸)と、比較的規模が小さいマンションであるのが特徴的で、このことが区分所有者間の合意形成、建替を早期に実現できた理由であったと推測される。
     このように自主再建方式は比較的小規模なマンションにおいて、かなり早期に建替・再建を実現している例もあるが、その過程においては、一つ一つのマンションで自主再建方式を選択することによる建替・再建事業の不安定さを補うために様々な工夫がなされている。以下においては、「甦る11棟のマンション」(日経アーキテクチュア編、発行日経BP社)の中において紹介されている自主再建方式の事例を若干紹介し、自主再建方式の得失を検討する。
  2. 自主再建方式の実例
    (1) 事例1
     従前建物は1972年竣工、総戸数40戸、店舗1であったが震災で全壊し、従前建物と同じ戸数の新建物を1戸あたり負担額約1550万円で再建する旨の決議を94%の賛成で可決した事例。なお、17戸に抵当権が設定されていた(最高2200万円)。
      自主再建を選択した理由としては、事業費の抑制を図ること及び全部譲渡方式を採用した場合に必要とされる既存抵当権の抹消を回避することを挙げている。ゼネコンとの間の契約は個々の事業参加者が再建組合と工事発注に関する委託契約を結び再建組合がゼネコンと請負契約を締結する方法によっている。
    (2) 事例2
     従前建物は1980年竣工、総戸数27戸、店舗1であったが震災で全壊し、総戸数29戸(保留床あり)の新建物を1戸あたり負担額約1500万円で再建する旨の決議を全員の賛成で可決した事例。この事例では約半数の住戸に抵当権が設定されていた(最高額3000万円)。
     自主再建を選択した理由としては、(1)の事例と同様に事業費の抑制及び全部譲渡方式を採用し既存抵当権の抹消を求めると、従前区分所有者が再建事業から脱落しかねず、これを避けたい、ということを挙げている。
     この事例においては、信用力を高めるために個々の事業参加者が資金を提供して1億円を超える再建基金を設立している。建設会社との間の契約は個々の事業参加者が理事長に事業を委託し、理事長名で建設会社と締結し、さらに事業保全の目的から、建設会社は各区分所有者との間で土地共有持分につき売買予約契約(仮に事業参加が不能になった場合や相続発生時には、その持分を優先的に建設会社が購入できる。)を結び仮登記を経、同時に仮に住民が工期中に資金繰りがついた場合には建設会社から土地共有持分を買い戻せるとの覚書を交わして、できるだけ従前の区分所有者が再建事業に参加しやすいようにしている。
    (3) 事例3
     従前建物は1980年竣工、総戸数23戸、店舗2であったが震災で全壊し、従前建物と同じ戸数の新建物を1戸あたり負担額871〜2165万円で再建する旨の決議を賛成25、留保1(その後賛成)で可決した事例。この事例では23戸に抵当権が設定されていた(うち5戸は1500〜2500万円)。
      建設会社との間の契約は個々の事業参加者が理事長に委任状を提出し、理事長が再建組合代表者として締結している。そして請負契約の建設費支払い時期につき公庫融資の下りる上棟時、竣工時に設定する一方、事業参加者の中に負債を有する者が多かったため、仮に事業成立が危うくなった場合には、再建組合が途中で土地持分を買い取り事業継続をする旨の約束を建設会社に対して行っている。
    (4) 事例4
     従前建物は1973年竣工、総戸数203戸であったが震災で全壊し、従前建物と同じ戸数の新建物を1戸あたり負担額1600万円で再建する旨の決議を賛成183、反対20(その後11に減少)で可決した事例。この事例では一戸あたりの土地持分価格(900万円)で抵当権を抹消できない住戸が半数あった。
     自主再建方式選択の理由としては(1)(2)の事例と同様に全部譲渡方式においては抵当権抹消との関係で事業参加不能者が多く出ることが予想され、これを回避する点を挙げている。
     一方において総住戸が203戸と多数であったため、事業遂行を安定的なものとする必要から事業参加者を株主に、理事会メンバーを従業員とする震災復興株式会社を従前組合費を原資にして設立している。
     建設会社との間の契約は、再建組合から震災復興株式会社に発注代行を依頼し、震災復興株式会社が建設会社との間で締結している。そして、事業参加者はそれぞれの土地共有持分につき震災復興株式会社との間で売買予約契約を締結し、震災復興株式会社の承諾がない以上転売をしないとの覚書を締結し、震災復興株式会社はその土地共有持分に譲渡担保権の登記を付けることで保全を図っている。
    (5) 事例5
     従前建物は1972年竣工、総戸数37戸、店舗1であったが震災で中破し、従前建物と同じ戸数の新建物を1戸あたり負担額平均1477万円で建替する旨の決議を全員賛成で可決した事例。この事例では7戸に抵当権が設定されている(最高額2000万円弱)。
     特徴的な点としては、コンサルタントに入ったゼネコンのグループ会社が、仮に建替後に建物を売却する人が出た場合は土地持分と建替費用の合計金額で買い取るという買取保証を行っていること、及び優建の補助が下りるまでのつなぎ融資を地元金融機関との折衝の末引き出している事などが挙げられる。
  3. 実例から見た自主再建方式の検討
     以上の5例の自主再建方式の具体例からも、個々のマンションにおいてそれぞれ、あるいはダイナミックな、あるいは緻密な構成で建替・再建事業を進めていることが読取れるが、各事例において幾つかの共通の特徴が見られる。
     まず、震災復興株式会社を設立した事例(4)を除いて各事例とも総戸数が比較的少ないことである。これは神戸市住宅局の聞き取り結果とも符合するが、自主再建方式の場合、どうしても契約の複雑さ、不安定化が付きまとい、そのためある一定以上の規模になると全部譲渡方式等他の手法を選択するケースが多くなるからと推測される。
     また各事例において自主再建方式を選択した理由として(1)事業費の抑制とともに、(2)全部譲渡方式を採用した場合、抵当権抹消の関係で従前区分所有者の中から事業に参加できない者が出るおそれがあることを挙げている点である。
     すなわち、全部譲渡方式においては、一旦ディベロッパーに対して土地共有持分を譲渡するため、その時点において既存の抵当権を抹消する必要があり、被担保債権の残額が土地共有持分の価格を超える場合には、自ら不足分を準備するか、それとも抵当権者にマンション建替・再建が完了し事業参加者が改めて区分所有権を取得するまで一時的に抵当権を抹消することの了承を求める必要があり、このいずれもが難しければ、全部譲渡方式を採用する限り、その区分所有者は再建事業に参加することが不可能となる。
     これに対し自主再建の場合には、新建物取得のための費用につき改めて新規融資を受けることができるかどうかは別にして、当初の段階で抵当権を抹消する必要はなく、この点が自主再建方式の大きなメリットの一つであると言えよう。
     さらに、紹介事例に共通するもう一つの特徴は、手法はバラエティーに富んでいるものの、事業遂行にあたっての不安定要素(事業参加者の財政問題、相続問題その他)や契約の複雑化を出来るだけ少なくするため、様々な法的工夫をしていることである。事例(4)の株式会社設立はその端的な例であるが、いずれの事例も契約当事者を極力一本化し、仮に事業参加者が途中で離脱することになっても事業遂行に影響が出ないように契約内容を構成している。もちろん、この点については、請負契約を締結する建設会社や金融機関の理解も不可欠の要素である。
     以上からしても自主再建方式には事業費抑制、事業遂行にあたって抵当権抹消の必要がない等のメリットがあり、特に比較的小規模マンションにおいては有効な事業手法であると言えよう。ただ一方において、全部譲渡方式と比較すると事業遂行の不安定要素は否定できず、これを克服するため契約内容の工夫、熱心な中核メンバーやコンサルタントの存在、資金的側面において信用力を高める手段等が必要不可欠であると言えよう。
     前記のとおり自主再建方式は法律が予定した本来的な再建方法であり、副次的効果として区分所有者間の連帯意識の向上、良好なコミュニティー形成等、経済的な面以外のメリットも少なくなかったと評価でき、今後のマンション建替・再建においても有力な選択肢として捉えられる。とすれば、現状よりも自主再建方式をより選択し易く、また事業を安定的に進められるよう法改正等の措置が必要である。

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 3、全部譲渡方式について
  1. はじめに
     今回の阪神大震災においては、前記2の自主再建方式の他に全部譲渡方式という事業手法がかなりのマンションにおいて採用された。全部譲渡方式とは、おおまかに言えば、ディベロッパーが土地共有持分を区分所有者から一旦買い取り、土地をディベロッパーの単独所有とした上で、ディベロッパーが建設会社に工事を発注し、建物が完成した時点で改めて元の区分所有者に対してディベロッパーが区分所有建物を再分譲するという方式である。このような全部譲渡方式が多く採用された大きな理由としては、自主再建方式の項で述べた、契約の複雑化を避けできるだけ一本化したいという要請、また事業参加者の個々的な事情の変化が事業遂行に影響を及ばさないようにすること、金融機関、建設会社に対する信用力の付与等が挙げられよう。
     特に今回の震災においては、兵庫県住宅供給公社(以下「県公社」という。)がこの事業手法を用いてマンション建替・再建に大きな役割を果たしたと言われ、当部会においては平成9年7月11日、県公社の聞き取り調査を行ったので、まずこの調査結果を報告する。
  2. 県公社からの聞き取り内容
    (1)県公社の被災マンション等再建相談の概要、統計
     平成9年6月30日時点における県公社の被災マンション相談案件、県公社参画案件の概要は次の表の通りである。

    兵庫県下全体で何らかの形で再建・建替が必要とされるマンション数 172棟
    上記マンションのうち、補修で対処したり、更地になる見込みのマンションを除いた最大建替見込みマンション数 114棟

    県公社に相談が持ち込まれた案件 74棟(うち単体による再建が60、共同化再建が14) 神戸市27
    芦屋市19
    西宮市18
    宝塚市 8
    尼崎市 2
    相談案件中、県公社の事業化が決定した案件 38棟(うち単体による再建が33、共同化再建が5) 神戸市10
    芦屋市11
    西宮市10
    宝塚市 6
    尼崎市 1

    県公社の事業化決定マンションの事業手法の内訳 単体による再建

    33棟
    全部譲渡26
    地上権  5
    定借   2
    共同化再建

    5棟
    全て全部譲渡方式

    (2)県公社における被災マンション再建の事業手法
     県公社における被災マンション再建の事業手法として、(イ) 全部譲渡方式、(ロ) 地上権設定方式、(ハ) 定期借地権方式の三つがある。またマンション単体による再建のみでなく、(イ) の全部譲渡方式を利用した共同化再建も行っている。詳細は、県公社資料の図1「被災マンション等再建支援事業手法図」のとおりである。


     全部譲渡方式の場合、全ての土地共有持分を一旦県公社が買い取ることになるが、その際、既存抵当権抹消等の必要がない事業参加者に対しては、最終的に完成した区分所有建物の再分譲にあたって土地共有持分代金価格を控除した額で分譲する事になるのに対し、既存抵当権抹消等のために資金が必要な事業参加者に対しては、土地共有持分を県公社が買い取る段階で土地共有持分売買代金を直接債権者に支払い、抵当権の抹消を受ける仕組みとなっている。
     県公社によれば再建支援事業当初の段階では、既存の抵当権抹消等の問題が難しいとの予想から、地上権設定方式による再建が先行したが、平成8年5月頃までに、地元有力金融機関及び住宅金融公庫との間で抵当権一時抹消等についての合意を見て、他の金融機関もその後これに追随して抵当権一時抹消等に柔軟に対応する方針となったことから、以後全部譲渡方式を採用するケースが増えたとのことである。
     定期借地権方式は、当初10団地程の相談があったが、将来的に所有権を失うことへの抵抗感からこの方式を回避するケースが多く、結局2団地のみが採用している現状とのことである。
    (3)県公社の役割
     県公社の役割は転出希望者の土地共有持分の買取、保留床の買取、優建等補助制度の導入・事務手続の援助、住宅金融公庫との調整、設計・工事の総合的監理等とされ、事業遂行にあたっては、必ずコンサルタント・設計事務所に加わってもらった上で、県公社の役割、コンサルタントの役割、住民の役割の分担を明確にしている。
     また建替・再建決議に対する反対者が出たマンションにおいては、区分所有法及び被災マンション法上の買受指定者となり、その後の売渡請求、訴訟提起等の法的手続の主体となった事例もある。
  3. 県公社の行ったマンション再建事例の検討
     以上のとおり、今回の阪神大震災にあたって、県公社は相当割合のマンション再建・建替に関与しており(前記のとおり兵庫県下の114棟の最大建替見込みマンションのうち、38棟につき県公社の事業化が決定している。)、マンション復興に対して大きな役割を果たしたと評価できよう。その中でも事業手法としては全部譲渡方式が主流になっているようである。
     そもそも今回の阪神大震災で県公社がこのように多くのマンション再建事例に関与し得た理由は、一言で言えば、公的機関である県公社がマンション建替・再建事業に参するという安心感、安定性ということに収斂されると思われる。前記のとおり県公社は地元金融機関、住宅金融公庫等との間で既存抵当権抹消等の処理に関して合意を行い、このことが県公社の全部譲渡方式によるマンション建替・再建推進に大きく寄与したと捉えられるが、この合意ができた背景として、県公社が公的機関であり、その県公社がマンション建替・再建に積極的に関与することで、マンション建替・再建事業自体に公共性を付与したことが指摘できよう。また県公社はマンション建替・再建事業にあたって一旦全事業費を立て替えるため、事業に参加する区分所有者にとっても請負業者にとっても大きなメリットがあり、この点も県公社が多くの事業に参加した理由の一つであろうが、大規模マンションでは立替え資金が多額にならざるをえないことから、現実にこのような事業費の立替えを行えるだけのディベロッパーは公的機関でなければかなり難しいものであったであろう。その他にも、余剰床を建設するマンションにおいては、余剰床を一般分譲にあてることにより販売利益を確保することが狙いとなるが、再建組合はこのような住宅販売ノウハウも人的組織も持ち合わせていないことから、このような販売・広告宣伝、募集等の業務を請け負ってくれる公的機関がどうしても必要になること、余剰床が売れ残った場合でも、公的機関が賃貸物件等として活用することにすれば売れ残りのリスクを再建組合が負担しなくてすむこと、自主再建方式では、従前所有していた住戸と新しく取得する住戸が価値的に対応しない場合、差額の清算が必要となり、かなり煩雑な手続が必要となるのに対し、全部譲渡方式では売って買うという2つの契約を締結することにより、このような問題を比較的簡明に処理することができる、等の理由も指摘できる。
    このように考えると、今後とりわけ大規模マンションにおいては、全部譲渡方式を積極的に活用する必要が高まるとともに、その過程に関与する公的機関の整備自体が極めて重要な課題であると言えよう。
  4. 全部譲渡方式等の問題点
     一方、全部譲渡方式にも問題点がなかったわけではなく、解決すべき課題も指摘される。
    (1)区分所有法上の問題
    1. 区分所有法と全部譲渡方式の整合性
       現行の区分所有法、被災マンション法は、いずれも自主再建方式を想定して制定されており、これら法制度と現実の全部譲渡方式による再建事例との間にギャップがあることは否めない。
       (イ)多くの被災マンションが、区分所有法、被災マンション法上の再建決議の要件を全部譲渡方式の要件に読み替えて決議を行っていること、例えば区分所有法62条2項3号の決議要件である再建費用の分担に関する事項を、新しく取得する区分所有建物の購入費用の分担に関する事項に読み替えること等が許されるのかといった問題や、(ロ)全部譲渡方式による建替決議を行った場合、決議自体には賛成票を投じるものの、実際にその後に行われる再建事業には参加せず、ディベロッパーへの敷地共有持分の売却には協力するいわゆる離脱者を賛成決議の数に算入してよいのか、等の問題が指摘され得る。
       この点、現行法のもとでも、(イ)新しく取得する区分所有建物の購入費用の分担を議決すれば、実質的には再建費用の分担に関する事項を議決したものと評価でき、少なくとも議決の無効を導く程の瑕疵とは言えない。(ロ)建替決議賛成者は、区分所有法64条により建替決議の内容により建替を行う旨の合意をしたものとみなされることにはなるが、これによって、自己の敷地共有持分権を譲渡することまで禁止されず、この場合単に敷地共有持分権を譲り受けた者が建替合意に拘束されるに過ぎないと解釈されることから、離脱者を賛成決議の数に算入することも許される、との解釈も可能である(なお、県公社における聞き取りによれば、県公社が参画した案件の中でいわゆる離脱者を建替決議反対者として計算したとしても、建替決議に必要な5分の4要件を欠くに至る事例はない、とのことであった)。
       しかしながら、上記のような法制度と全部譲渡方式の実態のギャップや全部譲渡方式に残る法律上の根拠の不明確さを解消し、区分所有法、被災マンション法を真にマンション再建に活用しうるものにするためには、全部譲渡方式をこれら諸法の中に明確に位置づけ、議決要件、法的効果についても、全部譲渡方式に十分対応しうるものに改正する必要がある。
    2. その他の区分所有法上の問題点
       これは全部譲渡方式に特有の問題ではないものの、マンション再建にあたっての住民の合意形成の困難さ、建替決議を行う前提条件の「費用の過分性」の判断、土地共有持分買取時価の算定の問題等は当然残る課題である。買取価格の算定については、県公社では2社に対し鑑定を依頼し、2つの鑑定結果の中間値を採用しているとのことで、基準としては、再建可能とした(すなわち将来再建が行われるという制限付の)更地価格で、解体費用は引かずに計算しているとのことであるが、価格算定手続の非訟手続化、算定基準の合理化、統一化等が急がれる。
      (2)抵当権問題
     全部譲渡方式についての最大の問題はこの既存抵当権処理の問題であったが、前記のとおり少なくとも県公社が参画する案件については金融機関、住宅金融公庫との間で一定の合意ができスムーズに運ぶようになった。しかしながら、今回金融機関が協力したのは、被災マンション再建という極限状態に配慮してのことであり、今後のマンション建替にあたっては同様の措置がとられる保証はなく、むしろ今回の措置は例外的なものであったと認識しておく必要がある。
    (3)ディベロッパー参画による経費の増大
     県公社その他ディベロッパーが参画する場合、当然自主再建方式に比べると事務費が増大することになり、この費用をいかに抑制するか、またこの点についての資金的な補助がより多くのマンションが全部譲渡方式による再建事業を選択できるようになる不可欠な要素となろう。
    (4)隠れ反対者問題
     ここで言う「隠れ反対者」とは、マンション建替・再建の集会で賛成しながら、その後の事業推進、例えば全部譲渡方式であれば、ディベロッパーに対する敷地共有持分の任意譲渡等に協力しない者のことを指す。 区分所有法及び被災マンション法上、建替・再建の集会において反対した者に対しては、催告の上、一定期間経過後は売渡請求権を行使することができるとされており(区分所有法63条4項、被災マンション法3条6項)、ディベロッパーが買受指定者になれば、全部譲渡方式を採用するにあたっての前提条件であるディベロッパーへの土地共有持分の集中が可能になるのに対し、集会において決議に賛成した者に対しては、法文上は売渡請求権を行使することができず、事業遂行に支障を来すことになりかねない。当部会が県公社で聞き取り調査を行った際にも、現実的な問題としてこの隠れ反対者問題が話題に上った。
     この点、隠れ反対者は、建替・再建の集会において賛成しているため、区分所有法64条、被災マンション法3条6項により建替・再建決議の内容により建替・再建を行う旨の合意をしたものとみなされ、その効果として、相互にこの合意内容によって拘束され、これに従って建替・再建の事業を進める義務を負うことになるが(稲本洋之助、鎌野邦樹著「コンメンタール区分所有法」354頁〜)、全部譲渡方式の場合、事業遂行にあたり各事業参加者がディベロッパーに対し土地の共有持分を任意に譲渡するという段階がどうしても必要になり、隠れ反対者がこの契約締結を拒んだ場合、これを強制するのが現実には難しい。 隠れ反対者がその後の事業遂行に協力しない場合、当初の集会における賛成決議を撤回したものとみなし売渡請求権の対象にできればよいが、この解釈は区分所有法64条により建替合意をしたとみなされた者は、自己の土地共有持分を他に譲渡しない限り任意に合意から脱退できないとされていることとの整合性や、仮に賛成決議を撤回したとみなした場合に当初の建替・再建決議の5分の4要件が欠ける場合にどう対処すべきか等の問題があろう。また、隠れ反対者を賛成決議の撤回と捉えず、当初の集会決議の段階から反対者であったとみなす考えも、集会決議の議事録の賛否の記載との矛盾や、賛成決議撤回とみなした場合と同様に法的安定性の面からの問題が指摘される。
     一方、区分所有法64条の合意をしたものとみなされる合意当事者の関係は、建替という共同事業を目的とする組合契約に類似した契約と説明され、建替参加者が組合的結合において建替の共同事業を遂行する場合には、民法の組合の規定が類推適用されることに注目し、民法680条を類推適用し、ディベロッパーに対する土地共有持分譲渡に応じないのは組合除名の正当の事由であると解し、隠れ反対者に対し除名の手続を取るという方法も考え得るが(稲本洋之助、鎌野邦樹著、「コンメンタール区分所有法」356頁〜参照)、そもそも区分所有法の立法担当者は組合員の脱退除名に関する民法の規定(民法678〜680条)は類推適用の余地はないとしていること、仮に除名を認めたとしてもその後の法的手続が明確でないなどの問題が残ろう。
    (5)ディベロッパーとしての役割分担のあり方
     前記のとおり、県公社の関与する再建事業においては、県公社、コンサルタント、住民の役割分担を明確化することにより事業遂行を円滑に行うよう配慮しているが、本来的にディベロッパー、コンサルタント、住民の間でどのように役割を分担をすべきかは、今回の再建事例の実情を十分調査する必要がある。県公社の聞き取りでは、当初の取組案件では再建決議前にもかなり県公社が関与していたが、将来的に県公社が買受指定者として売渡請求・訴訟提起等を行うことが予想される案件では、当初の段階で余り関与しすぎると、その後の進行に支障がでかねないとの意見もあり、今回の再建事例集積、分析を十分に行ってノウハウを共通のものにしておく必要がある。


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 4、対策と提言

  1.  以上のように自主再建方式の具体例及び県公社におけ全部譲渡方式の検討によれば、今後の対策と提言としては、大きく次の3つの点が重要である。すなわち、(1)建替・再建者団体が法人化する道を区分所有法、被災マンション法上で認めること、(2)全部譲渡方式について区分所有法、被災マンション法上の再建であることを明確にした上で、全部譲渡方式に見合った内容の決議要件を制定し、全部譲渡方式を選択した場合の法的効果の概略を明文化すること、(3)建替・再建に柔軟かつ広く対応できるだけの公的機関の更なる関与である。
     以下、3点につき若干敷衍して提言する。
  2. 建替・再建者団体への法人格付与
     現行の区分所有法、被災マンション法においては建替・再建決議が成立して建替・再建に関する合意が擬制されても、区分所有法、被災マンション法上、建替・再建者団体に法人格を付与する道が認められておらず、建替・再建者団体は民法上の組合と考えざるを得ない。このため前記2の自主再建の事例においても見られたように、建設会社との間の請負契約締結ひとつとっても非常な困難が伴うことになる。その他にも建替・再建者団体に法人格付与の道が認められていないために生ずる問題が指摘される。例えば、再建事業途上において、敷地共有持分者の債権者による差押等が入る余地があること、この危険を避けるために再建組合に土地共有持分を出資した形にしたとしても、不動産登記名義上は代表者個人で行わざるをえない可能性が高く、仮に代表者個人の債権者がこの出資財産に差押をしてきた場合、第三者異議訴訟を提起せざるを得なくなること、再建参加者の中に破産者が出た場合の処理、相続が発生した場合の処理等である。これらの問題について現在ある法的制度で対処可能であり法人格付与は必要ない、との議論は被災マンション建替・再建がある意味で時間との勝負であることを看過していると言わざるをえない。
     建替・再建者団体に法人格付与の道を区分所有法、被災マンション法上認めることは、特に自主再建方式による建替・再建事業の円滑化、安定化にとって極めて有用なものと言え、法改正の必要性が高いと言える。そして立法化にあたっては、区分所有法47条以下の管理組合法人の規定等にならって、建替・再建事業参加者の4分の3以上の決議で成立するものとする一方、法人格付与が比較的規模の小さいマンションにおいて採用されることの多い自主再建方式にとってとりわけ有用であることに鑑み、管理組合法人の場合と異なって区分所有者の数が30人以上必要との制限を設けるべきではない。
     そして建物滅失・取壊し段階で、従前管理組合は管理対象を失い、清算目的のみに限定して存続し従前管理組合に積み立てられていた管理費は一旦清算しなければならないこととなれば、建替・再建事業へとスムーズに移行することが困難となるから、従前建物区分所有者4分の3以上の多数により、建替・再建事業へ参加しない者への払戻分を除いて従前管理組合において積み立てられていた管理費を建替・再建者団体へと移行することができるようにすること、及び建替・再建合意へ向けて建替・再建準備委員会等が行った準備行為により発生した権利義務関係が建替・再建者団体へと帰属することを明文化することが必要である。また、建替・再建者団体が決議反対者への買取請求の主体たり得ること、事業参加者の個人財産との峻別等の整備も必須である。
  3. 事業手法の明文化
     現行区分所有法、被災マンション法では、建替・再建決議においては、(1)再建建物の設計の概要、(2)建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算、(3)費用の分担、(4)再建建物の区分所有権の帰属に関する事項の4つを定める必要があるとされるが(区分所有法62条2項、被災マンション法3条2項)、事業手法については法定の決議事項とされていない。しかしながら、現実の決議においては、再建建物の建築に要する費用の概算を決定するにあたっては、どの事業手法を選択するかによって概算額が異なってくることや参画するディベロッパーの要請等により、法定の4要件の他に事業手法についても決議を行っている事例が多いと言われる。とすれば、区分所有法、被災マンション法上において、事業手法についても、決議事項として明文化するのが合理的であり、これと同時に各事業手法方式を選択した場合の法的効果を明文化しておくのが望ましいと考えられる。もちろん、事業手法を決議事項にし、その効果を明文化することによりかえって建替・再建が硬直化することは避けなければならないが、現行の区分所有法、被災マンション法は余りにもこの点につき私的自治に委ねすぎていると考えられる。
     このことは、前記4.(1)aにおいて指摘した現行の区分所有法、被災マンション法と全部譲渡方式による再建事例との間のギャップの問題から、全部譲渡方式においては特に必要とされる。
     そこで具体的には、以下のような点を立法上明確にすることが必要である。
    (1) まず全部譲渡方式による再建が区分所有法、被災マンション法上の再建であること明確にする。
    (2) 全部譲渡方式による再建決議の必須要件として、以下の6要件を定める。
    1. 再建建物の設計の概要
    2. 建物の取壊し及び再建建物の建築に関する費用の概算額
    3. 敷地共有持分を譲渡する相手方(ディベロッパー)
    4. 敷地共有持分の譲渡価格の総額及び各区分所有者(敷地共有者)の譲渡金額の算出方法
    5. 再建建物のうち再建事業参加者の取得部分の購入予定価格の総額及び各参加者の購入予定金額の算出方法
    6. 再建建物に対する再建事業参加者の区分所有権の帰属に関する事項
    (3) 全部譲渡方式による再建決議の場合、決議に賛成の上再建事業に参加する、決議に賛成の上再建事業から離脱する、決議に反対するという3つの選択肢を設け、再建決議の決議要件としては「再建決議を行うためには、再建事業に参加する区分所有者(敷地共有者)及び再建事業から離脱する区分所有者(敷地共有者)の議決権の合計が、区分所有者(敷地共有者)全体の議決権の5分の4以上の多数を占めることを必要とする」と規定すること。
    (4) 再建決議の集会の議事録(区分所有法61条6項)には、その決議についての各区分所有者が賛成、離脱、反対のいずれであるかを記載しなければならないと規定すること。

    (5) 再建決議の法的効果としては自主再建方式の場合に準じて次のような効果を定めること。
    a再建決議に反対した区分所有権者(敷地共有権者)に対しては、現行法と同様に催告等の手続を経た上で再建事業に参加する区分所有者ないし買受指定者の側から売渡請求を行うことができること。
    b再建決議に賛成しながら、事業代行者への敷地共有持分の売却に応じないいわゆる隠れ反対者に対しても、法律上の2ヵ月間の催告期間を設け、同期間内に売却の意思表示を行わない者に対しては、aと同様の売渡請求権を認めること。
     区分所有法、被災マンション法の建替・再建の規定は土地共有の変更に関する民法の原則に修正を加え、合意形成に関する例外的手続を定めたものであるが、今般の阪神大震災において事業手続法的性格の欠如という問題がはしなくも露呈したと言える。今後来るべきマンション建替ラッシュをも視野に入れるならば、一定の強制力を備えた事業手続法的性格をも兼ね備えた法律に改正する必要性は高いと言えるのではないだろうか。少なくとも、平時における建替と被災という異常時における建替・再建を全く同列に扱い、被災時においても全てを私的合意形成に委ねるというのは不合理であり、この点の改正は是非とも必要である。
  4. 公的機関の更なる関与
     前記の県公社の事例を見れば明らかなように、マンション建替・再建にあたって公的機関が関与する必要性は極めて大きいものがある。今後、21世紀に入れば間違いなくマンション老朽化問題が一気に顕在化し、その際においては、今回の阪神大震災での抵当権処理に代表される例外的な取り扱いがそのまま踏襲されるとは到底考えられない。マンションの「建替は、単に区分所有者間の問題にとどまらず、都市問題、住宅問題、老人問題等と交錯する分野であるところ、区分所有法は、多数決の原理による建替の実現に道筋をつけるため、その守備範囲内において必要最小限の規定を設けたものであるが、制度倒れにならないよう周辺の諸施策を整備することが要請される」(青山正明編「注解不動産法5」区分所有法346頁)ことは論を待たない。
     前記のとおり、今回の阪神大震災においては、県公社はマンション復興について大きな役割を果たしたと評価できるが、県公社が優良住宅供給を目的とし、県公社が参画する案件については、再建建物が公社仕様であることが必須であったこととの絡みから、自主再建方式での買受指定者にはならない、との扱いであったが、自主再建方式の場合にも信用力、資金力のある公的機関が関与する形での売渡請求権行使が望ましい場合は大いにあり得、この点公的機関の関与が不十分であったことも否めない。
     また、本来なら県公社とともにマンション建替・再建に関与してしかるべき住宅都市整備公団が、優良建築物等整備事業の補助金が地方財政再建促進特別措置法との関係から県公社参画案件よりも少なくなること(前記第一、一、3,2.にあるように、優良建築物等整備事業については、今回の震災特例として補助の割合が調査設計計画費、土地整備費、共同施設整備費の5分の4に引き上げられたが、その内訳が県が5分の1、市が5分の1、国が5分の2負担とされている。ところが、地方財政再建促進特別措置法24条2項において、地方公共団体は、当分の間、住宅都市整備公団に対し、寄付金、法律又は政令の規定に基づかない負担金その他これらの類するものを支出してはならないとされているため、公団が一般に分譲する保留床部分に関しては県・市からの補助5分の2が受けられず、県公社が参画する場合よりも補助率が低い。)もあって、マンション再建・建替に参画したのは1棟のみであった。仮に住宅都市整備公団も県公社と同様の条件で補助を受けることができていれば、マンション再建はより以上にすすんでいたものと考えられる。かかる点を解決するために、地方住宅供給公社法及び住宅都市整備公団法上、マンション再建にあたって、公社や公団が全部譲渡方式によるマンション再建のディベロッパーとなる事や、自主再建方式、全部譲渡方式を問わず、区分所有法、被災マンション法上の買受指定人となって、売渡請求権の行使等を行うことを業務の内容として明記するとともに、公団についても公社と同様の条件で補助が受けられるよう制度を改変すべきである。
     これまで国・行政は都市的生活のあり方として、積極的にマンション、団地をつくり出すことに力を注いできたが、今後はマンション造成という入り口のみではなく、言わば出口、蘇生段階とも言える建替・再建にもより一層の重点を置く必要があると言えよう。

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3.既存抵当権抹消の問題について

 1、問題点


 今般の阪神大震災において、マンション建替・再建をすすめるにあたり大きな問題となったものの一つとして、従前の区分所有建物及び敷地共有持分権に設定されていた抵当権をいかにして抹消するか、との問題があった。前記二「マンション建替・再建の事業方式について」の項においても触れたように、今回の震災において多くのマンションが採用した事業方式である全部譲渡方式においては、事業遂行の安定性の確保等の点から、敷地共有持分権者が敷地共有持分権をディベロッパーに譲渡するに際し既存抵当権があればこれを抹消する必要があった(別紙「被災マンション等再建支援事業手法図」(1)全部譲渡方式参照)。もちろん自己資金で抵当権を抹消することができる敷地共有持分権者ばかりであれば問題はないが、自己資金で抹消することができない者が1人でもいれば全部譲渡方式による建替・再建事業は諦めざるを得ないことにもなりかねない。このような問題意識の下、被災地では「平成8年1月になり、同様のケースを多く抱える都市銀行在阪3行(さくら銀行・住友銀行・三和銀行)が、敷地共有持分権等の譲渡代金(あるいは再建等事業不参加者の場合は買取代金)が住宅ローン等の残債務額に満たない場合であっても、購入型事業代行方式に限り、債務者の債務の状況や返済能力、担保価値、ディベロッパーの信用力等を総合的に勘案したうえで個別判断において担保抹消に応じる意向を示した(平成8年1月24日付日本経済新聞朝刊)。そしてこれを契機に、住宅金融公庫も敷地共有持分権等の譲渡代金等を現実に弁済するとを条件として(在阪三行の場合と現実の弁済を要件とする点で異なる)、同様に購入型事業代行方式に限り、個別事情を総合勘案して一時的な抵当権登記の抹消に応ずるとの方針を発表した(平成8年2月2日付日本経済新聞大阪版夕刊)。」(法律時報68巻7号24頁、「建替え・再建と抵当権をめぐる諸問題」戎正晴・井口寛司)。この点全部譲渡方式によるマンション建替・再建を多く手掛けた県公社における当委員会の聞き取りによれば、平成8年5月頃までに、地元有力金融機関及び住宅金融公庫との間で抵当権一時抹消等についての合意を見て、他の金融機関もその後これに追随して抵当権一時抹消等に柔軟に対応する方針となったとのことであった。そこでこの項では、県公社が関与した事例における既存抵当権の処理の概要を紹介し、これを踏まえ今後に向けた提言を行うこととする。


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 2、県公社が参画した事例における既存抵当権の処理の概要

  1. ケース1ー既存抵当権を住民が自己資金で抹消する場合
     この場合には、(1)住民が自己資金で抵当権を抹消の上、(2)県公社と住民が土地共有持分売買契約(住民から公社へ)、(3)将来の分譲住宅売買予約契約(公社から住民へ)を締結することになる。そして(2)の時点では土地共有持分代金のやりとりは実際に行われず、将来の分譲住宅売買契約の際、土地共有持分代金額を差し引いた価格を分譲価格とするとされている。
  2. ケース2ー既存抵当権を県公社が支払う代金で抹消する場合
    (1)抵当権者が都市銀行等の民間金融機関の場合
     県公社と住民の間で、(イ) 土地共有持分売買契約(住民から公社へ)、(ロ) 将来の分譲住宅売買予約契約(公社から住民へ)を締結し、同時に、(ハ) 抵当権の抹消及び代金受領に関する約定書を締結する。その上で、(ニ) 住民は銀行に対して(ハ) の約定書を差し入れ、(ホ) 市中銀行はこれを受けて抵当権を先に抹消する。(ヘ) その数か月後に、公社が銀行に対して(イ) の土地共有持分代金を支払い(銀行が代理受領)、(ト)銀行は住民の既存債務の弁済に充当する。このケースの場合、銀行は住民から約定書を差し入れられた時点において抵当権抹消を先に行うため、県公社から土地代金を代理受領するまでの数か月間、一時的に無担保状態になる(図1参照)。

       図1    (イ) 土地共有持分売買契約
             (ロ) 分譲住宅売買予約契約
             (ハ) 抵当権の抹消及び代金受領の約定書


    (2)抵当権者が住宅金融公庫の場合
     住民と県公社間の(イ) 土地共有持分売買契約締結、(ロ) 分譲住宅売買予約契約締結は(1)の民間金融機関の場合と同じであるが、抵当権の抹消については、(ハ) 県公社、住民、公庫の三者間で抵当権の抹消についての覚書を締結し、(ニ) 公庫が抵当権を抹消するのと公社が公庫に対して土地共有持分代金を支払い、公庫が住民の既存債務に充当するのを同時に履行する、とされている。
     この場合、(イ) の後の段階で住民から県公社に対して土地共有持分について移転登記が行われ、その後(ニ) の段階で公庫が公社からの代金支払と引換えに抵当権の抹消を行うため、県公社は一時的に抵当権付の共有持分を抱えることになる。(図2参照)。

       図2    (イ) 土地共有持分売買契約
             (ロ) 分譲住宅売買予約契約


  3. ケース3ー既存抵当権の被担保債権額が土地共有持分代金を上回っており既存抵当権の抹消ができない場合
    (1)抵当権者が都市銀行等の民間金融機関の場合
    公社と住民の間で(イ) 土地共有持分売買契約締結、(ロ) 分譲住宅売買予約契約締結を行い、同時に(ハ) 抵当権の一時解除に関する約定書を締結する。この約定書には県公社からの土地共有持分代金の代理受領権を銀行に認めることと併せて、将来的に住民が新しく完成したマンションの区分所有権を取得した際に、銀行に対して一時解除を申し入れる既存抵当権と同じ順位、内容のものを設定し直すことを約束する、との内容になっている。(ニ) 住民は銀行に対して(ハ) の約定書を差し入れ、(ホ) 銀行はこれを受けて既存抵当権を先に抹消(一時解除)し、(ヘ) その数か月後に、県公社が銀行に対して、(イ) の土地共有持分代金を支払い、銀行が代理受領の上、既存抵当権の被担保債権の一部に充当する。そして、(ト) 将来的に住民が新しく完成したマンションの区分所有権を取得した際には、(ハ) の約定書の内容にしたがって、一時解除した抵当権と同じ順位、同じ内容の抵当権をその区分所有権に設定することになる(図3参照)。この場合、銀行は代理受領した土地共有持分代金を充当した後にも残った被担保債権の残額につき、マンションが新たに完成して抵当権の設定を改めて受けるまでの間無担保状態になることになり、このためこの一時解除には当然ながら無条件で応じることなく、債務の状況、返済状況、担保価値その他の事情を考慮の上決定することになる。

        図3   (イ) 土地共有持分売買契約
             (ロ) 分譲住宅売買予約契約
             (ハ) 抵当権の一時解除に関する約定書


    (2)抵当権者が住宅金融公庫の場合
     住民と県公社間で(イ) 土地共有持分売買契約締結、(ロ) 分譲住宅売買予約契約締結し、抵当権の一時解除については、(ハ) 県公社、住民、公庫の三者間で抵当権の一時解除に関する覚書を締結し、(ニ) 公庫が抵当権を一時解除するのと公社が公庫に対して土地共有持分代金を支払い、公庫が代理受領した代金を住民の既存債務の一部に充当するのを同時に履行する。(ホ) 住民が新しく完成したマンションの区分所有権を取得した際に、公庫が一時解除した抵当権と同じ内容、順位1番の抵当権を設定する(図4参照)。この場合、公庫は一時的に無担保状態になるため個々の住民の事情によって一時解除するか否か決定することになる。

        図4   (イ) 土地共有持分売買契約
             (ロ) 分譲住宅売買予約契約


  4. ケース4−転出者で既存抵当権被担保債権額が土地共有持分代金額を上回っている場合
     再建決議には賛成したが後に転出することとなった住民についても、自己資金で既存抵当権を抹消できる場合や、土地共有持分代金で被担保債務全額を弁済することが可能な場合は、基本的には前記1.2.のケースと同様の処理となる。しかしながら、転出者の場合で既存抵当権の被担保債権額が土地共有持分代金を上回っている場合については、その不足分を何らかの方法で調達しなければならないという困難な問題に行き当たる。というのも転出者の場合には、当然のことながら新しく建替、再建される建物の区分所有権を取得しないため、前記3.のケースのように抵当権を一時解除して、新建物の区分所有権を取得した段階で抵当権を設定し直す、という手法が利用できないためである。従って金融機関(銀行、公庫等)は転出者に対しては、原則的に土地共有持分代金で不足する分についての返済が行われない限り既存抵当権の抹消に応じない。土地共有持分代金で不足する資金が多額になれば既存抵当権が抹消できず、既存抵当権が抹消できない以上、公社は基本的に敷地共有持分権を買い取らないため、全部譲渡方法による建替・再建にとって大きな障害となる。
     具体的に転出の場合で、公庫の既存抵当権の被担保債権額が土地共有持分代金を上回っている場合の処理としては、住民と県公社間の(イ) 土地共有持分売買契約締結、(ロ)県公社、住民、公庫の三者間で抵当権の抹消についての覚書を締結、(ハ) 転出者が既存抵当権の被担保債務額のうち土地共有持分代金額で不足する部分につき資金を調達の上公庫に繰り上げ弁済、(ニ) 公社が公庫に対して土地共有持分代金を支払い公庫が住民の既存債務に充当するのと、公庫が既存抵当権を抹消するのを同時に履行する、とされている(図5参照)。

        図5   (イ) 土地共有持分売買契約


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 3 評価と提言

  1. 抵当権抹消・一時解除の手法についての評価
     県公社参画案件における既存抵当権抹消・一時解除に関する概要は以上のとおりであるが、マンション建替・再建にあたって、県公社・公庫・金融機関等の間で一定の覚書、約定書が締結され、抵当権抹消・一時解除に関するレールが引かれたことはマンション復興に対して大きな役割を果たした評価することができよう。三者の間でかかる合意がなされたのは、もちろん阪神大震災による被害の甚大さ、社会的要請の強さ等が最大の理由であるが、前記二の事業手法の項でも述べたように、ディベロッパーが県公社という公的機関で、マンション復興に対し公の意味づけをしたことが大きい。また逆に県公社が今回の震災下のマンション建替・再建の多くに関与しえたのは、上記のような抵当権抹消・一時解除に関する一定のレールが引かれたからとも言えよう。
  2. 今回の措置についての限界
     しかしながら、今回の抵当権抹消・一時解除の措置についても自ずと限界があった。第一の問題は前記2.3.ケース3−既存抵当権の被担保債権額が土地共有持分代金を上回っており既存抵当権の抹消ができない場合である。この場合、銀行や公庫が県公社から土地代金を代理受領し被担保債権の一部に充当することによって既存抵当権の一時解除に応じるか否かは、個々の住民の残債務額、資力、年収、年齢、ディベロッパーの信用力等によって決定されることになり、一律に一時解除が認められるわけではない。このため結局は再建に参加する他の住民達が基金作り、その基金から既存抵当権を抹消するための資金を融資をする等、他の再建参加者が加重な負担を強いられたり、建替・再建自体が困難になる場合も考えられる。また抵当権を一時解除する場合、前記のとおり民間金融機関に差し入れられる約定書では、新たに建設した建物の区分所有権に既存抵当権と同順位・同内容の抵当権を改めて設定することとされているが、住民が再建マンションの購入資金につき改めて公庫融資を受けようとした場合、公庫の抵当権は必ず一番としなければならないとされていることから、民間金融機関の既存抵当権が一番抵当権であった場合、新たにな建物に設定する抵当権の順位を調整する必要が生じる、という困難な問題もある。
     第二の問題は、前記24.ケース4−転出者で既存抵当権の被担保債権額が土地共有持分代金額を上回っている場合である。この場合は原則的に転出者が不足分につき資金を調達する必要があり、しかも転出者であることから、他の住民としても将来的に自分達と同じマンションに入居しない人のために資金までどうして作る必要があるのか、との思いもあって問題は更に深刻である。かように今回とられた抵当権抹消・一時解除に関する措置はマンション復興に大きな役割を果たしたが一定の限界があったことは否めない。
  3. 提言
    (1)抵当権の一時解除をスムーズに行えるための措置(ケース3に対する提言)
     この問題を解決するためには、抵当権を一時的に解除する間、その保証を行う公的機関の設立が不可欠である。そして、戸建て住宅の居住者との間の均衡を考え、この公的機関による保証を受ける要件として、(イ) 公的保証機関を利用できる要件を定め(残債務額との対比において公的保証機関を利用できる者の資力・収入を定める、一棟のマンションにおける保証限度額を設ける、合理的な保証料を定める等)、(ロ) 建替・再建決議等の中で公的保証機関を利用することの決議を求める、(ハ) 最終的に公的保証機関が金融機関等に保証債務を履行した場合に、公的保証機関は公的保証機関を利用することの決議に賛成した住民等に求償することができる等の仕組みを作るべきであろう。
     なお、付言すれば、大阪弁護士会は1996(平成8年)年10月1日、「災害救助法を徹底活用し、被災者の生活再建を支援するための緊急提言」(「阪神・淡路大震災と弁護士会の取組−被災者の救済と復興にむけて−第2集」34頁〜)において、住宅全壊世帯に対し、一世帯あたり金500万円、住宅半壊世帯に対し金300万円、住宅一部損壊世帯に対し家財道具の破壊程度に応じて一世帯あたり最高金100万円の生活再建援助資金を給付することが最低限必要であるとの提言を行ったが、この提言が実現されれば、上記の公的機関による保証制度を併せ活用することにより抵当権の一時解除の問題の解決に大きく寄与しうる。
    (2)滌除制度の利用
     一方、ケース4の転出者についてであるが、この場合も・と同様に公的機関によある保証を導入することも考えられないわけではない。しかしながら、転出者は新築された建物の区分所有権を取得せず、にも係わらず公的保証までする必要があるのか、(1)の(ハ) 等の条件を課したとして、決議に賛成し人居を予定している住民が転出者ためにまでこの制度を利用するのか疑問も多い。このようなことを考えると滌除制度を活用するのが合理的と考えられる。この点前掲の「建替え・再建と抵当権をめぐる諸問題」(法律時報68巻7号24頁、戎正晴・井口寛司)においては、「今後、滌除の申出が活用されるとすれば、その前提条件として被災マンションの救済策としての滌除という良好なイメージの定着をはかるとともに、金融機関の建替・再建事業への協力を求めるために、滌除の申出にあたり少なくとも不動産鑑定士による正式の鑑定書を添付するなどの工夫が必要であろうし、公共的性格を有する申出であることを強調するために、公団・公社等の公的ディベロッパーからの申出の形式をとる工夫もなされるべきであろう。」とされているが、極めて示唆の富んだ意見であり賛成である。
     マンション等における共有関係は、伝統的な共有関係とは異なり、人工的に作りだされた共有関係であるため、区分所有者相互間の人間関係は緊密ではないことが多い。にもかかわらず、マンションの再建にあたって、たとえ自らの資金繰りはできたとしても、たまたま同じマンションに入っていたごく一部の資金繰りが苦しい区分所有者のために、全ての再建が不可能になるのは極めて不合理である。都市的生活のあり方として今後もマンションが不可欠であるとすれば、上記の制度の整備が是非とも必要である。

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4.団地をめぐる特有の問題

 1、はじめに


 今回の阪神大震災においては、区分所有建物が複数存在する団地において、その一部の棟のみが全壊したという事例が多数見られ、このような場合に、被災マンション法における再建手続をどのように進めて行けば良いのか、すなわち、全壊した棟の敷地 共有者等のみの再建決議で足りるのか、それとも団地を構成する全ての敷地共有者等で再建決議を行う必要があるのか、との問題が生じた。
 この点について、当部会においては、(1)被災マンション法上の再建決議自体は、全壊した区分所有建物の敷地共有者等のみの再建決議で足り、団地を構成する全ての敷地共有者等の決議による必要はない、(2)ただし、再建決議の内容が、再建決議に参加しない同じ団地内の他の棟の敷地共有者等の利益を害する場合には、再建決議とは別に、その点の了承を求める団地全体の決議を行うべきである、(3)被災マンション法においては、これら団地をめぐる特有の問題について明文化すべきである、との結論に達した。以下においては、「一筆の敷地内にA・B二棟の区分所有建物が存在する。敷地は団地内における全区分所有者の共有に属し、建物共有部分はそれぞれの棟の区分所有者が所有している場合において、A棟のみが全壊した。」という事例(図2参照、以下「本事例」という。)をもとに、当部会における意見を述べる。
     (図2)



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 2、現行法の概要(条文の形式解釈)

 被災マンション法によれば、区分所有建物の全部が滅失した場合において、その建物に係る敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であったときは、その権利を有する者は再建の集会を開くことが出来るとし(同法2条1項、3条1項)、再建の集会においては、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数で、再建の決議ができるとしている(同法3条1項)。そして、被災マンション法においては、本事例のような団地内の数棟のうちの一棟のみが全壊した場合に関する再建決議についての特則は設けられていない。
 したがって、被災マンション法の条文を形式的に解釈すれば、本事例の場合も、全壊したA棟の敷地共有者等のみでなく、存続しているB棟の敷地共有者等も含めて、再建決議を行う必要があることになる。


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 3、条文の形式解釈の問題点

 上記の通り、被災マンション法を形式解釈すれば、団地内にある全壊していない建物の敷地共有者等も、全壊した建物の再建決議に参加することになるが、これは、価値判断として不当であることは明白である。すなわち、全壊していない建物の敷地共有者等は、全壊した建物の敷地共有者等に比べて、全壊建物の再建につき有する利害関係がはるかに希薄であるにもかかわらず、その有する敷地共有持分等の価格の割合によって再建決議に参加することになるため(被災マンション法2条2項)、真に緊密な利害関係を有する全壊建物の敷地共有者等の意思が反映されない結果になりかねないからである。
 そもそも、被災マンション法2条2項において、再建決議の議決権を敷地共有持分等の価格の割合によるとしたのは、敷地上に区分所有建物を再建するかどうかが、共有物である敷地の変更に該当し、個々の敷地共有者等が最も利害関係をもつものであり、敷地共有者等の有する権利の内容によることが最も合理的であると考えられたからであるが(「大規模災害と被災建物をめぐる諸問題」新法解説叢書15、28頁)、本事例のような場合にはこの理がそのままは妥当しないのは明らかである。
 むしろ、被災マンション法の解釈運用にあたっては、被災マンション法制定の目的、区分所有法との均衡等を視野に入れつつ、個々の敷地共有者等の有する全壊建物再建についての利害関係の濃淡に応じて、再建決議手続参加への度合いを考察すべきである。


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 4、被災マンション法の目的

 今回の阪神大震災に伴い被災マンション法を制定した趣旨・目的は前記のとおりであるが(第一、二の1参照)おおよそ次のようなものである。すなわち、区分所有建物が全壊した場合には、区分所有関係が消滅し、元の区分所有者の間には敷地利用権である所有権の共有関係が残っているだけになるため、仮に敷地共有者等が同じ敷地に区分所有建物を再建をしようとすれば、その全員の合意が必要であると解されることになる(民法251条)。そうすると、事実上区分所有建物を再建することは極めて困難になることから、この弊害を避けるため、区分所有建物の再建決議の要件を緩和する法的措置を講じた、というものである。被災マンション法1条において、「この法律は、大規模な火災、震災その他の災害により滅失した区分所有建物の再建等を容易にし、もって被災地の健全な復興に資することを目的とする。」とされているのは、上記の趣旨を端的に表現したものであり、とすれば、被災マンション法の解釈運用にあたっては、極力、区分所有建物再建が容易になるような方向を目指すべきは当然である。


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 5、区分所有法との均衡

 前記のとおり被災マンション法は、本来なら敷地共有関係として全員合意が必要なはずの区分所有建物の再建のための要件を緩和し、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数で決議できるとしている。これは、区分所有法62条において、建物の建替決議を区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で行いうるとされているのとパラレルであり、実質的には敷地共有者等の間に建物滅失後も過渡的に団体的関係が存在するものとし、多数決によって再建を決議することを許容したものと評価できる(稲本洋之助「被災区分所有建物の復旧・建替え・再建1」法律時報67巻8号)。
 そして、被災マンション法が、実質的には建物滅失後過渡的に団体的関係が存在するものとするのであれば、本事例の場合であれば、その全壊したA棟の従前の団体的関係が存在するものとし、A棟の敷地共有者等のみで再建決議を行っていくことができる、と考えるのが法の趣旨にかなうものと解される。
 このことは、区分所有法との均衡から考えても、妥当な結論である。というのも、仮に本事例の場合において、団地内で全壊に至らなかったB棟の区分所有者が区分所有法上の建替を行う場合を考えると、同法第二章「団地」において、第一章第八節「復旧及び建替え」(同法61条〜64条)の準用がされていないことから、基本的にはB棟のみの決議で行うことができると考えられるからである。
 区分所有法第二章「団地」において、「復旧及び建替え」の規定が準用されていない理由は、復旧や建替といった非日常的な、しかも、団地内における一体的な管理の要請を超えた、区分所有者の財産権の回復を図る事項については、それぞれの棟を超えて、別の棟の区分所有者に介入する権利を認める根拠がないからとされているが、これは再建の場合には、なおのこと妥当しよう。


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 6、敷地利用権の捉え方

 本事例のような団地の場合、A棟の区分所有者(敷地共有者等)は、従前、B棟の区分所有者(敷地共有者等)に対して、少なくともB棟の建っている敷地部分については排他的な使用許諾をしており、逆にB棟の区分所有者(敷地共有者等)はA棟の区分所有者(敷地共有者等)に対してその敷地部分についての排他的使用許諾をしている。このように団地内に複数棟が存在する場合には、それぞれの棟の区分所有者(敷地共有者等)は、相互に他の棟の区分所有者(敷地共有者等)に対して、その敷地部分を排他的に使用することを許諾していると考えられ、この排他的使用許諾という関係は、たとえ地震で一つの棟が全壊したとしても継続していると考えるべきである。
 とすれば、本事例の場合だと、全壊したA棟の区分所有者(敷地共有権者)は、A棟があった敷地部分については、専らA棟のみで排他的に利用できるという敷地利用権を有していると考えられ、この権利が被災マンション法2条1項の敷地利用権に該るとも考えられよう。これは、団地における敷地利用権をどのような性格のものと考えるのかという根本的な問題であるが、仮に上記のように考えられれるとすれば、A棟の区分所有者(敷地共有権者)のみで再建決議を行えるという法的根拠にもなろう。


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 7、再建決議に参加しない敷地共有者等への配慮

 以上のとおり、本事例のように区分所有建物が複数存在する団地において、その一部の棟のみが全壊したという事例においては、被災マンション法上の再建決議自体は、全壊した区分所有建物の敷地共有者等のみの再建決議で足り、団地を構成する全ての敷地共有者等の決議による必要はないと考えるべきである。
 無論、こう解するからといって、他の敷地共有者等が不当に不利益を被ってもよいというわけではなく、他の敷地共有者等に不利益が生じるのであれば、その意思を反映する何らかの手段を講ずる必要はある。ただ、他の敷地共有者等の意思を反映する手段としては、再建決議自体に参加させる、という方法を取る必然性はなく、他の敷地共有者等が被る不利益の内容・程度に応じて、敷地共有者等全体の決議を行えば足りると解すべきである。このような解釈を行うことによって、個別具体的な事情に応じて再建をよりスムーズに行うことが可能になると考えられる。
 以下、容積率、専有部分の床面積の変更、修繕積立金について述べる。

  1. 容積率
     余裕容積率がある場合に、再建する一棟だけで余裕容積率を使い切ってしまうと、再建決議に参加できない敷地共有者等は、将来的に建替等を行うにあたって、小さな建物しか建てられないという不利益が生じることになる。余裕容積率の問題は、公法上の規制の反射的利益に過ぎないため、果たして私法的な決議等で解決を図るべき問題であるのか、との根本的疑問があるものの、現実問題とすれば、同じ敷地共有者等の中で、土地をより有効に利用できるグループと、出来ないグループを生み出すことは、実質的には再建決議に参加できない敷地共有者等の権利を侵害しているとも言え、これらの者の意思を何らかの形で反映していく必要がある。
     以下場合を分けて考察する必要がある。
    (1)敷地面積の割合からみて他の棟の容積率を侵害しない場合
     冒頭の本事例において、余裕容積率が10%あり、全壊したA棟の区分所有者の有する敷地共有持分合計の全体の敷地面積に対する割合が4割、B棟の割合が6割であったとする。この場合においてA棟の再建予定建物が余裕容積率を4パーセント分(余裕容積率の4/10)だけ使うのであれば、B棟の敷地共有者の利益を害することには何らならない。前記のとおり、全壊建物を再建する場合には、団地の場合であっても基本的には全壊した1棟のみの区分所有者の議決によるべきであり、とすれば、この場合においては、団地全体の決議やB棟の敷地共有者の決議は不要と解すべきである。
     ただし、B棟の敷地共有者としても、A棟の敷地共有者がいかなる区分所有建物を建設しようとしているのかについての情報を得たいとの要請は当然のこととしてあるであろうし、また、本来B棟に振り分けられるべき余裕容積率を本当にA棟が再建を予定している建物が侵害していないかを検証し、仮に侵害しているのであれば事前に異議を述べられるようにする機会は設けられるべきであるから、A棟の敷地共有者としては、再建予定建物の設計の概要や余裕容積率をどれだけ使うのかが明らかになった段階で、速やかにB棟の敷地共有者に対し情報を開示しなければならないと考えられる。
    (2)敷地面積の割合からみて他の棟の容積率を侵害する場合
     この場合には、A棟の敷地共有者のみの決議により建物再建を進めることはできないものと解さざるを得ない。現実的には、団地全体として意思形成を円滑にするため、団地全体の容積率を各棟の敷地面積ごとに割り振って、その範囲内で建替をするという考え方が妥当と考えられる。その際、決議としては、団地敷地の利用形態の変更等については、共用部分の変更の条文が準用されていることに鑑み(区分所有法66条、17条1項)、全敷地共有者等の4分の3の議決で決定すべきである。
  2. 専有部分の床面積の変更を伴う場合
     区分所有法上、専有部分の床面積は、共用部分の持分割合決定の基準とされているため(14条1項)、共用部分の負担または利益収取の割合(19条・53条)、1人の区分所有者が数個の専有部分を所有する場合の各敷地利用権の割合(22条2項)、区分所有者の責任割合(29条)、集会における議決権(38条)、残余財産帰属(56条)、復旧の場合の償還請求の割合(61条2項)等の基礎となる。このため専有部分の床面積の変更を全壊建物の敷地共有者等のみの集会決議で行うことはできない。この問題を解決するには、団地全体で共有持分の割りつけの変更を行うか、または団地管理組合の規約を変更する等の手段によって、専有部分の床面積変更によって、再建決議に参加しない他の棟の敷地共有者等の持分割合が変わらないような手続を経ておく必要がある。
     仮に、団地全体の共有持分の割りつけをやり直すとすれば、それは区分所有権の内容を変更する事にほかならないから、所有権絶対の原則から考えても、敷地共有持分者等全員の合意が必要と解さざるを得ないであろう。これに対し、規約変更については、区分所有法66条、31条によって、団地管理組合における4分の3以上の多数による議決を経るべきである。
  3. 修繕積立金の流用
     再建の費用については全壊した建物の敷地共有持分権者等のみの負担とするのが原則であるが、団地管理組合の従前の修繕積立金を利用できないのかとの問題があり得る。
     この点、団地管理組合があり、団地管理組合としてのみ修繕積立金を徴収してきたようなケースで、その修繕積立金のうち、団地全体のための積立金部分と、各棟毎の積立金部分を明確に分けて管理してきたような団地においては余り問題はなく、全壊建物の従前区分所有者は、自分の棟の修繕積立金部分について、自分の棟の集会決議のみによって新たな建物再建費用として使用できるものと考えられる。
     これに対し、上記と同様のケースで修繕積立金につき、団地全体のための積立金部分と、各棟毎の積立金部分が明確に区分されることなく管理されてきた団地において、全壊建物の従前区分所有者が修繕積立金を建物再建費用として使用できるのかについては解決困難な問題で、全壊していない棟の区分所有者らも含めた決議がない以上これを使用できないとすれば、現実問題として建物再建がおぼつかなくなるケースも十分考えられる。しかしながら、ひるがえって考えれば、たとえ団地管理組合としてのみ修繕積立金を積み立てており、明確な区分なく管理されていたとしても、本来的には、全壊した棟の修繕のために使用されてしかるべき積立金が包含されていることは間違いないのであるから、団地全体の決議がない以上、本来全壊棟の修繕のために使用されるべき部分についてまで、一切修繕積立金を利用できないとするのは妥当ではない。
     そこで、原則としては、それぞれの棟の区分所有者が過去において拠出してきた修繕積立金の金額や過去の修繕積立金の利用のされ方(例えば、直近において全壊しなかった棟の修繕のために修繕積立金が利用されていたといった事情があれば、その事情は十分考慮されるべきである。)等を考慮の上、4分の3以上の多数による団地管理組合の集会決議によって、修繕積立金のうち被災した棟の区分所有者が利用できる範囲を決することができるとした上で、集会決議が成立しない場合等については、使用できる範囲を確定することを裁判所の非訟事件として求めることができるよう立法的解決を図るべきである。
     なお、1997(平成9年)年に建設大臣に答申された中高層共同住宅標準管理規約(団地型)においては、特別修繕費については、各棟特別修繕費は各棟の共有部分共有持分に応じ、団地特別修繕費は各団地建物所有者との土地共有持分に応じて算出し、それぞれ区分して経理し、管理組合は、各棟特別修繕費を各棟修繕積立金として積み立てて、棟の共用部分・付属施設の修繕に要する経費に充当し、団地特別修繕費を団地修繕積立金として積み立てて、土地・付属施設・団地共用部分の特別修繕経費に充当する。各棟特別修繕費と各棟修繕積立金はそれぞれ、棟ごとに分別して経理するとされた。
  4. 団地管理組合が存続するのか
     かように再建決議の内容が、再建決議に参加しない敷地共有持分権者等の利益を害する場合には、団地管理組合における決議等を別途行っていく必要があると考えられるが、本事例のように団地にA・B二棟の区分所有建物があり、そのうちのA棟のみが全壊したような場合、法律的には、区分所有法65条の「一団地内に数棟の建物があって、その団地内の土地・・がそれらの建物の所有者・・の共有に属する場合」という団地建物所有者団体の成立要件を欠くに至るため、団地管理組合における決議ということ自体あり得ないのではないかとも考えられるが、被災マンション法が、実質的には過渡的にであれ団体的関係が存続することとしていることからして、このように考えるべきではない。

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 8、立法提言

 以上のように、現行の被災マンション法においても、(1)再建決議自体は、全壊した区分所有建物の敷地共有者等のみので行えば足り、団地を構成する全ての敷地共有者等の決議による必要はなく、(2)再建決議の内容が、再建決議に参加しない同じ団地内の他の棟の区分所有者(敷地共有者等)の利益を害する場合には、再建決議とは別に、その点の了承を求める全体の決議を行うべきであると解釈できるし、そのように解すべきであるが、被災マンション法において明文で団地の場合の特則が設けられなかったために、実際の現場においてはかなりの混乱が見られるようである。
 もともと、今回の被災マンション法は原則的な民法の共有関係の理論の例外を認めたものである。すなわち、区分所有法は敷地利用権につき、数人で有する所有権またはその他の権利、であることを想定しているが、同法は区分所有建物についての特別法であって敷地利用権についての特別法ではなく、専有部分との分離処分の禁止を定めるにとどまる(同法22条)のに対し、被災マンション法は形式こそ区分所有法の多くを準用する形をとっているが、その内実は、民法の共有理論からすれば全員合意が必要とされた再建決議につき、敷地共有者等の議決権の5分の4の多数決で足りるとした点で、民法の特別法として位置づけられる。
 かように被災マンション法が民法の共有理論の例外を認めたのであれば、更に一歩進めて、本事例のように団地内の一部の区分所有建物のみが全壊した場合には、全壊した区分所有建物の敷地共有者らは、新たに建設しようとする建物の設計の概要等についての情報開示を適切かつ速やかに行うことを条件に、全壊した敷地共有者等のみで再建決議を行うことができると明文化すべきである。そして、敷地面積の割合からみて他の棟の余裕容積率を侵害する場合の問題や修繕積立金の問題等については、前記7に記載した内容の全体の決議を別途要する旨の規定を設けるとともに、修繕積立金については、今後建設される団地については団地全体の修繕積立金部分と各棟毎の修繕積立金を分けて管理しなければならないとすべきである。更にこれらを分けて管理していなかった団地については、4分の3以上の多数の団地全体の決議で修繕積立金のうち被災した棟の区分所有者が利用できる範囲を決することができるとした上で、集会決議が成立しない場合等には、非訟事件手続によってその解決を求めることが出来る旨の明文規定を設けるべきである。

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