2015年7月2日 (木)

地域猫について

地域猫活動というのがあります。特定の飼い主がおらず、住みつく地域の猫好きな複数の住民たちの協力によって世話され管理されている猫に、不妊去勢手術を施して、これ以上不幸な猫をつくらないようにしたうえで、地域で適正に管理し、野良猫の数と被害を減らしていく活動です。徐々に全国で広がってきています。私は、市民活動の進め方の相談に乗ることがありますが、地域猫活動の相談もときどきあります。

 

この活動は、その地域の住民と地域猫活動に取り組むボランティア、そして行政の三者が協力しあって、野良猫の拡大を防ぎ、人と猫とが共生する地域づくりをしていくことを目的にしていると言えます。

 

実は、早稲田大学に、大学公認の地域猫活動サークルがあったようです。「地域猫の会」(通称「わせねこ」)といい、今もあるのかどうかは、知りません。このサークルは、大学のキャンパス内に住む猫を対象に地域猫活動を行なっていました。そこでの活動が、正統派地域猫活動と言えそうで、そこで行っている活動の主な内容は、定期的な餌やり、構内の猫の不妊去勢手術、猫の餌場やその周辺の清掃、地域猫に関するシンポジウムへの参加、活動への理解を求める為の広報紙の発行、メンバーによる定例会等とのことのようです。

 

こういった活動が、関西でも広がっていることは、7年ほど前の大阪日日新聞で、「野良猫を『街ねこ』に避妊去勢し地域で飼育」というタイトルで、紹介記事が出ていました。

 

その記事の概要ですが、ある大阪市内の自治会会長が、以前から、公園内に捨てられる子猫が増えたのを感じていたため、数年前から野良猫40匹に自費で避妊去勢手術を施してきていました。その活動の輪を広げようと、その方が区長に相談したところ、同区役所から、当時に大阪市が進めていた「大阪市街ねこモデル地区事業」を紹介されました。その後、その方はネコ愛護会を結成し、市の補助を受けながら活動を続けていることが書かれていました。その主な活動時間は夜間で、捕獲した猫は、協力獣医師の元で手術を実施し、以降は「街ねこ」として耳に印を付けて、他の猫と区別していました。餌やりの時間と場所を決め、健康管理なども行っていました。その方は「餌を与えるだけで満足している人は、あまりにも無責任。避妊去勢しなければ増えるだけ」と話していました。ネコ愛護会の活動が認知されて協力者が増えれば、もっと活動の幅を広げたいとの話をしていました。

 

ただ、この地域猫活動の課題は多くあると思います。そのひとつに、単に餌を与える活動としてしか見られずに、地域で理解されず、住民間でトラブルになるケースが相次ぐようになったことだろうと思います。中には、地域猫活動だと言って、実は安易に餌やりだけをしているケースもあるでしょうから、活動側に問題があるケースも多いと思います。

 

実は、今から7年前に、有名な将棋棋士の方が、猫に餌付けをしていたために、猫のフン尿などで被害を受けたとして、同じ集合住宅に住む住民たちから「餌付けの中止」と慰謝料を求めた裁判がありました。その裁判では、東京地裁立川支部の裁判官が、餌付けの差し止めと204万円の損害賠償の支払いを命じています。

 

この裁判の判決文の中で、裁判長が「地域猫」に言及しています。判決は、その棋士が、猫への不妊去勢手術やトイレ設置などの対策を取った点について、「動物愛護の精神に基づき、少しずつ地域猫活動の理念に沿うものになってきた」と評価したものの、他方で近隣住民との話し合いの場に出席せず、与え続ければ猫が寄ってくることを知りながら、なお餌やりを続けた点などを問題であるとして、これが「限度を超え、原告らの人格権を侵害する」とされたのでした。

 

その事例では、訴えた住民側は、「合意形成も無いのにやってよいわけが無い」と主張していました。裁判官は、その棋士が猫に避妊手術を受けさせていたことなどを指摘して「少しずつ地域猫活動の理念に沿うものになってきた」と評価しましたが、他方で近隣住民との話し合いの場に出席しなかったことや、地域対立が生じながらなお餌やりを続けた点が、違法と判断しました。結局は、その地域住民の理解が不可欠であることが活動の重要な要素だということになるかと思います。

 

地域猫でのトラブルのケースは、その多くに人間関係の紛糾が背景にあるようですが、地域猫活動とは、地元地域との有効な連携が無くてはできないことも事実です。できうれば、その活動を広げるためには、徐々にでも活動の理念を説明し、理解を広げていくしか道は無いように思います。大変なことですが、地域で受け入れられている活動は、みんな、その壁を乗り越えてこられたと思いますので、興味ある方はご参考にしてください。

猫も犬も

興味深い裁判例でした。動物を飼うことについては,実に賛否両論あることを広報室で実感しています。両方の立場があることを踏まえて折り合いを付けながらという点が大切なのですね。

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