あいつの尋問の日が迫ってきた。

私を「一緒に罪を犯した犯人」と名指しして,共犯に引きずり込んだあいつの嘘を,法廷で暴かなあかん。

あいつの証言は,この証拠とも,友人の証言とも矛盾する…

法廷で矛盾を指摘すれば,あいつはしどろもどろになるはず。

そんなヤツの言うことなんか,裁判官は信用できるわけがない。

私が犯人,というあいつの証言の信用性が崩れるんや。

そうしたら…

弁護士さん,頼むで。

 

「検察庁の者です。あなたと弁護人の打合せメモを押収して捜査資料にします」

ちょっと待て!!

そんなもん検察官に読まれたら,あいつの嘘を暴く俺の作戦が筒抜けやないか!!

あいつはきっと,検察官と打合せして,私や弁護士さんの追及をかわす言い訳を準備する。

先に手の内を全部知られた私が,どうやってあいつの嘘を暴けるんや…

私は,あいつの嘘のせいで,犯人にされてしまうんか。

いったい,誰がこんなことするんや,誰がこんなこと許したんや…

 

ここまでは,あくまでフィクションです。

 

しかし,よく似た事件が,2年前の夏,大阪で起きました。

 

強盗事件に関わったとして起訴され,無罪を主張していた被告人が,担当弁護人の差し入れた事件に関するメモや,弁護人宛の書きかけの手紙を,その事件を担当していた検察官に押収されたのです。

 

被告人は,無罪を主張したために,弁護人以外の者との面会や手紙のやり取りを禁止され,拘置所の独居房に移されていました。

 

彼を強盗犯人と名指しした者の証人尋問が,間近に迫っていました。

彼は,自らの身を守るため,弁護人が差し入れた証拠を読み込んで,自分を犯人とする証拠の矛盾点や曖昧な点を見つけて,弁護人との打合せに備えていました。

筆まめな彼は,自ら気づいた矛盾点を手紙にしたため,頻繁に弁護人に送っていました。

弁護人からも,これからの公判の準備のために,メモが差し入れられていました。

彼の手元には,メモや,書きかけ・書き損じの手紙,証拠の検討結果を自ら記したノートなど,裁判に関係する書類ばかり残っていました。

 

法廷で彼の有罪を主張した検察官は,被告人を犯人と名指しする証人の尋問直前,裁判官から,被告人の独居房や拘置所倉庫で,手紙やメモを捜して押収する許可を得ました。

担当検察官は,被告人から押収した弁護人宛の書きかけの手紙や,弁護人の差し入れた尋問事項メモを熟読しました。

後に開示されたこれらの押収書類には,検察官が貼ったと思われる付箋が,いくつも付いていたのです。

 

検察官の力は強大です。

組織力と資金のある警察が,捜査の過程で集めた膨大な証拠を検察官に提供します。

検察官が求めたら,裁判所・裁判官は,ほぼ例外なく強制捜査を許します。

検察官は,必要とあらば,人手とお金をつぎ込み,強制捜査権限を使って,証拠を集めることができます。

 

そうやって集めた証拠の中には,被告人は犯人ではない,と思わせるものが含まれている可能性があります。

しかし,検察官は,無罪が明らかでない限り,被告人の無罪主張を助けるような証拠は,たとえ持っていても,まず法廷には出しません。

最近,裁判員裁判の導入に伴って設けられた証拠開示制度を使って,被告人・弁護人がやいやい要求して,ようやく一部の証拠が開示されるようになりました。

それでもまだまだ,警察・検察による証拠の独占が続いています。

 

検察官と同じ規模で独自に調査し,証拠を集められる被告人・弁護人は,まずいません。

限られた力をめいっぱい駆使して,検察官の主張と提出証拠に潜む矛盾を追及し,被告人を有罪とする証拠が欠けていることを,法廷で明らかにしなければなりません。

 

しかし,被告人と弁護人が,法廷でどんな矛盾を追及しようとしているか,検察官があらかじめ知っていたら,どうなるか。

検察官は,これまでの主張や証拠の中の矛盾を打ち消す補充捜査をして,被告人・弁護人の主張が空振りに終わることを狙うかもしれません。

彼らには,その力があるのです。

 

検察官の捜査権限に対抗して被告人を守るため,憲法は,罪に問われた事件に関する被告人と弁護人との打合せの秘密――秘密接見交通権を保障しています。

ところが,この事件の検察官は,被告人と弁護人との間で秘密裏に行われるはずだった事件に関する打合せメモを強制的にあばき,押収したのです。

 

被告人と弁護人は,捜索差押えを指示した検察官,捜索差押えを許した裁判官の行為が憲法に違反することを明らかにするため,国を相手取り,国家賠償請求訴訟を提起しました。

このような行為が憲法に照らして許されないことを明らかにして,今後,二度と被告人の自らを守る権利――防御権が侵害されることのないよう,刑事司法の在り方を改める目的です。

二人の代理人には,訴状提出の時点で,全国の弁護士150人以上が就任しています。

 

この訴訟の第1回口頭弁論期日が,

 

平成24年11月5日(月)午前10時から約1時間,

大阪地方裁判所2階の202号法廷で開かれます。

 

法廷では,訴状の骨子をわかりやすく説明するプレゼンテーションを予定しています。

傍聴席で聴いていても,この事件をより詳しくご理解いただけるはずです。

 

期日まで待てない,もっと詳しく知りたいという方は,弁護団の一員である前川直輝弁護士のブログに詳しく,わかりやすく掲載されていますので,ぜひ読んでみてください。

http://shinmeilaw.blog91.fc2.com/blog-entry-589.html

 

この事件に興味を持たれた方,ぜひ傍聴に来てください。

皆さんお一人お一人に関心を持っていただくことが,刑事司法を変える原動力です。

 

今のところ,傍聴席は先着順となりそうです。

当日は少し早めにお越しください。

 

皆さんの傍聴をお待ちしています。

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