あくまで実験室で



 小保方氏の主張の正当性は、法廷ではなくあくまで実験室で検証されるべきであると考えます。

 メディアによる人権侵害への怒りは至極もっともです。過剰に世論にアピールした1月の発表が加熱報道の着火点になった点は考慮されるべきですが、会見そのものは小保方氏個人の責任に帰せるものではありませんし、いずれにせよメディア・スクラムのような現状は全く不当です。心底同情し、個人的にも雑誌メディアのプライバシー侵害には怒りを覚えます。

 また、きわめて慎重に行われる理研の調査によって長期間反論の機会を与えられないストレスは、察するにあまりあります。ただし見方を変えることもできます。小保方氏の反論が即座に行われた場合、ただでさえ異常な加熱報道のさらなる悪化が懸念されることを考えると、理研の態度は小保方氏に対してむしろ保護的であるとも言えますが。

 「悪意」の有無という一点突破で理研の主張に論駁し、法廷での勝利を目指すのもいいでしょう。もしそれで名誉が回復できると考えているのであれば、ですが。

 小保方氏の行ったことが、科学的にどういうものだったのかは、いずれ実験室で明らかにされることです。論文の主張通りにSTAP細胞が出来るのか? あるいはSTAP現象は見かけだけのもので、実際には生体に微量に存在する多能性細胞の選別だったのではないか? それとも、もっとも悪い解釈──多能性の検証実験にはESあるいはiPS細胞がすり替えて使われた──が現実だったのか? こういった論点について、法廷での議論が解明に寄与する可能性はありません。それは純粋な意味での消耗とすら言えます。喜ぶのはメディアだけです。

 ほんとうに小保方氏の名誉回復を目指しているのであれば、故意性の認定に反論するのではなく、小保方氏が実験室を利用できるようにすることを、まず真っ先に理研に要求するべきです。

 現状では、丹羽氏をリーダーにした検証チームが一年もの時間と多額の費用と二人のプロレベルの研究者の貴重な時間を投じて行う検証作業だけが、事実の解明に向けた唯一の試みになっています。言うまでもないことですが、小保方氏が研究者として実験室に入りさえすれば不要なコストです。理研の設備を使っての再現実験が妨げられるのであれば、次善の策として、Vacanti研に協力を仰いでSTAP細胞の作製に入るべきです。

 小保方氏による再現実験の再開を主張しないのであれば、法廷での議論は単なる水掛け論になるでしょう。戯画的に言えば、より多く水を掛けたほうが勝つだけです。小保方氏の名誉とも、STAP細胞の成否とも、なんの関わりもありません。メディアが──あなたがこの記事で呪ったメディアが──狂喜し、弁護士費用が入る。それだけのことです。小保方氏の主張の正当性は別のところで検証されます。それは同時にあなたの人間としての、弁護士としての信頼性の検証でもあります。

 何が得かよく考えて行動してください。

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