2017年12月15日 (金)

冤罪

 東住吉放火殺人冤罪事件をご存じでしょうか。

 

 1995年7月22日,大阪市東住吉区の住宅から出火し,入浴中だった11才の女の子が亡くなりました。後の再現実験などで,ガレージ内の自動車から漏れたガソリンに風呂の種火が引火した可能性が高いことがわかっています。

 

 しかし,1カ月半後,女の子の母親・青木惠子さんとその内縁の夫が,放火・殺人・保険金詐欺の疑いで逮捕されました。ガレージは施錠され外からの侵入が不可能であったことや,女の子に1500万円の保険金がかけられていたことなどから,疑いがかけられたものです。逮捕直後の「ガソリンを撒いてライターで火を付けた」という内縁の夫の「自白」,そしてその共謀を認める青木さんの「自白」を根拠に2人は起訴されました。検察官が主張する犯行動機は不自然であったうえ(例えば保険は勧誘されて入った学資保険でした),この状況でガソリンに火を着けることはほぼ不可能であり,「自白」は客観的・科学的事実に反していたにも関わらず,大阪地裁で2人は無期懲役の判決を言い渡され,2006年,その判決が最高裁で確定しました。「自白」が「放火」を裏付けるほとんど唯一の証拠でした。

 

 2人の冤罪が晴れたのは昨年です。2009年の再審の申立てについて,大阪地裁が2012年に再審開始を決定しました。検察官は不服を申し立てたましたが,2015年になって(遅い!),大阪高裁も大阪地裁の判断を支持したうえで,2人を仮に釈放しました(大阪地裁も2012年の仮の釈放を決定していたのですが,大阪高裁はこれを覆し,結局3年もの間,身体拘束を引っ張り続けたことになります)。検察官はこれらを受け入れ,2016年に開始された再審では,有罪の主張をしませんでした。2016年8月10日,ようやく改めて無罪判決が言い渡され,それが確定しています。再現実験で放火が不可能とされたことが決定的な証拠だったといえるでしょう。

 

 青木さんが仮に釈放されてから2年あまり,無罪が確定してから1年あまりになります。社会に戻ってくることができたことは喜ばしいことですが,普通の生活に戻ることは容易ではありません。20年という時間は,あまりに長いものです。

 

 12月18日(月)午後10時から放送のNHKスペシャル「時間が止まった私 冤罪が奪った7352日」は,裁判の問題点だけではなく,これまであまり焦点が当てられることがなかった,冤罪から復帰した後の生活にも注目した番組です。私もほんのちょっとだけこの番組に協力していますが,本当にほんのちょっとだけのことであり,むしろ「見たい」番組として挙げさせていただいた次第です。

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