「看取り」と死後事務について
終末期(人生の最期)を自宅で迎えること,「看取り」を希望する方が増えているようです。たとえば,大阪市が平成29年3月に実施した「高齢者実態調査(本人調査・ひとり暮らし調査)」の報告書によると,「万一,あなたが治る見込みのない病気になった場合,終末期(人生の最期)をどこで過ごしたいですか。(〇はひとつ)」という問いに対して,41.5%が「自宅」と回答しています。また,国も「看取り」に対して積極的で,たとえば,「終末期医療の国指針を改定 厚生労働省は,終末期医療に関し治療方針の決定手順などを定めた国の指針(ガイドライン)を改定する方針を決めた…現在は主に病院を念頭に置いているため,自宅や施設でのみとりに活用できるよう見直す…今月中に改定案を有識者検討会に示し,3月末までにまとめる」(共同通信,平成29年1月6日付)といった動きがあるようです。
ところが,現在の状況のままで多くの人が「看取り」を選択し,かつ,国も「看取り」を積極的に勧めた場合,問題が生じるのではないかと思われます。「看取り」の後,死後の手当てが全くされていないためです。
先に記載したとおり41.5%の高齢者が「看取り」を希望していながら,同じ調査によると46.2%の高齢者が終末期の過ごし方について「誰とも話し合ったことがない。」と回答しているほか,大阪市内のある地域包括支援センターが介護支援専門員に対して実施したアンケートでも,高齢者に対して「死後のこと」を尋ねたところ,「死後のことを聞いても明確な返答がなかった」,「葬儀,死後の事務等について本人が拒否されるため,話をすることが出来なかった」(「そんな事,言ってくれるな! ちゃんと考えてるよ!」,「どないかなるだろう」など)という回答が寄せられています。
このような状況で親族とも疎遠な高齢者が「看取り」を選択した場合,死後に複数の問題が生起します。その内,最初に生起するのは死亡届と火葬に関する問題です。
まず,死亡届を出すことができません。死亡届の提出義務者は同居の親族,その他の同居者及び家主・地主又は家屋若しくは土地の管理人で(戸籍法87条1項),届出権利者はその他の親族と成年後見人,保佐人,補助人及び任意後見人(以下「後見人等」という。)ですが(同2項),亡くなった方が一人暮らしで,しかも,自宅が持ち家又は分譲マンションである場合,1項の提出義務者は誰もいません。さらに,親族とも疎遠で後見人等もいない場合,親族が誰も死亡届を出してくれなければ,当該高齢者の死亡届が出されない状況が続いてしまいます。その結果,火葬の許可(墓地,埋葬等に関する法律5条)が滞り,戸籍・住民票が残っているなどの問題が生じます(※:最終的には自治体・法務局が調整し死亡記載を行うが,これには大変手間がかかります。戸籍法44条3項,24条2項)。
この問題に対処するために,終末期を迎える前,「看取り」を選択する前に,火葬,供養,行政官庁等への諸届等に関する事務を第三者に委任する死後事務委任契約を締結することが考えられます。これを締結すれば,当該第三者が受託した死後事務を行うことができますし,また,副次的に委託者・本人の生前から,いわゆる職務上請求によって委託者・本人の親族調査を行い,判明した親族に対して終末期の過ごし方などについて話し合うことを促すこともできると思われます。あわせて,任意後見契約を締結しておけば,任意後見人として死亡届を提出することができます。
親族とも疎遠でひとり暮らしの高齢者が「看取り」を選択する場合には,死後事務委任契約及び任意後見契約が必須であると思われます。
今後,「看取り」を選択する高齢者の数が増加すれば,それだけ死後事務受託者・任意後見人の数も必要になる。その数を1つでも賄うと同時に,死後事務委任契約・任意後見契約を普及させるために,活動すべきではないかと思います。
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