弁護士は日々ご相談者・ご依頼者の法律問題に取り組んでいますが、ひとくちに「法律問題」といってもその内実は様々です。

 

弁護士にとって、理屈でどうこう言う場面は意外と少なくて、理屈を前提・背景にしながらも、結局はご相談者・ご依頼者が何を望んでおられるのかを探ることなくして業務が成り立たないように思います。

 

例えば、交通事故の過失割合で揉めているというケース。

 

AさんとBさんの交通事故により、Aさんは修理費用20万円、Bさんは修理費用50万円の損害を被りました。

 

Aさんは、必要なら保険(対物賠償保険・車両保険)を使うつもりでいますが、「今回の事故はBさんが悪い!」「自分の過失はBさんより小さい!」と主張して、過失割合にこだわりを持っています。

 

他方、Bさんは、事故の責任の大小や自車を修理できるかどうかにはこだわりがなく、等級を守るために保険を使いたくないと思っています。

 

このような場合、AさんからBさんに対する賠償額とBさんからAさんに対する賠償額を対当額に設定して相殺してしまい、実際のお金の動きを作らないという方法もあり得ます。

 

Aさんの過失割合を28.5714%、Bさんの過失割合を71.4286%に設定すると、AさんからBさんに対して14万2857円を支払う、BさんからAさんに14万2857円を支払う内容になります。

 

これを示談書上で敢えて過失割合を明記せずに「Aは、Bに対し、金14万2857円を支払う」「Bは、Aに対し、金14万2857円を支払う」「A及びBは、各損害賠償債務を対当額で相殺することに合意する」としてしまいます。

 

すると、Bさんにとっては、損害賠償債務が相殺で消えてしまっていますので、保険を使ってAさんに現実にお金を支払う必要はありませんし、他方、Aさんにとっては、責任額から逆算すれば自分の過失がBさんの過失より小さいことがわかりますので過失割合についての不満は残りません。

 

Aさんは、Aさんが加入する保険(対物賠償保険)を使用することにより、保険会社から対当額相殺分の支払いを得ることができます(Aさんの保険会社は本来Bさんに支払うはずのお金をAさんに支払うことになります)。

 

もちろん上記の例はかなりのレアケースですが、AさんとBさんの真意や思惑を踏まえると、このような解決が図れることもあり得ます。

 

ひとくちに過失割合の折り合いがつかないと言ってみても、それは事故状況に争いがあるからなのか、保険料が上がるのが嫌あるいは自腹になる部分を減らしたいという本音があるからなのか、はたまた相手から謝罪がないから許せないという感情によるものなのか、当事者の真意や思惑は様々です。

 

もちろんだからこその争点整理であり理屈なのでしょうが、単に過失割合で揉めているという「きれいな」争点整理と「まっとうな」理屈では浮かび上がらない解決方法を探るべき場面もあると思うのです。

 

かくして、当事者に寄り添う代理人弁護士は、今日もまた、裁判実務・法理論と当事者の真意・思惑との狭間で必死に格闘するのです。

交通事故相談

テクニカルな展開がよく見られるのは
交通事故案件の特色かもしれませんね。

ぜひ、いろいろなお話を教えていただきたいです!

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面白い記事ですね。金額では納得できても、過失割合で納得できないというのは、保険制度の問題でしょうか、それとも(日本人の)国民性の問題なのでしょうか?

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