50年後を見据えた大計画
私には,弁護士になって以来,続けている50年計画があります。
それは「法教育」です。
「法教育」とは,大学の法学部などで行う法律実務家になるためなどの教育としての「法学教育」と違い,一般の方に社会人として必要な法律の知識や法的な考え方を学んでもらうというものです。
「法教育」は,アメリカで生まれたもので,アメリカの”Law Related Education”(法関連教育)を訳したものです。
アメリカは,多民族国家で,純粋な「アメリカ人」がいないことから,人々を「契約」で縛り,「法律」で国民をまとめて国家を形成する必要があることから,公民権教育としての法教育が早くから進められてきました。現在では,初等教育(小学校)段階から法教育が当たり前のように行われており,法律的なものの考え方は社会の最低限の常識としての認識が根付いていると思われます。実際に,大統領を含めた政治家はほとんど弁護士資格をもっています。
それに対し,日本では,今まで学校教育などで一般の人が法律や法律の考え方について学ぶことはほとんどありませんでした。やるとしても,小学校で三権分立を教えられ,中学校の時に憲法の条文を暗記させられたぐらいではないでしょうか。
しかし,法的な考え方は,法律に関わる問題ではなくても,民主主義社会における国民として最低限必要な知識です。つまり,法的な考え方の基礎は,ものごとを多面的に検討する,公平や平等などの価値観を一定の視点をもって検討することができる,自由や正義とはどういうことか,民主主義や法がなぜ存在するのかといったことを学ぶことにあります。
これは,ビジネスにおいても必要な視点ですし,選挙権を持つ国民としても必要です。当然,最近はじまった裁判員制度における裁判員としても必要です。
私は,この「法教育」に弁護士になってからずっと関わり続け,小学校から高等学校まで数多くの学校に赴いて授業をしてきました。その他にも,模擬裁判やジュニアロースクールといった企画,学校の先生向けの講師,弁護士や学校の先生向けの書籍の執筆などを行ってきました。
今では大阪弁護士会の法教育委員会の副委員長までさせてもらっています。
法律や法的なものの考え方は,弁護士だけのものではありません。
ただ,始めても急に国民に法的な考え方が身につくわけではありません。弁護士がポッと学校に行ったところで,一朝一夕に法的なものの考え方を教えられるとも思っていません。
とりあえず,まずは弁護士が学校に行くことで,少しでも裁判や法律に興味を持ってもらえるところからはじめられればいいと思っています。
そして,地道に,学校教育において法教育を行うことの必要性を説き続け,できるだけ初等教育段階から一貫して法教育を行える体制を作り,国民全てが最低限の法的なものの考え方を身につけるようになるには,最低でも50年はかかると思っています。
そうすれば,結果的に我々法律家に対する信頼感や理解も高まりますし,我々の仕事の幅ももっと増えるのではないかと思います。
その日に向けて,少しずつ,進み続けていきたいと思います。
なお,大阪弁護士会では,今年度より,大阪府下の全高等学校を対象に,無料で弁護士を派遣する事業を行っています。
また,高等学校以外でも,原則有料ですが,弁護士の派遣を行っています。
詳しくはこちらをご覧下さい。
また,法教育の出張授業に行く弁護士向けに,「出張授業マニュアル」を作成しており,今般その改訂版が完成しました。
詳しくはこちらをご覧下さい。
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