2010年6月11日 (金)

表現の自由って?

 

向井です。

3度目の投稿です。

 

前回,映画ザ・コーヴについて,書かせていただきました。

この映画について,先ごろ,配給会社が,一部の劇場での上映を中止したと発表しました。

中止決定以外の劇場での上映が予定されているようですから,全面的な上映中止決定ではありませんが,ともかく数箇所について上映中止が決まったということのようです。

 

私は,上映中止を報じる記事の見出しを見た瞬間,正直申しまして,かなり嬉しい気持になりました。

しかし,直ぐに,「オヤ,これはおかしい」と思いました。

 

問題は,上映中止の理由です。

報道によれば,配給会社の代表の自宅前で抗議活動がなされており,劇場に対しても強い圧力がかかり,上映に踏み切った場合に生じる不測の事態を配給会社側が懸念したというのがその理由だとか。

 

私がこのイルカ映画に反感を持ったのは,一言でいえば,その映画が「文化や価値観の違いを認めようとしないものだ」と思ったからです。

 

自分たちがまったく理解できない食文化がある。動物愛護や海洋資源保護などといった自分たちの価値観だけで物事を判断しようとして,イルカ漁と共に暮らしてきた人々の文化や生活を理解しようとしない。そのような,異文化に対する寛容性が全くない映画なのだとすれば,それはおかしいのではないかということです。

 

しかし,力ずくでも映画の上映を阻止するべきだと私は言いませんでした。

だって,価値観が異なる映画の表現を認めることが,まさに,「価値観の違いを認める」ということなのですから。

こっちの価値観を相手方に押し付けて,相手から表現する自由を奪うというのでは,もはやこの映画の内容を論難する資格がありません。そうした行き過ぎた行動は,断じてやめなければならないと思うのです。

 

もちろん,映画の内容を非難するのも表現の自由です。重要な人権です。「上映中止」をアピールすることが禁止されるべき理由などありません。

だけれども,許容されるのは,相手が自主的に上映を止めるよう「説き伏せる」というところまで。相手が危害を恐れて表現できない状況にまで追い込むのは,表現の自由として度が過ぎているのではないでしょうか。

 

太地町はくじら博物館など「観光」も,数少ない産業の一つです。その映画を上映することによって,太地町の観光産業が回復不可能なほどに決定的な打撃を受けるようなことも考えられます。それに,地元の漁師さんたちが,この映画がきっかけで日本中から奇異な眼で見られるようになったりしたら,そのダメージは計り知れないと思います。日本のテレビ局が同じようにイルカ漁を隠し撮りして報道するかもしれませんね。そうなったら,地元漁協は,この映画のためにイルカ漁を断念しなければならないという状況に追い込まれてしまいます。

ですから,私も,是非,上映中止を検討して欲しいと思います。

 

しかし,配給会社側がどうしても公開中止の要請には応じられないというのなら,上映もやむを得ません。そして映画を観た人の中から,「素晴しい映画だった」という人も出れば,「なんて偏狭的で押し付けがましい映画なのだろう」という批判的な意見の人も出てくる。上映されて以来,太地町が悲惨な目に遭っているという報道がなされるかもしれません。

映画に関するいろんな意見・報道が交わされることによって,映画の価値が,日本社会の中で正当に評価されるべきだと思うのです。

 

日本人の大多数がこの映画に賛同するのであれば,それが今の日本人の価値観なのだということになるのだと思います(その場合でも私はあくまで少数派を貫きたいと思っていますが(笑))。

 

表現の自由とは,誰もが受け入れられるような表現を認めることに意味があるわけではないと思います。そんなの当たり前のことです。

眉をひそめたり首をかしげたくなるような表現。明らかに価値観が合わない表現。どこに価値があるのか分からないような表現。

そうした違和感ありまくりの表現を,可能な限り認めていくという点にこそ,重要な意味があると思うのです。

 

もちろん,公表された表現は,他の言論や映像等によって徹底的に弾劾されたり非難されたりすることがあります。いったん公表された表現が,批判的な言論活動(あくまで『言論』ですよ)によって,価値の極めて低いものだと評価されることもあるのです。

しかし,表現が公表されないと,そうした正当な評価を下すこともできません。

 

今回のザ・コーヴは,「隠し撮り」という手段を使って,一般人(漁師)を撮影している点では非常におかしいと思います(だから,人物の特定につながるような映像は流すべきではないと思います)。

ただ,「映画」という媒体をもちいて世論に問題提起しようとしているのであって,その表現方法や目的は正当なものだと思います。

ですから「上映を止めよ。さもなくば妨害してやる」というところまで行くと,表現の自由の侵害だといわれても仕方がないと思うのです。

 

一部上映中止は嬉しい(本音です)。

でも今回の上映中止の理由はおかしいのではないか(こっちも本音です)。

複雑な私の心境です。

 

「表現の自由」の意味を考えてみる良い機会なのではないでしょうか。

映画「ザ・コーヴ」上映中止に関する会長談話

この問題に関し,昨日付けで
宇都宮会長の声明が出ているようです。

http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/100616_3.html

”「表現の自由」の意味を考えてみる良い機会”
という先生のご指摘,まったく同感です。

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