2013年3月27日 (水)

選挙無効の判決

3月25日の市場先生の記事で,

「憲法は実務ではあまり使わない」という言及がありましたが,

やはり裁判所の憲法違反の判断が出ると

弁護士間でも何かと話題になります。

判決文を直接確認できていない段階なので,

暫定的ですが,話題のトピックに触れます。

 

 

議員定数不均衡の問題は,本当に論点が多くて,

・定数不均衡を争う枠組み

・原告適格,訴えの利益

・選挙権平等の憲法上の根拠(14Ⅰ? 15Ⅰ・Ⅲ? 44但?)

・審査基準

・比較対象とする比率(最大格差? 平均値からの乖離?)

・憲法違反となる格差(非人口的要素の加味の可否及び程度)

・立証責任

・合理的期間

・事情判決の可否

 

など検討されるべき要素は沢山あるのですが,

裁判例,判例が積み上げられてきていて,

実務上の運用でクリアしている部分も多くあります。

 

事情判決の法理(行政事件訴訟法31条1項)についても,

しかりでした。

 

これまで司法権は,

選挙を無効と判断すると多くの困難な問題が生じることから,

違憲判断が直ちに選挙の効力に結びつかないように配慮していました。

そして,従来,公職選挙法204条・205条の

選挙無効の訴訟として争われている定数不均衡訴訟については,

本来,同法219条で行政事件訴訟法31条1項の準用は

排除されているのですけれども,

「一般的な法の基本原則に基づくものとして

理解すべき要素も含まれている」解釈し,

新しい判決方法を創造して,無効とはしない判断を続けてきました。

 

しかし,芦部先生はこの事態にこう述べておられました。

「ただ,事情判決法理によれば,

万一国会が定数を是正しない(または是正できない)事態が続く場合には,

判決の前提にある違憲判断が無視されることになり,司法の権威の失墜を招く」

(芦部信義(『憲法学 Ⅲ 人権各論(1)』第1版83頁

 発行日:1998年3月25日 出版社:有斐閣)

 

 

このたび,司法権も,同じ危機感をもったからでしょうか。

これまでの「実務上の運用」として踏み入れなかった

「選挙無効」の判断が,25日,26日と続きました。

27日も判決が続くので,どのような判断が下されるのか目が離せません。

(この記事は,26日に書いています)

 

 

 

まーしかし,選挙無効となったら

「大きな政治的混乱を招く」でしょうねー。

 

無効と判断されているのは,原告の属する選挙区ですが,

定数配分が違憲(公選法別表は不可分一体)なので,

公選法別表全体の改正が必要になると解されます(私見)。

 

 

直ちに無効になったら,今いる国会議員は,

国会議員たる地位の正当性を失い,国会が機能しなくなります。

とすると,永遠に定数配分の改正ができない,

なんてことも理論的にはありえます。

大変な事ですねー。

 

 

そういう意味で,3月25日の広島高裁判決が,

平成25年11月26日を経過した時点で

無効の効力を発する,という将来効的(選挙)無効判決としたのは,

立法府及び国民生活に対する配慮だと評価できます。

 

 

 

ただ,もっといいますと,定数配分なく「Xディ」を過ぎた時には,

一体どうなるのでしょうか。

・昨年12月の衆院選以降,

11月26日までに成立していた法律はどうなるの?

・既に法律が施行され,

それに基づいて徴収され,支給を受けたお金はどうなるの?

 ・選挙やり直してまた第一党が変わる可能性があるの?

 

混乱を招きます。どうなるのでしょうか。

超法規的緊急事態宣言でしょうか。

 

 

  

また,「Xディ」を過ぎた後,誰が定数配分を再編するのでしょうか。

 

この点については,アメリカの判例法理に一つのヒントがあります。

アメリカでは,1960年代には,

選挙区の線引き変更は純粋に政治的問題であり

司法が介入すべきではないとする

従前の支配的な認識は覆っているようです。

 

さらには,公正な選任方法により選出された構成員による

第三者機関に区画再編を担わせたうえ,

客観的,機械的で,透明性の高い方法で

区割りをする州もあるようです。

 

今では,下院議員選挙区は,可能な限り均等な人数の住民から

なっていなければならないということが確立されており,

全米各州の下院議員選挙区は

人口偏差値が1%以内に区割りされているそうです。

 

この例をみる限り,日本においても投票価値は

限りなく1対1に近づけることが可能・・・というのは希望的観測でしょうか。

  

 

***

というわけで,面白がって下級審の判決をみています。

以前は,投票価値は1対3でも合憲の風潮でしたが,

裁判所の判断に変化が生じている理由は何なのでしょうか。

ここはいろんな方の見解を聞いてみたいところです。

 

 

また,ゲリマンダーという言葉がアメリカ発祥であるように,

政治家による選挙区割には,利益の対立が複雑で,

遅々として進まないことは普遍的現象なんだなぁ,というのも雑感です。

  

もっとも,ニュースを見ていると,国会に,

「ただ事ではない。」というインパクトを与えていることは伝わってきます。

 

「0増5減 実現急ぐ」とありましたが,

そういう小手先の対応では,司法権の提示した要求レベルには

達しないのではないかなーっと思っています。

平成23年大法廷判決では,

「できるだけ速やかに本件区割基準中の1人別枠方式を廃止し,

区画審設置法3条1項の趣旨に沿って本件区割規定を改正するなど,

投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要が

あるところである。」と付言されているからです。

 

思えば昨年末は,政局の混乱期でしたが,

現政権の与党にも,野党にも,

「『近いうち,近いうち』とのらりくらりとかわさずに,

あの時やっとけば良かった―。」っと,

大いに反省してもらいたい,と思っています。

 

※本文に引用のもの以外にも,下記を参考にさせていただきました。

・『日本国憲法 第3版』松井茂記著

 出版社:有斐閣 発行日:2007年12月27日 

・『アメリカ憲法と民主制度』阿部竹松著 

出版社:ぎょうせい 発行日:2004年5月14日 

(ありがとうございます。)

 

選挙無効

ブログ、読み込んじゃいました(笑)
さすがに選挙無効だよ、と心の中では思っていましたが、いざ違憲・選挙無効の判決と知って、びっくりしました。

上告審のゆくえ

小島先生,読み込んでいただきましてありがとうございます(笑)。最高裁がまとめて結論を出すでしょうが,いざどういう判断にいたるのか,楽しみですね!

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