2013年6月17日 (月)

「職親プロジェクト」

刑の一部執行猶予制度の記事に関連して,

民間主導で起こっている

刑務所出所者・少年院出院者を雇用促進を目指す

「職親プロジェクト」の取り組みをご紹介します。

※「職親プロジェクト」の新聞記事はこちら

 

結成当時の7社から,現在は10社に増えています。

関東でも職親プロジェクトの動きが起こっています。

「職親プロジェクト」と連携体制をとっている法務省でも,

今年5月10日,中央官庁で初めて,

保護観察中の少年一人を非常勤職員として採用したと発表しました。

新聞報道によると,地方自治体では、大阪府吹田市(延べ7人)、

大阪市(1人)で既に採用実績があるとのことです。

 

 

 

「職親プロジェクト」に参加するお好み焼き・千房の

中井政嗣(なかいまさつぐ)社長から,

お話を聞く機会がありました。

 

***

 

自分の職場で,元犯罪者を受け入れ,一緒に働く。

みなさんの立場からどう感じますか。

 

特に大企業なら,じっとしていても,

4大卒の新卒予定者からの応募が多数あります。

 

千房さんは,そういう状況で,

敢えて刑務所・少年院に採用募集をかけています。

そして,実際に雇用して,出所者・出院者が

一般採用の社員とまじって,お客さんに接客し働いています。

これまで9名の採用実績があります。

 

 

社内では,賛否両論あったようです。

一方では,「犯罪者が働いている店なんて,

お客さんが怖がって来てくれないと困る。」という声があります。

他方では,「そういう取り組みをみて,

がんばってるやないのーっと言って,

応援してくれるお客さんもいるかもしれない。」という声があります。

 

そうした中,決め手となったのは,

「この取り組みは,善いことか,悪いことか。」という問いです。

 

「善いことならやりましょう。」

千房さんは,損得ではなく,善悪で判断して,取り組みを始めました。

 

 

「職親プログラム」で最も大事にしているモットーは,

「すべてオープンにする」ということ。

 

「職親プログラム」に参加している企業名はすべてオープンです。

 

入社を希望する出所者・出院者側についても,

名前も顔もオープンにすることが条件です。

社内の誰もが,その人が過去に犯罪を犯したことを知っています。

加えて,マスコミの密着取材があった時にもすべてオープンです。

 

 

 

中井社長は,オープンにすることの意義について,

2つ語ってくれました。

 

まず一つ目の意義が,出所者・出院者側からすると,

「オープンにしたら過去に戻られへん。」ということ。

 

テレビカメラの回っている前で働く様子を取材されます。

顔出し,実名報道です。

 

受け入れ時,現場サイドに若干の戸惑いがありましたが,

カメラの手前,そんなかっこ悪いところは見せられません。

そこで,受け入れ側社員は,「がんばれよ。」と,声をかけました。

出所者・出院者も,カメラの手前,かっこつけて,

「がんばります。」と大きくガッツポーズで宣言しました。

 

みんなに見られている。それが自己を律する力になる。

そのがんばりをみて,周囲の者の理解が進む。応援するようになる。

そして,周囲の者においても,犯罪に走ることについて関心が高まる。

一般の社員から,「この子,家庭の中が荒れていて生活が乱れていますが,

仕事させたら安定すると思うので,働かせたいです。

社長面談してください。」という声があってくるようになる

 

こうして,「仮面が皮膚になる。」

(この,「仮面が皮膚になる」という表現が,

 すごくいいなーっと思いました。)

 

過去は変えることはできない。

現在の自分と未来を変えていくしかない。

ただ,未来が変われば過去が変わる。

反省は一人ではできても,更生は一人ではできない。

 

 

 

 

 

もう一つの意義が,オープンにしたことで,

社会の受け皿を作るきっかけを作ったこと。

 

「職親プログラム」の関東地区での動き,

法務省での動きも,全てオープンだからこそ広まったもの。

対比的なのが,家庭裁判所が提携する

協力雇用主は秘匿されているという状況です。

そのため,協力雇用主としての活動の意義が広まりにくいし,

新たな協力雇用主の開拓も,

家庭裁判所単位の独自の力に依存する状況でした。

家庭裁判所ないし保護観察所は,協力雇用主の善意に頼り,

ボランティアを強いるような状況にありました。

 

 

他方,「職親プログラム」は,

ボランティアでやっているものではありません。

更生施設ではなく,企業体です。

やる気のある元受刑者・元出院者に対して,

社会の一員として,働いてもらうというものです。

 

 

だからこそ,職親プログラムを利用する時には,

出所者・出院者の「やる気」が問われます。

 

 

中井社長は,採用を決めた者に対し,

「後に続く者のためにがんばれ。」と声をかけています。

制度として育てて,社会の中で,

元犯罪者を雇用することが当たり前の感覚になっていく。

 

中井社長は,更生の力になりたいという

気持ちを持っている企業家は多いと言います。

だから,「職親プログラム」で実績をつくって,

この動きをどんどん広げたい。

そして,「職親プログラム」の参加企業が力をつけて,

将来的には,刑務所・少年院側に,

こういう人材を育ててくれ,とフィードバックしていきたいと

語っていました。

 

 

「職親プログラム」の活動推進のため,

これをテーマにした歌もできています。

保護司の鳥羽一郎さんが歌う「一厘のブルース」を

聴かせてもらいました(8月7日リリース)。

「面を出せ」「引いて残った一厘で 人の情けに応えろよ。」

という詩がとても印象的でした。

各地の刑務所等で流れることとなるようです。

 

 

 

もっとも,「職親プログラム」は,

企業体としても簡単な気持ちでは

始めることが出来ない取り組みです。

万が一再犯をしたら,「○○社の社員」として名前が出ます。

外野から,「ほれみたことか。」と言う人はごまんといます。

そして,一人の失敗例が,偏見により,

他にがんばっている出所者・出院者の信用を失墜させるという影響を及ぼす。

うまくいくことばかりではない。

失敗して人間不信任になりそうにもなる。

でも,それを社員全員で乗り越えていく。

 

中井社長は,「最後には,社長の私が責任をとる。」

という覚悟で取り組んでおられました。

出所者・出院者を採用することが,

強い企業体の礎になっていることを肌で感じました。

 

 

***

 

更生保護の分野が

大きく動いていることを感じています。

刑の一部執行猶予制度でも,きっと「職親プログラム」は活用されると思います。

そして,中井社長から「職親プログラム」の話を聞かせてもらった今回の機会も

「セカンド・チャンス!」の場があったからです。

NPO法人 セカンド・チャンス!は,

まっとうにいきたい少年院出院者の全国ネットワークです。

セカンド・チャンス!の公式ブログはこちらです

 

担当日に2つ投稿してはけないというルールはないので,

パッションに迫られて,もう一つ,記事を書かせてもらいました。

読んでくださってありがとうございました!

 

パッション!

千房さんの活動についてのドキュメンタリーを見たことがあります。
更生の過程での信頼してもらう難しさも、信頼する覚悟の重要性も感じました。
「セカンドチャンス!」の活動もがんばってください!

信頼のむずかしさ。

信頼してもらい,信頼するむずかしさがあるこそ,人の更生に関わりたいと思うし,それがやりがいにつながっていると感じています。

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