ある最高裁決定について
今月14日,日本の最高裁のウェブサイトが改ざんされ,アクセスすると島に大きな中国国旗が掲揚された画像とともに,「釣魚島は中国である」等のテキストが表示されるという事件がありました。その後,何日も最高裁のウェブサイトはアクセスできない状態が続き,このエントリを書いている時点でも,最高裁ウェブサイト上の判例検索データベースは利用できないままです。
最高裁は,重要な判決や決定が出ると,その全文をウェブサイト上のデータベースに掲載するので,誰でも判決文にアクセスし,その内容を分析したり,批判したりすることができます。私は,このことはとても重要なことだと思っています。
しかし,今年の7月9日に最高裁が出したある決定については,なぜか掲載されないまま,上に述べたウェブサイト改ざん事件によりデータベースが使えなくなってしまったので,今もインターネット上ではその全文を読むことができません。
この決定は,児童ポルノ画像が掲載されたウェブページのURLを,一部を改変して別のウェブサイトで紹介した行為が,児童ポルノ公然陳列罪の正犯にあたるとして起訴された事件に関し,上告を棄却するもので,結果として,被告人を懲役8月(執行猶予3年)及び罰金30万円とした1審,2審判決が確定しました。
この決定が社会にどのようなインパクトを与えるかについては,様々な憶測が飛び交っています。たとえば,URLを紹介する行為が一般的に,そのURLで特定されるサーバ上のデータを送信する行為と同視される結果,著作権侵害コンテンツのURLを紹介する行為は,著作権法違反の正犯になるのではないか,という人もいます。
もしそうなるのであれば,facebook上で動画や楽曲を「シェア」する行為も,リンクの先にある動画や楽曲が,著作権侵害コンテンツでない(つまり,権利者の許諾を得ている)と信じられる理由がない限り,犯罪となるリスクがあるということになるでしょう。
また,プライバシー侵害や名誉棄損にあたるコンテンツのURLを紹介する行為も,それ自体がプライバシー侵害や名誉棄損と同視されかねないことになるでしょう。
最近,あるアイドルの所属事務所が,過去の風俗店勤務経験が明らかになったことを理由にそのアイドルの活動を停止する旨をブログで告知した,というニュースに接しましたが,そのような告知行為がアイドルのプライバシー侵害や名誉棄損に該当する可能性があることはともかく,そのブログのURLを紹介する行為までプライバシー侵害や名誉棄損と言われかねないということになれば,インターネット上の言論活動はどんどん委縮していくでしょう。
上で述べた最高裁決定が,本当にそのように読むべき内容なのかどうかは,全文を読み込んで,どのような事実が認定されたのか,法の解釈に言及した部分で具体的にどのような表現が用いられているのか等を吟味しなければ何とも言えませんが,今はそれすら叶わないのですから,困ったことです。
なお,最高裁決定がインターネット上で読めようが読めまいが,法は法として既に存在するわけであり,今まさにあなたが行っている行為も,後に裁判で問題になれば,この最高裁決定を踏まえて判断されることになるのです。
気になる法律
急速に身近になっているのが著作権法ですよね。
最高裁判例の内容を踏まえた投稿を、また是非お願いします!
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