2014年5月28日 (水)

司法試験予備試験

過日,司法試験の予備試験の択一試験が終わりました。これに合格した人が7月に論文試験を受け,さらにその合格者は10月に口述試験も受けます。そうして決まる最終合格者は,法科大学院を修了しなくても,司法試験の本試験を受験できます。

 

私は,去年までの3年間,司法試験予備試験の民法の考査委員をしていました。その話をします。守秘義務がありますから,面白い話はしませんし,受験の役に立つ話でもありません。

 

私たちの仕事は,論文試験の問題作りから始まりました。各考査委員が持ち寄った案の中からベースを選び,それを練り上げて完成させます。私は,次に述べる採点よりも,いくつかの理由から,問題作成のほうを辛く感じました。

辛さの理由の1つ目は,問題作りそのものの難しさです。慣れている学者の先生方と違い,私は問題作りにいつも苦心しました。特に司法試験の問題の場合,学内の試験などとは違う特有の大変さや制約もあります。

2つ目は,問題がどこかから漏れないか,特に自分が漏らしてしまわないかという緊張感です。問題に関するちょっと議論をしたいと思っても,そういうわけには行きません。極端な話,弁護士会館内の図書館で例えば「相続」の本を私が読んでいることで,出題範囲を推察する人がいるかもしれないと思ったりもしました。

3点目は,出題に,誤りや,出題者側が全く想定していない別の「筋」がないかという心配です。ある考査委員の先生が,「試験直後は一晩中『2ちゃんねる』の試験の板を見ていたよ」と言っておられましたが,気持ちは大変よくわかります。

 

試験が終わると大量の答案が送られて来ます。どこに送ってもらうかは自分で指定できることになっています。昔の大先生には,軽井沢の別荘に送らせて採点をした人も結構おられたそうです。

私は,軽井沢ではなく,事務所に送ってもらいました。軽井沢に別荘を持っていないからです。ただ,普段の仕事と隔絶した場所で採点に専念したいという気持ちはよくわかります。採点期間は約2ヶ月ですが,実際には1ヶ月ほどで仕上げようとしていました。

何か急な事態が起きることも想定しますと1週間程度は余裕を残して終わるべきとも思ったからです。それに,あまり長くは頭が続きません。

 

「字がきれいなほうが良いですか」と聞かれることがあります。私は,字がきれいな答案のほうが,吐きそうになる悪筆の答案より好きです。その好悪の念が採点の際の私の深層心理に影響しなかったとは断言できません。

しかし,やはりポイントは中身でしょう。字よりも論理の美しさに惹かれます。留学した友人から聞いた,アメリカのロースクールで「模範答案」として飾られていた答案の字がメチャメチャ汚かったという話は,我が国でも同じと思います。

もっとも,汚すぎると読めません。読みにくくても一生懸命読みますが,読めないと本当に困ります。「る」と「ない」はひどく崩されると見分けにくく,逆の結論に見えることがあります。欄外に小さい字で書かれるとなおさらです。中高年の考査委員が,縮小されたコピーを見るという想定で書いてほしいと思います。

 

答案には一定量の情報を盛り込む必要がありますから,ある程度の頁数になるのが普通です。でも,ときどき,短い答案でもとても良く書けているものがあり,感心します。

少し本質っぽい話をしますが,法的思考とは,数多ある事実の中から法律的に意味のある事実を拾う作業,逆から言えば事実を捨てる作業です。なんでも羅列したものよりも,簡潔にポイントを突いたもの,メリハリのついたもののほうが優れていると言えるでしょう。でも,試験になると,「書き落とす」ということをおそれるため,どうしても網羅型になります。そのあたりが試験の限界です。

 

予備試験には,民事実務・刑事実務の口述試験もあります。昨年は2日間ぶっ続けでやりましたから,本当に疲れました。その昔,旧試験の口述試験を1週間もやって下さった先生方に改めて感謝しました。事前におやつを注文するかどうか聞かれるのですが,初年度注文しなかったところ,頭が疲れて本当にお菓子がほしくなりましたので,2年目以降は注文して,休憩時間にはそれを食べました。

ちなみに,ちょっとしたお菓子ですが,くれるのではなく,買うんです。

考査委員の報酬は,法務大臣と財務大臣が協議をして決めるとされています。でも,法務大臣の頑張りが今ひとつなのか,報酬は高いものではありません。金額を言うと,みなさん,「えーっ」と言われると思います。

 

予備試験制度には問題点の指摘が強くなっています。個々の出題のあり方についても弁護士会のシンポジウムで批判されましたが,批判に対して,「もっともだなあ。」と思うばかりでした。予備試験とは,そもそも何を試すものなのでしょう。どんな問題が良いのでしょう。迷いながら考査委員をやっていました。

試験で試すことができるもの,あるいは試験のための勉強で身につけることができるものは,法曹に必要な資質のうち,本当にごくごく一部にすぎないと思いました。それは,おそらく考査委員を経験したからこそわかる実感であり,私が夏を3年潰して得た最大の収穫です。

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