2015年2月16日 (月)

沈黙の弁護士

 少し前,あるバラエティ番組に出演したタレントが,同じ番組に出演している弁護士に番組前に家庭内のことを相談したら番組内ですぐにネタにされた,という苦情を言っていました。本当にそういうことがあったのであれば,この弁護士の行為は,弁護士が守るべき守秘義務に違反する可能性がある,問題行為です。

 

 私はこの番組のこの話は,その「守秘義務違反行為」自体が「ネタ」であろうと,いくつかの根拠から思っています。誤解を生むからこういうネタはやめてほしいなあとは思いますが,そういうことを言い出しますと,弁護士が出て来るドラマで家族に相談したり飲み屋の大将に相談したりってこともやめてほしいってことになりますので仕方ないところです(あんなこと,弁護士は絶対にしません。家族にだって話しません)。

 社会の耳目を集める刑事事件では,身体拘束されている被疑者や被告人の弁護人になった弁護士が,記者会見などでコメントを出すこともあります。面会で聞いた話を,被疑者・被告人の了解を得ずにリリースしますと,守秘義務違反です。

 

 一方,被疑者・被告人が了解した場合,あるいは積極的に「こう言ってくれ」と求めている場合もあります。メディア(テレビや新聞,週刊誌。さらにはネットなど)に叩かれていて,「反論してほしい!」ということもあります。この場合,守秘義務の問題は基本的には生じません。ただ,では被疑者らの希望に応じて記者公表などしてよいのか,という問題はあります。 

 

 特に「冤罪だ!」として争っている事件の場合,メディアに主張,例えばアリバイなどを公表してしまいますと,捜査機関側の手が伸びて,その主張が潰されることもあります。私が親しい著名な刑事弁護人の多くは,「沈黙は金」と言い,私もそれには賛成です。例えば極端に言えば裁判になってからその反論を出す,引きつけてからパシンと叩くというのが刑事弁護の王道です。しかし,特に裁判までなんて待てないということがあるのも事実です。「裁判で勝つことも大事だけれども社会的信用も大事」と考えますと,メディアであしざまに言われているのに対して反論しなくてもよいのかには,悩ましさがあります。

 

 守秘義務の話に戻ります・弁護士の守秘義務が解除される場合,つまり秘密であっても明らかにしてよい場合としては,①依頼者の承諾がある場合のほか,②弁護士の自己防衛の必要がある場合,③公共の利益のために必要がある場合があげられます。②は,例えば弁護士自身が依頼者から訴えられた場合には,裁判の中で守秘義務の対象にあたる事項を明らかにしてもよい,といったことです。

 

 では,例えば弁護士が「被疑者に嘘を言うように指導したのだろう」などとメディアから非難されている場合に,「いや,あれは被疑者自身が言い出したことだ」などと反論することが②にあたるでしょうか,難しいですが,自己防衛とは,裁判などでの反論が想定されており,メディアへの反論はこれに当たらない場合が多いという考え方が一般的です。

 

 意外に思われるかもしれませんが,多くの場合,弁護士にとって,「沈黙は金」なのです。

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