本日、憲法に緊急事態条項を創設することに反対する会長声明を発表しました。

 

【憲法に緊急事態条項を創設することに反対する会長声明】

 

 未曾有の被害をもたらした東日本大震災の後、政府・自民党においては、災害対策を理由として、憲法を改正し緊急事態条項を創設しようとする動きがあり、 憲法審査会でも議論が行われている。また、本年4月14日より発生している熊本地震の後、菅官房長官が緊急事態条項の創設について、極めて重く大切な課題 だと述べたと報道されている。
 この緊急事態条項は、大規模な自然災害、外部からの武力攻撃その他法律が定める緊急事態において、内閣総理大臣が閣議にかけ緊急事態の宣言を発すること により、内閣が法律と同一の効力を持つ政令を制定できること、内閣総理大臣が財政上必要な支出その他の処分を行うこと及び地方自治体の長に対して必要な指 示ができること等を内容としている(自民党改憲草案第98条・第99条参照)。これは、いわば行政に立法権を付与するもので、国民主権・議会制民主主義・ 権力分立という憲法秩序が停止されることにより、政府への権力の集中と強化をもたらし、その結果、権力の濫用により国民の自由や権利が不当に奪われる危険 性が高い一方、憲法に緊急事態条項が定められるため、裁判所の違憲審査権による統制が機能しないおそれがある。
 そもそも大規模災害時において最も重要なことは、刻々と変化する被災現場の状況に応じて臨機応変に対応することができる被災自治体の権限を強化すること であり、政府に権限集中を図ることではない。このことは、わが国のこれまでの数々の災害の経験から明らかになっている。東日本大震災の被災自治体に対する 日弁連アンケート(2015年9月実施・24市町村回答)でも、災害対策の第一義的な権限は市町村主導とすべきであること、緊急事態条項の存しない現憲法 が災害対策に障害となったことはないとの結果が示されているところである。
 災害対策の基本原則は、平時に事前準備を十分に行っておくことである。事前に準備していないことはできないのであり、緊急時になって政府に強力な権限を 集中させるのではなく、平時から法制度を整備しておくことこそが肝要である。この点、日本の災害法制では、大規模災害時の対処のために既に十分な整備がな されている。すなわち、内閣総理大臣は、災害緊急事態を布告し、生活必需物資等の授受の制限、価格統制等を決定できるほか、必要に応じて地方公共団体等に も指示ができるのである。また、都道府県知事及び市町村長に対する強制権の付与も規定されているし、都道府県知事等の要請を受けて防衛大臣が災害時に自衛 隊を派遣できることも規定されている。今後の大規模災害への備えとして行うべきは、こうした災害法制を前提に、発災時に適切・迅速に活用できるよう平時か ら防災・減災のための対策・準備を充実させることにほかならない。
 また、わが国では、武力攻撃やテロ行為が発生した場合等において、事態対処法その他の法律により内閣総理大臣を長とする対策本部を設置し内閣総理大 臣に権限を集中させる等の対処の方法が既に規定されており、憲法に緊急事態条項を創設する必要性はない。ただし、現行法の武力攻撃事態等における権限集中 等に関する規定は、憲法に定める統治構造を大きく変容させ、基本的人権保障の原理に反する事態を招来する危険性等がある。したがって、今なすべきことは、 この観点からの現行規定の見直しであり、憲法に緊急事態条項を創設することではない。
 ワイマール憲法下において独裁政権を許した例や大日本帝国憲法における緊急勅令等の例を挙げるまでもなく、緊急事態条項は、国家権力を担う者により濫用 されてきた歴史がある。日本国憲法がこのような歴史を踏まえ、敢えて緊急事態条項を設けなかった趣旨(憲法制定議会議事録参照)を今一度想起すべきであ る。
 以上のことから、当会は、憲法に緊急事態条項を創設することについて、災害対策としてはまったく必要がないばかりかむしろ有害であり、その他の事態への 対策としては、立憲主義の根幹を変容させ、その濫用による国民の自由や権利を不当に奪う危険性に歯止めが効かなくなることから、これに強く反対するもので ある。
 

                                       2016年(平成28年)6月21日
                                         大阪弁護士会      
                                           会長 山 口 健 一

 

http://www.osakaben.or.jp/speak/view.php?id=122

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