いわゆる神戸連続児童殺傷事件審判書全文の掲載についての会長声明
4月23日、いわゆる神戸連続児童殺傷事件審判書全文の掲載についての会長声明を発表しました。
【いわゆる神戸連続児童殺傷事件審判書全文の掲載についての会長声明】
本年4月10日に発売された株式会社文藝春秋発行の月刊「文藝春秋」5月号において、いわゆる「神戸連続児童殺傷事件」の少年審判における審判書の全文と称する内容が、一般社団法人共同通信社編集委員の執筆により、「家裁審判『決定(判決)』全文公表」という形で掲載された(以下「本件公表」という。)。
少年法第1条は、少年の健全な育成を少年法の目的として掲げ、その妨げとならないよう、第22条第2項において審判の非公開を定め、第61条において少年の特定につながる推知報道を禁止している。また、子どもの権利条約第40条第2項は、手続の全ての段階において少年のプライバシーを尊重しなければならないとしている。
「文藝春秋」に掲載された「家裁審判『決定(判決)』全文公表」には、当該非行を犯した少年(以下「少年」という。)の実名こそ伏せられているものの、少年の内心、生育歴、診断歴等のプライバシー情報が詳細に記載されており、事件に関するこれまでの報道及び情報と併せると、少年を当該事件の本人であると推知することができる記事であり、少年の名誉・プライバシーを著しく侵害するものである。従って、本件公表は、少年法第61条、子どもの権利条約第40条第2項に違反する。事件後約18年を経過し、少年が矯正教育を受け更生し、静謐に人生を過ごしているとされていることを考えれば、その侵害の程度は著しいものである。
加えて、審判の非公開を定めた少年法第22条第2項から当然に導かれる審判書の非公開原則に違反し、厳格な非公開の手続を信頼してなされた調査結果を活用する少年審判制度の根幹を揺るがすおそれがあると懸念される。
また、本件公表は、少年審判から約18年を経過したにもかかわらず、当時の忌まわしい経験や記憶を改めて想起させるものであって、事件の被害者やその遺族・家族が平穏な生活を送ることを害し、そのプライバシーを侵害するものである。
本件公表について「文藝春秋」編集部は、本件の全貌を知ることで汲み取れる教訓は多い旨コメントしたとされるが、本件公表は、総合月刊誌というメディアによってセンセーショナルな見出しを付して大々的に行われており、非公開であるはずの審判書全文を公開するものであって、興味本位の商業的な要素が大きいと言わざるを得ず、既に述べたとおり、少年の名誉及びプライバシー、さらには被害者やその遺族等のプライバシーを侵害するものであるから、公表することが正当化されることはあり得ない。
以上のとおりであるから、当会は、本件公表がなされた月刊「文藝春秋」5月号を発行する株式会社文藝春秋及び当該記事を執筆した一般社団法人共同通信社編集委員に対し、本件公表を行ったことについて厳重に抗議するとともに、今後同様の行為を行わないよう強く要請する。
2015年(平成27年)4月23日
大阪弁護士会
会長 松 葉 知 幸
批判の矛先
なぜ出版社だけを非難するんでしょうか。
新しいコメントの投稿