徘徊の妻、電車にはねられ死亡 賠償責任あるのか? (2014年6月21日掲載)

Q. 私は認知症の妻と2人暮らしでした。妻はたびたび徘徊するので目が離せなかったのですが、ある日、私がまどろんでいる間に家を出てしまいました。そのまま近くの線路に立ち入り、電車にはねられて亡くなったのです。後悔の日々に追い打ちをかけるとうに鉄道会社から「振り替え輸送など費用の賠償を求める」と通告されました。私に賠償責任があるのですか?

■社会全体で考える問題

A. お尋ねになっていることが、まさに今、裁判で争われています。その裁判の高裁判決は、同様のケースで賠償責任があると判断しました。しかし、判決に疑問の声も上がっており、裁判の行方が注目されています。認知症など精神上の障害で自己の行為の責任を理解できない人は「責任無能力者」と呼ばれ、民法713条の規定で賠償責任を負いません。こうした場合、その人の「法定の監督義務者」が賠償義務を負うと民法714条に定められています。

前記判決は、重い認知症を患う人の配偶者が精神保健福祉法上の保護者の地位にあり、夫婦には同居して互いに協力し助けあう義務があること(民法752条)から、あなたと同じ立場にあった配偶者を民法714条にいう法定の監督義務者にあたると認定しました。そして、鉄道会社が請求した半額の約360万円を支払うよう命じたのです。法定の監督義務者である配偶者に対し、徘徊を完全に防止すべき義務を負わせるかのような内容になっています。
しかし、徘徊を完全に防ぐのは不可能でしょう。介護する配偶者もまた高齢であり、その人自身が体や心に障害を抱えているケースもあります。そうした人たちに24時間監視・監督する義務を課すことはあまりにも酷です。それにもかかわらず、夫婦の同居義務や協力扶助義務を根拠に賠償責任を問うのであれば、家族の介護負担はさらに重くなってしまいます。家への閉じ込めや薬物を利用した身体拘束などの虐待を招きかねないばかりか、介護疲れによる心中を引き起こす恐れもあります。

認知症の高齢者は年々増えており、2015年には345万人になると推計される中、今回のようなケースは社会全体で考えていくべき問題です。前記裁判については最高裁に上告されており、その判断が待たれます。

<回答・伊田真広弁護士(大阪弁護士会所属)>


※記事内容は掲載当時のものであり、現在の制度や法律と異なる場合もございます。

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