弁護士会から

広報誌

オピニオンスライス

対談

山下 真奈良県知事

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三木秀夫会長

2023年5月3日に奈良県知事に就任された山下真知事と三木会長との対談を行いました。山下知事は修習52期の弁護士で当会にも所属経験があり、また生駒市長のご経験もあります。政治家のエピソードから、弁護士が政治家になる意義、弁護士・弁護士会に対する要望まで、硬軟取り混ぜてざっくばらんに対談していただきました。

山下知事と三木会長との出会い

三木山下さんは、私の事務所で第52期司法修習生として修習に来ていただきました。

非常に優秀な司法修習生で、事前に経歴を見ると、東京大学のフランス文学科を出て、朝日新聞社に入社して、それから京都大学法学部に学士入学、3年生入学ですね。

山下そうです。

三木そして司法試験に早々と合格したということで、初めて会うまではどんなすごい人が来るのかなと思って戦々恐々としていましたけれども、会うと非常にさわやかな青年で、非常に好感の持てる司法修習生だなというのが第一印象でした。

山下三木先生は非常に真面目そうな先生だなと思いました。そんなにべらべらとしゃべられる方ではなかったので、熱く正義を語るようなことはなかったと思いますけれども、当時からNPOの活動を支える基盤づくりの運動などをされていて、そういうことをやっていらっしゃる弁護士は当時そんなに多くなかったですから、非常にユニークな活動をしておられるなと感じました。

修習中の印象はどうでしたか。

三木山下さんは新聞記者も経験しているし、非常に正義感を持った修習生だなという感じは受けていました。将来まさか知事になるとは想像もしなかったけれども、振り返って考えてみたらそういう素養はあったかなという気はします。社会的な問題には非常に関心が強かったんじゃないかという感じは受けていました。当時、どんな事件を一緒にやったかは全然覚えてないんだけど。

山下医療過誤事件の証拠保全をやって、申立書と陳述書を起案した覚えがあります。

政治の世界へ ―生駒市長

三木修習修了後は大阪で弁護士をされてましたね。

山下最初はイソベンをして、独立してから3年間、自分で事務所を経営して、それで生駒市長選挙に出ました。それが2006年のことです。

三木6年ぐらいは弁護士をされたと。

山下そうです。

三木立候補するときに挨拶に来られたけど、初めて聞いたときはえらい大胆なことをするなと思いました。

山下最初のきっかけは、辻公雄先生や秋田仁志先生がされていた見張り番の弁護団というのがありまして、そこが大阪府や市を相手に行政訴訟―情報公開請求訴訟や談合に基づく損害賠償請求訴訟の代理人などをされていて、そこにたまたま生駒の市議会議員が来ていて、生駒でもそういう事件をやりたいから、生駒に住んでるなら代理人になってくれと言われて、それで代理人になったんです。そこで生駒市を相手とする裁判をしていく中で、当時の市長と議長がむちゃくちゃしてるなというのがよく分かってきて、それでその市民団体の人から推されて出た、まとめるとそういうことです。

三木当時の市長が選挙の相手方になったときに、自民、公明、新党日本というほとんどの既成政党が市長側についていて、山下さんは無所属で、普通なら到底勝つ見込みはないですよね。でも、立会演説会も一回だけ見に行ったことがあるけど、なかなか熱気があって、だけど本当に勝つのかと私は半信半疑だったけれども、蓋を開けてみたら、現市長の2倍の得票で当選したという、本当に驚きでした。ご本人はけろっとしていて、当然の結果のような顔をしてたけど。

山下そんなことないですよ。どうかなと思ってましたけどね。ただ、街宣車でまちなかに出ると反応がすごくよかったので、ひょっとしたらこれはいけるかもしれないなとは思っていましたが、まさかあんな大差で勝つとは本当に思ってなかったです。

三木だけど、初登庁のときに議長さんにいじめられたんですね。それがテレビカメラに映っていたと。

山下そうなんです。初登庁なのでマスコミが取材に来ていて、まず最初に市議会議長室に挨拶に行くんですが、それにもテレビカメラがずっとついてきて、そのときのやり取りが面白かったのでかなり大きく報道されました。

三木ドラマに出てくるような見るからにガラの悪い悪玉の議長が新人市長をいじめている、明らかにそんな図式の中で、山下さんは一生懸命ちゃんと対応しているのに、おまえは何者だみたいな感じで。「好き勝手なことしたらあかんで」みたいなことを言われたんですよね。

山下「あんたが何ぼいちびっとっても、議会がついていかへんかったら何もなれへんねんぞ。分かってるやろな」みたいな、まさにそういう言葉遣いでした。

三木それが夕方のニュースで流れて、議長さんはえらい釈明に追われてはったね。翌年、その議長と前市長が逮捕されるという劇的な流れがありましたね。やっぱり市長が替わったらその辺のうみも出てくるということですね。それも含めて、市長時代は、いろいろ生駒市をよくされましたよね。

山下生駒市の住みよさランキングが、私が就任したときは全国326位だったんですけれども、退任するときは34位になっていたり、生駒市はどんどん借金が減って、逆に人口は増えた、そんな感じです。

奈良県知事へ ―知事になろうとしたきっかけ

三木生駒市長は、結局何年されたんですか。

山下9年やりました。3期目の途中で奈良県知事に立候補しましたが、この時は駄目で、今回の2023年春の県知事選挙で当選したという経緯です。

三木市長をされていて、なぜ知事になろうと思われたのですか。

山下9年間で生駒市をかなりドラスティックに改革したと自負していまして、公約もほとんど全て達成しました。一番大きな公約が市立病院をつくるというものだったのですが、それが東生駒の駅前にできて、あとは開所式を待つだけという状態になり、市民との約束を果たしたということと、市長として当時の知事と接していて、この人に任せておいたら奈良県は大変なことになるという思いで、よっしゃやったろうと、本当にそれです。

奈良県知事になってみて

三木奈良県は、人口が比較的に集中している北部と、広大な南部とでは地域住民の意識も大分違いますね。

山下そうですね。前知事が無駄な公共事業をたくさんやろうとしていて、それが総事業費4,730億円なんです。一つ一つが荒唐無稽な計画ばかりで、それを何とか止めなきゃいけないという思いもあり、二度目の知事選挙に出ました。

三木今回、たくさんの公共事業を止めていますね。県議会ではかなりの逆風じゃないですか。議会もいろいろ議論をして事業推進をオーケーしてきているのを、知事が替わっただけでひっくり返していいんかと言われていると思います。

山下そうです。県議会は本当にその質問ばかりです。何でやめたんだ、やめたという判断には正当性があるのか、南の市町村はみんな文句を言っているじゃないかと。

三木それをはねのける精神がすごいです。今、県議会の山下派というのはどれぐらいいるんですか。

山下43名中14名です。

三木結構大変だと思いますが、何に一番苦労されていますか。

山下生駒市長のときは、市議会の与党は24人中1人しかいなかったんです。だんだん増えていきましたけれども、そのときの経験があるので今も何とかやっています。大変なのは、とにかく忙しいということですね。あらゆることの判断を求められるんです。教育、子育て支援、福祉、医療、都市計画、公共工事、防災、産業振興、農林業、水道、人事等、何から何までで、だから15分刻みぐらいの打合せが入っています。1つのことを判断するのにそんなに時間はかけられないから、どうやってポイントとなる点を資料や職員の話から聞き出して適切な判断をするか、そういうことには苦労しています。

三木配偶者に助言を求めたり、意見を聞いたりということはあるんですか。

山下実はありまして、妻が弁護士なもので特に法律が絡むような話は聞いたりします。

市長と知事の違い

三木市長と知事の違いは何になりますか。

山下市長は、市民に身近な存在です。国、都道府県、市町村とありますが、市民に一番近いところは市町村ですから、そういう意味で市民の反応がビビッドに伝わってくるので、それはそれですごくやりがいがあったなと思います。県になると市民からの距離は少し遠くなりますが、医療行政、高校、産業振興、そうした都道府県が所管する事務の分野ではいろいろなことができるので、市長より、よりダイナミックな仕事ができるなという思いはあります。

三木市長時代に、県知事にこんなことをやってほしいのに全然やってくれへんということがあって、それを今実現しているような感じですか。

山下前知事は運輸官僚だったということもあって、公共工事とか箱物を造ることにはすごく熱心だったんですが、教育や子育て支援にはあまり関心がなかったんですね。だけど、市町村は教育や子育て支援、福祉の仕事がすごく多くて、そういうところに県はあまりお金を使ってくれていなかったので、それが市長としては不満でした。高校卒業までの医療費を無償化するということに市町村は取り組んでいますが、私が知事になってその市町村の負担の半額を県が出すという制度を始めました。今、市長会から要望が上がっているのは、給食費の無償化とか0~2歳児の保育料の無償化で、どこも少子化対策でそういうことをしていますので、そういったところに県が光を当てていくというようなことができます。

あと、前知事は高校教育に全然お金を使っていなかったので、県立高校がぼろぼろなんです。いまだにトイレが和式で湿式なので、それを洋式にして乾式にします。あとは奈良県は道路がすごく悪いんです。人口当たりの道路延長を示す道路整備率というデータがありまして、それが全国47位です。かつ、幹線道路でもでこぼこがあったり、車道に草がぼうぼう張り出したりしています。こういうことに今まであまりお金を使ってこなかったので、地味ですがこういう状況を改善したいなと思っています。目立つ箱物ではなくて、県民の身近なところに予算を使っていくということですね。

三木奈良県知事として関西全体のこれからの在り方についてお考えのことはありますか。

山下東京一極集中が行き過ぎるのはよくないと思いますので、国土の軸が2つぐらいあったほうが災害時のバックアップという意味でもいいと思いますし、それが担えるのは関西圏だと思います。関西・大阪に大きな企業の本社とか、新興企業でもいいですが、企業をもっと集積して、関西・大阪の経済をもっと活性化させることで、若い人をどんどん呼び込みたいです。かつ、海外からも人を呼び込んで、大阪を中心とする関西圏が発展してほしいと思いますし、そのほうが健全ではないかと思います。アメリカも東海岸と西海岸がありますし、ドイツもボンとフランクフルトがありますから。

関西万博

三木大阪・関西万博には奈良県として関与することはあるんですか。

山下前知事がそもそも万博嫌いだったんです。だから、関西パビリオンというパビリオンがあるんですが、そこに奈良県のブースだけなくて、全然PRもしようとしなかったんです。結局、奈良県のブースは、私が知事になって関西広域連合に全面参加すると言っても、奈良県を除く府県でもう設計しているから、今さら奈良県のためにスペースはあけられませんと言われて駄目だったんですけれども、共通展示スペースみたいなところでは遅ればせながらいろいろやっています。

奈良県において観光業の比重はやっぱり高いので、せっかく海外からたくさんのお客さんが万博会場に来てくださいますから、そうした人たちに奈良まで足を伸ばしてほしいなという視点でPRを今からしていくつもりです。奈良は日帰り観光がメインなので、観光客数は多くても、皆さんそれこそ奈良公園でシカと戯れて、大仏さんを見て、興福寺の五重塔を見て帰る、泊まるのは 京都か大阪というパターンが多いです。

三木でも、奈良にも大きなホテルができつつありますよね。

山下そうですね。ちょこちょこできつつあります。

弁護士に対する評価

山下さんは市長、知事として外から弁護士を見られる機会が増えたと思いますが、弁護士について、いいところ、悪いところ、どんな感想をお持ちですか。

山下悪いところは特にないですが、行政で仕事をしているといろいろな事件が起きます。ついこの前も橿原市で児童虐待があって、母子家庭だったんですが、お母さんと付き合っていた男性が子どもを殺してしまったという事件がありました。奈良県が所管するこども家庭相談センターの対応に問題があった可能性があり、即座に調査チームを立ち上げることにしたのですが、奈良弁護士会の先生4人と学者の先生1人がすぐオーケーしてくれました。

行政の立場から言うと、弁護士の力を借りる必要がある場面はたくさんあるのですが、事件は突発的に起こるので、すぐにお願いしますというときに、弁護士会推薦という手続を取ると時間がかかるんです。推薦の手続を取るから1か月かかると言われると、ちょっとそれは待てないので、そういう場合は迅速に対応していただけると助かります。今回も一本釣りというか、奈良弁護士会の知り合いに頼んで集めてもらいました。私はもともと大阪弁護士会会員でもあり、妻が奈良弁護士会会員なので、誰に相談したら人を集めてくれるかというのが大体分かっているから今回もすぐ集められましたが、そういうつながりのない首長がほとんどですから、弁護士会推薦をお願いして時間がかかるのはちょっと困ります。

三木弁護士推薦で時間がかかり過ぎるというのはおっしゃるとおりですね。ちょっと仕組みを検討せなあかんな。ニーズに応えてないね。

最近、地方公共団体でもインハウスの職員として弁護士を入れられているところが結構あるみたいですが、その辺についてはどうお感じですか。

山下私も大阪弁護士会では行政問題委員会にずっといまして、行政連携センターにも籍を置いていました。インハウスの弁護士がどこの自治体でも活躍してくださっていて、弁護士が自治体に入っていくというのはすごくいいことだと思っています。調査して事実認定をする力を持っているのは、そういう経験を仕事でしている弁護士ぐらいしかいないと思います。公務員も一応地方自治関係の法律を解釈して適用するという立場で仕事をしていますが、国の役人が書いた例規集みたいな本で行政解釈をするぐらいしかできないんですね。立法趣旨に立ち返って、この問題を解決するにはどういう解釈がいいのかみたいな、いわゆるリーガルマインド的な法解釈能力はあまりないので、そういう意味ではインハウスの先生がそういった部分を担っていただけるのはすごくいいと思うし、これからもどんどん進めていくべきだと思います。

ただ、トラブルの調査をするのは第三者でなければいけないので、 インハウスは第三者ではないですから、やはり外部の弁護士に頼まな いといけないんですが、行政の仕事は安い、これがすごく問題だと思います。

もともと弁護士の活動にはプロボノというか、公益活動的な面があって、だからあまりお金を取らないというのが昔の発想だったんですが、最近はそうではなくて、スキルを提供している以上はそれに見合ったものをいただきましょうという話が大分入ってきていて、弁護士のフィーの取り方はいろいろ考え方があると思いますが、その辺りはどのようにお考えですか。

山下行政が弁護士にお願いしたい案件は多分これからどんどん増えていくと思いますが、プロボノ活動的、名誉職的な形でやってくれといっても、多分それを受ける人はあまりいないと思います。特に若い人は、もう手いっぱいや、そんな時給ではやってられへんというのがあるので、今はそういう昔のやり方では人は集められないと思います。

地方自治法上の附属機関の委員になると、条例で幾らと決めなきゃいけないんですが、その附属委員というのは今までは何を想定していたかというと、会議に出席して意見を言うというスタイルを想定していたのです。しかし、第三者委員会の仕事はそうじゃないんです。ヒアリングに行って聞き取りして、それを文章に起こして、法令などに当てはめて調査報告書を出すわけですから、附属機関の委員の仕事とは違うのです。そこで、今回、奈良県は、橿原市の虐待事件の調査チームとは委託契約を結びました。

それは奈良県以外でもできるんですか。

山下できます。日本法律家協会が出している「法の支配」という雑誌がありまして、以前、井上圭吾先生が中心になって第三者委員会の特集をしています。私が今言ったような話をそこに書いていますので、もし機会があればご参考にしてください。ぜひこれからも行政運営にお力をお貸しいただきたいと思います。

弁護士が政治家になること

三木弁護士が政治家になることの意義についてはどう思われますか。

山下それは是非そういう人が増えるべきだと思っています。幾つも理由がありますが、選挙に出ることを躊躇する一番の理由は、公務員や会社員は仕事を辞めなきゃいけないので、落ちたらどうしようというのが一番大きくて、そうするとどうしてもハードルが高くなります。しかし、弁護士の場合は、落ちたとしても手持ちの事件をそのままやればいいだけですし、選挙に通ったら手持ちの事件をどうするかということさえクリアすれば何とかなりますので。結局、手に職がある人しか立候補しにくいんです。だから、政治家になるのは、弁護士、医者、会社経営者が多いです。そういう意味でも弁護士がなるべきだと思うし、行政の仕事は全て法律に基づいてやっていますから、法解釈ができるというのは強みでもあります。それに、政治の仕事は結局、利害の調整ですから、そういう利害の調整というのは日頃弁護士がやっていることですし、交渉をしなければいけない場面もありますが、弁護士は交渉力もありますので、私は弁護士は政治家に向いていると思います。

三木今までの選挙で一番しんどかったことは何でしょうか。

山下どの選挙にも共通しますが、まずは応援してもらえる人を集めるのが大変です。特に私は今回出るまではずっと無所属でしたから、後援会の会員とか選挙を手伝ってくれるボランティアを集めるのが大変です。あとは細かい事務作業ですね。公職選挙法違反になってはいけないので、チラシの文言も全部私がチェックするので、そういう準備が大変です。

選挙のコンサルという人がいて手伝ってくれるという話を聞きますが、そういう方はついているんですか。

山下そうですね。そういう人に頼んだこともありますけれども、1人か2人来るだけで、いろいろな助言はしてくれますけれども、応援団をまとめたりはしてくれないので、あくまでアドバイザーです。

三木公職選挙法のルールも結構厳しくて、下手したら大変なことになるからね。

山下公職選挙法というのは構成要件が曖昧ですから。

三木当会会員も含めて、弁護士が知事、市長、議員に立候補するときには、ぜひ山下さんにアドバイスを得たらいいですね。

山下選挙のことなら何でも聞いてください。

弁護士・弁護士会への要望

三木政治家の立場から見て、弁護士や弁護士会に望むことはありますか。

山下先ほども言いましたように、政治家にもっとなるべきです。それから、いろいろな行政関係の仕事をぜひ受けてください。あとは、どんどん会長声明とかを出して、世間に正論を吐き続けてほしいと思います。どうしても世論というのは一方向に行きがちで、あいつが悪いとなると、どうしても人権というのが置き去りになっちゃうじゃないですか。憲法や法律に照らして考えると、そこはちょっと行き過ぎだろうみたいなことを言えるのは弁護士会だと思います。

今回いい経験をさせていただいたのは、日本版DBS制度を検討する有識者会議の委員をさせてもらったことです。これは、子ども関連の仕事に就ける場合は、雇う側に応募してきた人の性犯罪歴の有無の照会を義務づけるという制度でして、その制度設計をする委員として憲法や刑事訴訟法等の学者の先生らと議論させていただきました。もちろん性犯罪を防止するという観点から、性犯罪歴のある人を子ども関連職種から排除しなければならないという要請はあるのですけれども、社会復帰を阻害してはいけないということもある。性犯罪歴というのは最もナーバスな情報でして、それを民間人が照会するという制度ですから、日本の刑事政策からしたらかなりの転換だと思います。学者さんは私と同じ意見だったんですけれども、その適用範囲を基本的に前科に限定しようと。性犯罪歴の照会を義務づけるのは、学校法人、あるいはこども園などを運営している社会福祉法人など法律で業務がちゃんと規定されているものに限定しようと、有識者会議の意見はそうなったのです。ただ、与党に上げたら、つい先日報道されていましたが、ある有名塾の講師が盗撮したという事件があって、塾というのは根拠法令がないために原案では対象外だったんですが、塾も対象にすべきじゃないかということを言われたり、不起訴にしたこととか懲戒免職の処分歴という前歴も照会対象にすべきだという意見も出て来ました。しかし、それに対しては、不起訴処分というのは司法判断を経ていないから、本当にその事実認定が正しいかどうかということの担保がないし、懲戒処分というのも間違うこともありますから、有識者会議ではそこまで照会の対象に含めるのはどうかという意見になったのです。

今、子どもに対する性犯罪が増えていますから、どうしても政治家の目はそっちに行きますよね。当然、性犯罪歴のある人に厳しくしたほうが世論受けするので、国会の議論はそちらに流れるんです。

性犯罪の予防はもちろん重要ですが、更生という視点も重要ですから、やはりそういうところは弁護士会に冷静な意見を言ってもらいたいと思います。

若手弁護士へのメッセージ

三木最後に、若手弁護士へメッセージをお願いします。

山下私は最後の2年修習で、私らの時代ぐらいまでが古きよき時代で、同期のつながりとか、弁護士会の委員会や弁護団、会派のつながり、そういう割と濃い人間関係があり、よくも悪くもギルド集団みたいなところがあったと思いますが、会員の数が増えていくと、どうしても弁護士同士の関係が希薄になりがちで、先輩から指導を受ける機会も減りつつあるんじゃないかという気もしていますので、若手の先生はもうちょっと泥くさい付き合いを先輩や同僚の弁護士としたほうがいいんじゃないかなと思います。委員会活動や弁護団活動、会派活動など、すぐに役立つとは限らない活動でも、長い弁護士としての職業人生を見据えたら絶対役に立ちますから、そういうのにぜひ参加していただきたいと思います。

あと、県庁の職員でもそうですが、弁護士でもメンタルをやられる若い人が結構多いらしいので、そういうのも同期の弁護士や先輩後輩の弁護士とのつながりの中で、愚痴ったりして解消できる部分もあると思います。

三木引き続いて頑張ってください。

山下ありがとうございます。

三木本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

2023年(令和5年)10月2日(月)

インタビュアー:岩井 泉
山岸正和
米倉裕樹
林 尚美

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