自己破産記事 検索サイトに 削除の要請は可能?

Q. 私はある老舗旅館の二代目でしたが、経営に失敗して自己破産し、メディアでも報じられました。その後、知り合いの旅行会社に入り、今は役員として人生をやり直しています。ところが、今でもインターネットの検索サイトに私の名前を入力すると「○×氏 自己破産」という当時の新聞記事が出てくるのです。削除を要請したいと思っていますが、できるのでしょうか。

■現状困難、忘れられる権利提唱も

A.  自己破産は直接に個人の名誉、信用に関わることです。自己破産したことを他人にしられたくないと思うのは当然の心情で、法的保護に値します。ただし、破産者は官報で公告されますし、自己破産が社会に与える影響を考えますと、こうした情報を実名で報道することが全く許されないわけではありません。
 判例に基づいて説明しましょう。前科を著作物で公表されたことが問題となった「ノンフィクション『逆転』事件」という訴訟があります。1994年2月8日の最高裁判決は「みだりに前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有する」との判断を示しました。その一方、「実名を使用することの意義及び必要性を併せ考えることを有する」とも判示し、表現の自由との調整を図ったのです。
 こうしたことから、過去に自己破産した事実がインターネットのブログや掲示板などでみだりに公表された場合には、プライバシーが侵害されたと言えるケースも多いと思われます。そうした際は、プライバシー侵害を理由として発信者やプロバイダー(接続業者)に削除を求め、場合によっては損害賠償を請求します。
 一方、過去の新聞記事については、記録的意味や知る権利の観点から、記事そのものが存在し続けたとしてもプライバシー侵害とすることは困難でしょう。記事そのものについて、新聞社やプロバイダーに削除を求めたとしても、応じてくれる可能性は低いと考えられます。このようなケースに対応するため、ネット上での自己の個人情報について削除を求めることができる権利として「忘れられる権利」が提唱され、EUの司法裁判所は忘れられる権利を認めています。日本では下級審で認めた例がありますが、最高裁は独自の権利として認めていません。検索結果として表示される5年ほど前の児童買春の逮捕歴の削除を求めたケースで、最高裁は削除を求めることが出来る基準をあげています。最高裁は、「その者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、前記記事等の目的や意義、前記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、前記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができる」(平成29年1月31日第三小法廷判決)と判示し、結果として削除を認めませんでした。

<回答・奥村裕和弁護士(大阪弁護士会所属)>

※記事内容は掲載日時点のものであり、現在の制度や法律と異なる場合もございます。

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